フレームワークで何がしたいのか?
3C分析やSWOT分析などを交えた企画書を見る機会が増えてきた。こういう企画書を見るたびに「なぜこのフレームワークを使っているのか」「フレームワークを理解して使っているのか」という思いが常に頭をよぎる。
フレームワークは、見映えを良くするために利用するツールではない。適切な「施策」や「行動」に結びつかないのであれば、分析とは言えず、まったく意味がない(01、02)。
こういった問題はフレームワークそのものから生じるのではなく、使い方自体に原因がある場合が多い。
マーケティングの世界には数多くのフレームワークがある。その多くは思考補助ツールとして存在している。これらのフレームワークを使いこなすには、利用するにあたり、あらかじめポイントをおさえておく必要がある。それが「目的の明確化」「適切な選択」「理解と共感」の3つだ。本稿では、3つのポイントを軸に、成果につなげるためのフレームワークの利用法を改めて考えてみたい。
フレームワークを利用する「目的の明確化」
最初に、フレームワークを使う目的を明確にしたい。言い換えれば、マーケティング自体の目的を明確化する必要がある、ということである。フレームワークにはさまざまな種類があり、それぞれ分析できる内容が異なる。つまり、目的にあったフレームワークを選ぶためには、まずはその目的自体を明確化しなくてはならない。
例えば、「打ち手を整理して考えたい」という目的に、3Cを選ぶのは間違いである。打ち手を整理するなら、4P(商品、販促、流通、価格)を選ぶほうが整理され、網羅的に理解しやすい。
どんな目的で使いたいのかを明確にするということが、フレームワークを使いこなすための、最初の一歩となる。仮に、目的を明確にしないままフレームワークを使った企画書があるとすれば、マーケティングという観点からすると明らかに間違っている、ということになる。
目的に応じた「フレームワークの適切な選択」
フレームワークを使う目的が明確になったら、次はフレームワークの選択である。多種のフレームワークから、どれを選択するか、そこが大きなポイントとなる(03)。
フレームワークを扱った書籍を見ると、なかにはその数が50や100と紹介されているものもある。フレームワーク選びでは、目的に合致しているかという点に加えて、以下のような判断基準を持つと正しい選択がしやすくなる。
A_自分自身が納得できる
B_わかりやすさがある
C_有名無名、という基準を用いない
D_著名人の基準を用いない
E_実際の行動や施策につなげやすい
特にCの「有名無名、という基準を用いない」というのは重視していただきたい。例えば、「強みを知りたい」という目的で自動車業界を例にとって自動車の強みをSWOT分析したとする。その場合、価格が安いのは「強み」と「弱み」のどちらなのだろうか?
この分析にある「S =強み」については、一つの情報だけで判断することができない。仮に「価格が安いのは強み」とだけ安易に分析してしまうと、その対比として「価格が高いのは弱み」となってしまう。
実際にそんなことはなく、自動車業界においては価格の安い車から高い車までさまざまな価格帯の商品が消費者のニーズによって棲み分けられている。
上記の例のような使い方では、前提条件として、例えば「どんなニーズに対して」という観点が欠落していると、意味のない分析になってしまうことを示している。
「安ければいい」というニーズに対しては「価格が高い」は弱みになるし「高くても他人とは違うものが欲しい」というニーズに対しては「価格が高い」は弱みにはならない。つまり、「強みを知りたい」という目的に対して「SWOT分析」の使い方を間違って用いると、正しい分析が行えなくなってしまう。
「強みを知りたい」のであれば、SWOT分析よりは、他のフレームワークを使うことをお奨めする。それでもSWOT分析を利用したいのであれば、先に挙げた「どんなニーズに対して」というような前提条件を明確にした上でないと意味がない分析ができ上がってしまう。
他にも有名なフレームワークの中には、開発したご本人が、すでに古くなっている、と表明しているものもある。ぜひ、先にあげた基準を確認しつつ、注意して選んでいただきたい。
理解できて、共感できるフレームワーク
フレームワークから導きだれた結果は、その過程も含めて、クライアントに共感してもらうことが望ましい。クライアントに共感してもらえれば、見る方向が一緒になり、同じ成果を目指すパートナーとなり得るからだ。逆に共感されないということは、以下のようなことが考えられる。
・自分自身が理解しきれていない
・自分自身の説明不足
・クライアントが違う考えを持っている
・外注にすべて委託している
自分がフレームワークと、そのフレームワークによって導きだされている分析結果を理解しきれているのであれば、それをクライアントにわかりやすく説明する努力が必要である。また、クライアントが理解した上で違和感を感じているのであれば、そこには掘り下げるべき重要な情報が隠されていたり、自分がまだ理解していないクライアントの事情や情報が残されている可能性があることを、いま一度確認したい。
仮にクライアントが、成果の確認のみで、それ以外はすべてまかせたいという姿勢であったとしても、最低限、自分が使っているフレームワークはしっかりと理解しておく必要がある。
余談だが、フレームワークの特徴を根本から理解できていると、副次的な効果として、PDCAが回しやすくなる。その理由はフレームワークが見直すべき箇所や見るべき場所を絞ってくれることが多いからである。
わかりやすく応用しやすいマーケティングファネル
ウェブ解析で有用なフレームワークのひとつに、「マーケティングファネル」が挙げられる。ゴールまでの各段階に計測数値を入れて、転換率の推移をもとに課題箇所を特定する、という使い方が一般的だ。ウェブ解析士協会の講座でも触れられているように、分析や解析に役立つ考え方だ(04)。このフレームワークは、一見すると使いこなすのが難しそうだが、根本を理解すると、非常にわかりやすく応用もしやすい。そこで、マーケティングファネルにおける分析の鍵となる「段階設計」について考えてみたい(05)。
ファネル分析の段階設計で考えるポイントは3つある。
1つ目は「商材によって段階は変わる」こと。例えば、「家」と「ボールペン」の購買における心理ステップは異なる。おそらく、ボールペンを買うように家を買う人はごく稀であり、商材によって違うという当たり前のことを無視して一つのパターンに当てはめようとすると、無理が出てしまう。
2つ目は「段階設計は人の心の動きをトレースする」こと。同じ商材であったとしても、買う人それぞれの購買心理は異なっている。例えば、同じボールペンでも、こだわって指名買いする人もいれば、どれでもいいという人もいるので、異なる購買心理を同じ段階設計に当てはめるのはNGである。その場合は、異なる購買心理の数だけファネルを作ればよい。もし、同一商品で、異なる購買心理で購入していると想像できる時は、それを踏まえて段階設計を行うようにする。
3つ目は「各段階が測定できる」こと。いくら段階を分けたとしても、それが測定できなければ、PDCAサイクルは回せないだけでなく、回したとしても効果測定ができない。
「欲しい、あるいは買ってくれそうな人に」
「適切なオファー(魅力や価格等)を伝え」
「買ってもらい」「ファンになってもらう」というように、マーケティングは本来シンプルなものである。フレームワークを効果的に使いこなして全体を俯瞰し、どこに力を入れるべきなのかを見直してみることで、事業の成果につなげていただきたい。