けろけろけろっぴ事件とは? 「盗作」を疑われた時、あなたならどうする? 事例詳細|つなweB

けろけろけろっぴ事件の概要

けろけろけろっぴ事件とは、平成十二年、イラストレーターと株式会社サンリオの間で、著作権侵害の有無について争われた裁判です。判決は原告側の請求が棄却され、訴訟費用は原告負担となり、実質的にサンリオの勝訴で終わりました。

事の発端は、カエルをモチーフにしたイラストレーションを描いたアーティストが、「自分の作品を盗作したのではないか?」とサンリオを訴えたことです。判決では、かえるを擬人化するアイデアそのもの自体が著作権侵害にはならない事、アーティストの絵とサンリオのキャラクターデザイン「けろけろけろっぴ」を比較しても類似性が認められない事が理由として挙げられました。

平成一二年(ワ)第四六三二号 損害賠償等請求事件
(口頭弁論終結日 平成一二年七月四日)
判決文「第四 当裁判所の判断」より抜粋

本件著作物の各著作物と被告図柄の各図柄を個々に比べた場合には、目及び口について部分的に共通する点があるが、その場合でも、共通する部分の細部は異なっているし、共通する部分以外の部分には大きな相違が存することが認められる。

したがって、本件著作物と被告図柄の間の共通点は少なく、全体として受ける印象もかなり異なっているということができるから、本件著作物と被告図柄の同一性を認めることはできないし、被告図柄から本件著作物の表現形式上の特徴を直接感得することもできない。

よって、その余の点について判断するまでもなく、被告図柄が本件著作物を複製又は翻案したものということはできない。

Text:つなweB編集部

知的財産権にまつわるエトセトラ

 2020年の東京五輪のエンブレム問題は、使用中止が決定されましたが、裁判はまだ続くようです。今回に限らず、クリエイターの世界では盗作疑惑はよくあることです。しかし、他方で「模倣なくして創造なし」とも言います。では、「盗作」として著作権侵害になるのはどのような場合でしょうか。

 問題になるのは複製権と翻案権です。複製権は他人の作品をそのまま真似した場合のこと、翻案権は他人の作品の表現を維持しつつ、新たな表現を付加したパロディ作品のような場合に問題になります。どちらも新たな作品に他作品の“オリジナリティのある表現”が維持されているかが重要になります。これを複製権では「同一性」、翻案権では「類似性」といいます。前号で解説した、ごく普通のスナップ写真の場合は、オリジナリティのある表現の範囲が狭いため、そのまま複製利用したデッドコピーを除いて、他作品のオリジナリティのある表現が自分の作品に維持されているとは評価されないわけです。

 別の裁判例を紹介しましょう。(株)サンリオのキャラクター「けろけろけろっぴ」(左)が、自身のキャラクター(右)の著作権を侵害するとして提訴した事件です。みなさんはこの二つに同一性・類似性はあると思いますか?

 判決では、輪郭の線の太さ、目玉の配置、瞳の有無、顔と胴体のバランス、手足の形状、全体の配色などにおいて、表現が異なることなどを理由に、同一性・類似性がないとして著作権侵害が否定されました。カエルを擬人化してイラストにしようとすれば、ある程度は似てしまうことが避けられないことから、オリジナリティのある表現を限定的に捉えたのでしょう。

 複製権・翻案権侵害のもう一つの要件は、他人の作品に依拠していること(依拠性)です。オリジナル作品でありながら、思いがけず他人の作品と似てしまうということは避けられません。そんな場合まで違法となるのでは安心して創作活動ができませんから、他作品に依拠せずオリジナルであるなら、結果的に似てしまっても著作権侵害にはならないわけです。では、オリジナルであるのに、他人から「盗作だ」とクレームを受けた場合はどのするのが良いでしょうか?

 法律的には、両作品は似ていない(同一性・類似性がない)、そして相手の作品を知らない(依拠性がない)という反論をすることになります。しかし、このような反論は紛争の解決という意味ではあまり有効ではありません。なぜなら「盗作だ」と言う相手に「似ていない」と返すのは、火に油を注ぐだけでしょう。それに自分の作品のことを「知らない」と言われたら「じゃあどうやって作ったんだ」と追及したくなるはずです。大切なのはどんな試行錯誤を経て作品ができたのか、創作過程をていねいに説明することだろうと思います。オリジナルであることが理解されれば、おそらく相手も納得をするはずです。紛争を無用にこじらせるのを避けるためにも、法律論にかたよらず、クリエイターとして相手の心情にも配慮した対応をすることが肝要でしょう。

(株)サンリオのキャラクター「けろけろけろっぴ」(左)が自身の著作物(右)の盗作だとして訴えられた事件 (第一審東京地裁平成12年8月29日判決、東京高裁平成13年1月23日判決)

 

Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2003年骨董通り法律事務所設立、2009年より島根大学法科大学院教授。著書に『出版・マンガビジネスの著作権』社団法人著作権情報センター(2009年)など。 http;//www.kottolaw.com/
桑野雄一郎
※Web Designing 2015年10月号(2015年9月18日発売発売)掲載記事を転載

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