いま、企業におけるInstagram活用に注目が集まっています。そこで、本連載ではアライドアーキテクツ株式会社にて、SNSプロモーション支援領域の統括およびInstagramプロモーションツール「echoes on Instagram」のプロダクトを開発を行っている井出修二朗さんに、「Instagramで認知・集客・販促効果を高める方法」について解説していただきます。
前回の記事では、企業のInstagram活用における「メリット」と「課題」について解説しました。Instagramの特徴や機能は企業のマーケティング活動に大きな活用メリットがある一方で、運用面については自社の人材やコンテンツリソースを考慮して活用方針を検討する必要がある、とお伝えしました。それでは、Instagram活用の方向性にはどんなものがあり、どのような指標を持って施策を実施していくべきでしょうか。
今回は、Instagram活用の分類を3つに分類してご説明し、それぞれの達成度を測るKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)と、その中間指標となるKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)について解説します。
Instagramマーケティング活用の3つの分類
1. アカウント運用型
Instagram活用において非常に多くの企業が取り組んでいるのが「アカウント運用」です。企業公式アカウントの投稿を増やすことで、新規フォロワーを獲得してリーチ・エンゲージメントを高める。その結果、企業・ブランドの認知向上や購買成果に繋がっていく、というものです。
しかし、投稿を増やす「だけ」ですべての企業やブランドが認知や購買の成果を上げられるのか? というと、施策規模の面でかなり難しいと言えるでしょう。
前回の記事でも述べた通り、Instagramのユーザーは「興味関心のあるアカウントを選りすぐってフォローする」傾向があります。そのためフォロワー数を大きく伸ばすことは容易ではありません。なぜならば、数多くいる優れた
Instagramのインフルエンサーやクリエイターと競っても勝てるコンテンツの「質」と、コンテンツを継続的に発信する「量」が求められるからです。あるいは、競争の少ないニッチな領域に特化したコンテンツを発信することで勝機を見出すこともできますが、その場合、規模は限定されることになります。
そのため、アカウント運用が向いている企業の傾向としては、既に認知度が高く、顧客数の多い大手ブランドや小売企業(フォロワー化する潜在ユーザーが多い)が挙げられます。あるいは、ニッチな領域で自社独自のコンテンツが潤沢にあり、小規模でも問題のない新興ブランドや中小企業、ということになります。
また、広告を利用しないオーガニック投稿だけで新規に接触(リーチ)できるユーザーの規模には限界があります。それゆえ、「アカウント運用」と親和性の高い活用目的は、「既存顧客との接触頻度の向上」や「リピート購入」「LTVの向上」など、新規顧客ではなく既存顧客向けになると言えます。
このことは、「認知度を上げたい」「新規顧客を増やしたい」ブランドや企業が、「広告予算が少ないので、まず投稿施策のみのアカウント運用から始めよう」という方針を取ることは、誤った選択になる可能性が高い、と言い換えることもできます。
特に、継続的に投稿をするための十分なコンテンツが無い場合、「フォロワーやリーチが増えない=その先の認知向上や購買成果も見えない」状態が続く一方で、コンテンツ制作のコストや運用のための人材リソースが掛かり続ける、という悪循環に陥ってしまう可能性があります。
2. プロモーション型
「新規顧客を増やしたい」ブランドや企業におすすめしたいのは、プロモーションを中心に据えた活用です。認知を高めて購買ユーザーを増やしたいブランド単位でInstagramにアカウントをつくり、商品プロモーションのプラットフォームとして広告キャンペーンを複数回に渡って継続的に展開する方向性です。
もちろん広告プロモーションには費用が掛かりますが、単発のプロモーションを一定の期間ごとに行うことで、恒常的なコンテンツ制作コストや運用人材のリソース張り付きを避けることができます。結果的に、アカウント運用型を選択するよりもローコスト・ハイパフォーマンスになるケースが多くあります。
ここで「プロモーション型」を実施する上で重要となるポイントを3つご紹介します。
A. Instagram広告の活用
広告でリーチのボリュームを担保するとともに、ターゲットが限定される商品である場合は、Instagram広告のターゲティング精度を活かしてターゲット層を絞り、効果的な配信を行う。信頼できるインフルエンサーがいる場合は、広告と合わせてインフルエンサーを起用することも検討します。
B. フォロワー転換やUGC創出も合わせて実施
広告による短期の認知獲得や態度変容を図るだけでなく、広告キャンペーン経由でリーチしたターゲットがフォロワーになってくれるようなキャンペーン形式を採用し、オーガニック投稿でも再接触可能にすることで掛け捨ての施策にせず、キャンペーンの効果を長期にわたって得る。
また、サンプリングなどの体験型プロモーションの場合は、キャンぺーン参加者にUGC(User Generated Contents)投稿を促すことでリファラルでのリーチ拡大を図り、キャンペーンの効果を拡大する。
C. キャンペーン頻度の向上
自社商品を提供するプレゼントキャンペーンやサンプリングキャンペーン、UGC創出を図る投稿キャンペーンの場合は、キャンペーン事務局運営にコストやリソースが必要となる。そのため、1回当たりのキャンペーン運用コストを抑え、低負荷で頻度高くキャンペーンを実施するために、プロモーション管理ツールを導入し効率化を図る。
3. アンバサダープログラム型
既にコアなファンがおり、商品の使用期間や購買サイクルが長い企業・ブランドにおすすめなのが、自社商品を推奨してくれる人を増やすアンバサダープログラムです。Instagramはコミュニケーションのプラットフォームとしても非常に優れているため、ファンと繋がり、UGC投稿を促すアンバサダープログラムの実施に向いています。
UGCは、ユーザーのフォロワーに直接届くため、リーチが自社アカウントの規模に制限されません。自社商品の購入者にアンバサダーとしてUGC投稿を定期的に発信してもらうことができれば、予算規模が小さく、コンテンツ制作にコストを掛けられなくても施策規模を拡大できる可能性があります。
一方で注意したい点が3つあります。
①アンバサダーの数を増やす
②アンバサダー1人当たりのUGC投稿を増やす
③UGC、1投稿当たりのリーチを増やす(フォロワーの多いアンバサダーを起用する)
規模拡大のためにはいずれかの施策が必要になります。①②の場合は必要となるアンバサダーとのコミュニケーション量が膨れ上がっていくこと、③の場合はアンバサダーとしてフォロワーを多く抱えるインフルエンサーを起用することにより、結果としてそのためのコストが増大していく可能性もあります
Instagramマーケティング活用のKGI・KPI
それでは、この3つの分類におけるKGI・KPIは、どのように設定すべきでしょうか。
前提として、KGIは投資対効果を測るため「ビジネス貢献価値」を数値化した指標であるべきですが、チャネル別の購買が計測可能な「自社EC」でのInstagram活用ではない場合、KGIの設定と計測は非常に難しい課題になります。
自社ECでの測定以外でInstagram施策のビジネス貢献価値を可視化する手段としては、アンケートベースでの態度変容調査が挙げられます。「Instagram施策に触れた人」と「触れていない人」を分けて分析する方法や、「Instagram施策前後での数値変化」を分析する方法などがありますが、いずれも施策規模が大きくないと有意差が見えない可能性があります。
そのため重要なのは、Instagram活用単体でマーケティング成果を得ようとするのではなく、マーケティング戦略全体を通して、他の施策とInstagram施策の相互作用で成果を拡大すること、また、その過程で定量だけでなく定性面も含めてInstagram施策の評価を行うことだと言えるでしょう。
A. アカウント運用のKGI・KPI
KGI例:
再購入意向率
リピート購入数
LTV
KPI例:
フォロワー数
エンゲージメント率(いいね+コメント数+保存数/フォロワー数)
アカウント運用は、既存顧客と繋がり接触頻度やエンゲージメントを高め、リピート購入やアップセル・クロスセルを促し、LTVを上げることに向いています。そのため、ECにおいては、Instagramを流入チャネルとしたユーザーの「リピート購入数」や「ユーザー当たりの購入金額」、アンケートベースの計測においては「再購入意向率」や「平均購入回数」などがKGIの候補になります。
またKPIについては、Instagram上で繰り返し接触が可能な母数となる「フォロワー数」、投稿の質的な指標となる「エンゲージメント率」、より購買に近い行動を測る指標となる「ウェブサイトクリック数」を設定することをおススメします。最近では、Instagramの表示アルゴリズムに大きな影響を与えると言われる投稿の「保存数」をKPIにして運用するケースも増えています。
B. プロモーションのKGI・KPI
KGI例:
想起率
購入数・購入金額
来店数
KPI例:
リーチ数
クリック数/アクション数
認知プロモーションであれば「想起率」、販促プロモーションであれば「購入数・購入金額」や「来店数」などがKGIの候補となります。非ECにおける活用で購買まで計測する場合は、ブランドであればレシート投稿応募などマストバイ型のキャンペーンを実施する、小売店舗であれば消込型のクーポン利用を計測する方法が挙げられます。
InstagramのKPIとしては、キャンペーン認知の規模を測る「リーチ数」、行動に繋がる歩留まりを測る「クリック数やアクション数」、またキャンペーンの副次的な効果を測るサブKPIとして「フォロワー数」や「UGC投稿数」が挙げられます。
C. アンバサダープログラムのKGI・KPI
KGI例:
NPS(ネット・プロモータースコア)
KPI例:
アンバサダー数
UGC投稿数
延べリーチ数(UGC投稿数×投稿者のフォロワー数)
アンバサダープログラムのKGIとして利用される指標に「NPS(ネット・プロモータースコア)」があります。顧客の推奨度合いを測る指標で、商品・サービスの継続利用と相関するため、企業によってはこの指標の推移をウォッチして改善を図ることで、ビジネス的な貢献に繋げることができます。
InstagramのKPIとしては、まずは「アンバサダーの数」になります。そのほか、アンバサダーの推奨行動の量を測る指標として「UGC投稿数」、その効果規模を測る指標として「延べリーチ数(UGC投稿数×投稿者のフォロワー数)」がKPIの候補となります。
まとめ
ここまで、企業のInstagram活用における分類とそれぞれのKGI・KPIについて解説しました。上記に挙げた3つの分類は、それぞれ相反するものではないため、組み合わせて実施することももちろんできます。重要なのは、自社の課題や活用目的、保有リソース(コンテンツ、人材、バジェット)に合わせた戦略を策定し、リソースの最適分配を図って施策効果・効率を最大化すること、またInstagramだけでなく他の施策と合わせて戦略に沿ったKGIを策定することです。その上で、相関する指標をKPIとして計測し、施策の改善を継続的に行うことになります。
とはいえ、このような戦略策定は非常に難しく、活用を続けながら中長期的に最適化を図っていく必要があるでしょう。そこで次回はもう少しライトに、大きな負荷をかけることなくInstagramでの集客・販促効果を感じられる「おすすめのInstagram施策」についてご紹介します。