スマホとSNSの普及は顧客体験を大きく変えました。企業はこの時代の変化にどう対応していけば良いのでしょうか? SNS担当者の日常の行動から顧客体験向上につながるヒントを探してみましょう。
【SNS担当 仲野ヒトミ】
とある中堅メーカーに勤務する仲野さんは、ある日SNSアカウントの担当に指名されました。企業アカウントの「中の人」としての活動をウォッチしていきます。
動画を持たないことが企業の「リスク」に
Twitter、Facebook、Instagram、LINEといったSNSメディアの普及は、企業と顧客との接点を増やしました。しかし、企業アカウントでの活動を自社の顧客体験向上にどうつなげていくかというコミュニケーションデザインを、きちんと設計しているケースは必ずしも多くありません。
スマートフォンやWebテクノロジーが進化して新しいSNSが次々と登場しても、企業のSNS担当者、いわゆる「中の人」が取り組むべきことは本質的には大きく変わらないと語るのは、企業向けSNSマネージャー養成講座で指導を行なっている田村憲孝さんです。
「SNSで何ができるのかではなく、顧客に対してしたいことをSNSでどう提供するかという発想で考えてください。つい忘れがちですが、画面の向こうにいるのは『顧客』という総体ではなく、一人ひとりの感情を持ったお客様です。これはあなたの会社のアカウントにフォロワーさんが何人いようと変わりません。むしろ、これまで店舗やホテルの従業員であれば当たり前のように行っていた“おもてなし”が、SNSでも同じように行える時代になったという捉え方のほうが正確ではないでしょうか」
投稿は1日5回以上!トンマナは事前に決めておく
とはいえ、SNSに不慣れな担当者がいきなり企業アカウントの運営に取り組むのはリスクが伴います。SNS運用の目的の明確化、投稿のトンマナ(トーン&マナー)や運用時の社内での情報連携、危機管理のポリシーなどをソーシャルメディアガイドラインとして準備しておくことが必要です。
また、SNSの種類によって中心となる利用者の世代やパーソナリティが異なります。そのため、運用の目的によってどのSNSに主軸を置くかは異なってきますが、リソースの許す限り多くのSNSを利用することをおすすめすると田村さん。
ただし、ここで重要なのは、それぞれのSNSに特有な「空気感」を読むことです。
「そのためには、まず個人のアカウントでそのSNSを利用してみるのがいいでしょう。例えばTwitterであれば1日5ツイート以上を目標に投稿してみれば、どういう内容とタイミングであればフォロワーの反応が得られやすく、どのような振る舞いが嫌われるのかが肌感覚でもわかってきます」
そして、企業のTwitterアカウントであれば、商品の紹介などある程度定型的な投稿と、フォロワーとのやりとりのような非定型のコミュニケーションをバランスよく組み合わせることで、専任ではないSNS担当者でも無理なく更新を続けられます。
「商品の宣伝はSNS広告でも行えますので、フォロワーを楽しませたり役立つ内容を発信していくのが基本です。タイムラインで話題のトレンドワードに絡めてツイートしたり、著名人や他社の企業公式アカウントの発言をリツイートやリプライ(返信)することでもアクティブさを示せます」
「アクティブサポート」で顧客の信頼を勝ち取る
では、SNSを介して接点を持った顧客の体験を向上させていくには、どうすればよいのでしょうか。
「SNS以前に、自社のサービス水準をいかに高めていくかに尽きます。例えば、顧客からの問い合わせに対して徹底的なオンラインサポートを実施したことで全米売上ナンバーワンになったネット靴店“ザッポスの奇跡”の事例は広く知られているところです。SNSであれば、単に問い合わせに対して返信するだけでなく、不満やトラブルを発見したら企業側から話しかけて一緒に課題の解決に取り組む『アクティブサポート』を実施している企業アカウントも増えてきました。もちろん、この手法がすべてのケースに当てはまるわけではありません。しかし、顧客の声にすべて応えることはできなくても、SNSでの発言には事業を改善するためのアイデアやヒントがたくさん含まれているという点に注目すべきでしょう」
SNSで顧客の生の声を聞き、何を求めているかを発見することで自社の製品やサービスの改善につなげ、売り上げを伸ばしてさらなるファンを獲得していくという好循環をつくることこそがSNSマーケティングの理想的な形と語る田村さん。
「特にTwitterのように双方向性の強いSNSでは、顧客は企業アカウントを1人の『人格』を持った人間として見てきます。実際には複数人のチームで運用していたとしても、そこには企業を代表する『中の人』としての一貫した立ち居振る舞いが求められます。最初に企業側が顧客一人ひとりの顔を見て仕事をしなくてはならないと言いましたが、それもまた中の人に欠かせない『資質』のひとつです」