2020年に間に合う? 多言語化との向き合い方
多言語化で予算を組み立てる際は、「多言語化する目的」を吟味する必要があります。目的の重要性によって、予算のかけ方が変わるからです。本質的に問題を解決したいなら、目的ありきでやるべきことを整理しましょう。予算ありきで整理すると、根本的な問題解決ができない対応になりかねません。
もちろん、予算が限られ、納期が迫る案件では、こうした話が遠回りに聞こえますが、本質的な解決を目指した最善の状況を意識しながら、一方で現実的な折り合いを探るほうが、予算先行で無理やり進めるより、生産的です。
最近は特に、私たちのもとにもWebサイトの多言語化の問い合わせが増えています。2020年の東京オリンピック開催を控えて、少し早めに多言語サイトを公開したい、という狙いがあるからでしょう。新年度が始まる前の2019年3月末までに、残っている予算で始めておきたいという狙いもあるようです。
詳細は後述しますが、翻訳を含めた多言語化は、一定の予算と時間がかかるという前提を、まずは共有しておきたいです(01)。きちんと対応したい場合、この本誌が発売する10月中~下旬にプロジェクトを開始しておければ、ギリギリ年度末に間に合うかどうかだと思ってください。
割り切った利用ならGoogle翻訳も選択肢の1つ
ここからは、具体的に予算別、サービス別で考えられる方法を解説します。サービス、手段の種類は、大きくは自動的な機械翻訳か人間の翻訳かの2種類に分けられます。さらに限られた言語の翻訳だけを行うのか、複数の多言語の対応で、かつ言語ごとで最適のUXとなっているサイト制作を望むのかで、適した方法は変わります。ここまでの判断に、用意できる予算が加わって、現実的に進めるべき方法を模索することになります(02)。
各論を見ていきましょう。機械翻訳だと、無料で利用できるGoogleの「ウェブサイト翻訳ツール」が一般的です。例えば、個人ブログの翻訳や、取り急ぎ外国語で内容を開示したいケースで、部分的、限定的に使う場合には利用して支障ないでしょう。自治体や官公庁など、特に予算の使い方がシビアに問われるケースでの利用も散見されます。
もちろん、数年前に比べると精度は大きく向上していますが、そのまま利用するには不十分でしょう。内容を理解してもらう訳文レベルでいいならともかく、ターゲットユーザーの観点を意識した読みやすい訳文レベルを求める場合、そのままでは厳しいです。
また、Googleを利用する場合、大前提として4点の限界があることを知っておいてください。1点目は、そのままでは多言語のSEO対策に有効ではありません。2点目は機械翻訳なので直訳的であること。意訳が必要なケースには向きません。3点目は、GoogleのAPIをサイトに組み込んで利用する場合、中国圏では対応できません(中国ではGoogleをはじめ、海外系サービスの利用が制限されています)。4点目は、サポートがありません。商用目的で十分な翻訳の品質を確保したい場合、法人向けとしての活用は不向きと考えます。
所在地や簡単な情報の開示など、割り切った利用ならばいいでしょう。専門性の高い内容、会社の理念など意訳すべきコンテンツには、きちんと翻訳できる人材の力を借りたいところです。
クラウドサービスを利用するならどこまで品質を求めるか?
昨今では、さまざまなクラウド翻訳サービスがあります。一概に優劣はつけづらく、サービスの使いやすさや相性は、一度部分的なボリュームで試しに利用してみるといいでしょう。
全般的に言えることは、1文字●円という料金体系を出していることが多く、リーズナブルでスピーディーに、Web経由で人力翻訳を依頼できることです。例えば、週末に翻訳案件が生じて、週明け早々には訳文が必要の場合、土日に動いてくれて、週明けの手配が可能です。希望の言語も多岐にわたるサービスが多いです。
デメリットは、適切な翻訳者が担当するかがわかりません。サイト全体の翻訳ともなれば、1人の翻訳者がすべてのコンテンツを適切に行えるのか? 翻訳者にも専門性があり、現実的には厳しいでしょう。ある業界のプロモーション向けが得意な人がいれば、IRなど財務に強い翻訳者もいます。使い分けは理想ながら、別々の翻訳者への依頼が生じると、仕上がりの表現やトーンが一定しません。全体の翻訳チェックは誰がするのか? チェックできる人材をサービスとは別に手配の必要も出てきます。
クラウドサービスを利用し、かつ一定以上の品質を確実に担保したいなら、ある程度依頼段階で準備が必要です。翻訳の元素材は、翻訳者が作業しやすい素材(ファイル形式)へと変えておきます。固有名詞や希望の表現をまとめた用語リストも必須です。翻訳で参考にしてほしい情報(該当ページのURLなど)や注意事項も伝えておきます。納品後に備えて、質を確認する校正者、チェッカーの手配も必要です。
過去に利用経験があって、仕上がりが気に入っていれば、当時の担当者を指名できるサービスもありますが、指名料の上乗せも生じるでしょう(03)。条件を加えるほど、想定以上にコストや期間がかかることも覚悟してください。
質を求めるなら、翻訳会社という選択肢も
確実な翻訳を望む場合は、大手人材派遣会社や翻訳会社の派遣部門に問い合わせる方法もあります。高単価ながら、厳しいレベルチェックを経た人材、案件の内容にあった翻訳者の紹介を受けられますし、作業の進捗を確認しながら進められるメリットもあります。
また、総合的に外国人向けの最適なWebサイトを制作したいなら、多言語化の知見があるWeb制作会社に依頼しましょう。
翻訳“だけ”の対応ではなく、効果的な多言語サイトを制作
ここからは、実際にクライマークスが現場で行う内容を例に、お話をします。まず、「目的」と「ターゲットユーザー」を洗い出し、対象コンテンツを適切に翻訳できるパートナーを選定・連携しながら、効果的なコンテンツを検討・制作します。例えば、専門性が高い内容なら、適宜外部機関への協力も視野に入れます。翻訳の品質を担保するチェッカーも別に手配して、マーケティング対策が必要なら、海外マーケティングに精通したパートナーと連携します。これらをWeb制作会社が一元管理して進められるのが最大のメリットです(04)。
日本語サイトのデザインを踏襲し、翻訳だけしたミラーリングサイトを目にしますが、例えばインバウンドユーザー向けにしたいなら、国・地域や志向に応じてコンテンツの最適化(ターゲットユーザーが知りたい情報の厳選)が必要です。訪日前に母国で下調べする情報と、旅先で知りたい情報では欲しい情報が異なりますし、利用シーンに応じたデバイスごとの最適化も重要です。
効果の最大化を目指すのであれば、予算と期間は必要ですが、04は確実で有効な選択肢と考えます。

- 教えてくれたのは…塩田 壮雄
- (株)クライマークス プロデューサー https://www.climarks.com/

- 教えてくれたのは…塩田 壮雄
- 大槻 俊幸 (株)クライマークス ディレクション部シニアマネージャー チーフディレクター