おかげさまで本連載も7年目を迎えました。「こんなことに気をつけないと著作権侵害になる」という例をたくさん紹介してきましたが、そういった場合でも著作権者から許可をもらえば作品を利用することができます。
ところが、作品によっては著作権者や亡くなった著作権者の相続人が誰なのか、またどこにいるのかがわからない場合があります。このような作品のことを英語の「Orphan works」の訳語で孤児著作物ともいいますが、ここでは権利者不明著作物とします。
権利者不明著作物は、使いたくても許可をもらうことができません。だからといって許可をもらわずに使ったら著作権侵害になってしまいます。著作権の保護期間が終われば侵害になりませんが、権利者不明著作物では著作者の死亡した時期がわかりませんから、死後70年という保護期間がいつ終わるのかもわかりません。著作権者が自由に使ってほしかったり、保護期間が終わっていたりする作品でも、著作権侵害のリスクを避けようとするあまり、使われなくなってしまいます。これでは著作権法の目的である文化の発展が妨げられてしまいます。
そこで設けられているのが、裁定制度です。これは、権利者と連絡を取るための合理的な努力を払っても連絡がつかなかったという場合に、文化庁長官の裁定を受けて、使用料相当額の補償金を供託すれば、著作権者の許可をもらわずに作品を利用しても著作権侵害にならないという制度です。手続きの詳細は文化庁のWebサイトに掲載されている裁定の手引に照会されています。
この制度は、申請すれば裁定が出る前に利用を開始できるようにしたり(申請中利用)、権利者と連絡を取るための合理的な努力の内容が緩和されたりするなど、利用しやすくするための改正が重ねられてきました。そのこともあってか、文化庁のデータベースを見ると、1972年~2021年2月1日の実績は41万437件となっています。
ただ、デジタル化が進むにつれ、作品を利用する主体、利用の方法、分量、スピード感も急激に変化をしてきています。また、著作物が海外で利用される場合も増えてきています。個々の作品について、権利者と連絡を取るための合理的な努力を払ってから文化庁に裁定申請する現在の裁定制度では、このような状況において権利者不明著作物の利用を促進できないとの指摘もあります。
そのため、現在内閣府を中心に、補償金を支払いさえすれば利用できる制度、JASRACのような集中管理団体に使用料を支払えば利用できる制度など、裁定を使わない手段、そして裁定制度自体の抜本的な見直しの検討が始められています。現在の裁定制度よりさらに簡単な手続きが実現する日も近いかもしれません。