チョコレート界のスタートアップ
テクノロジー系スタートアップ、サードウェーブコーヒーに続き、サンフランシスコで静かにブームになっているのがBean to Bar (ビーントゥバー)チョコレートです。日本でも徐々に店舗が増え始めているので、スイーツ好きや流行に敏感な人ならご存じかと思います。
一般によく知られているチョコレートは、発酵・乾燥させたカカオ豆を焙煎し、チョコレートの生地をつくり、そこへミルクやフレーバーなどを加えて完成させます。一方、ビーントゥバーチョコレートはその「カカオ豆 (Bean)から板チョコ(Bar)まで」の製造を一貫して行い、生産者との直接取引により生産地を明確にして、製造プロセスさえも開示し、素材から製造方法までこだわり抜いた高品質のチョコレートを提供するというものです。
一見チョコレートはスタートアップとあまり関係がなそうですが、実はその根底にはスタートアップ的カルチャーが流れています。
ビーントゥバーチョコレートは、今から約10年前、大量生産のチョコレートに嫌気が差したアメリカのITやアート分野など異業種の人々が、自分たちで仕入れたカカオ豆を使って自宅でつくり始めたのが発端だと言います。その発祥からも、Blue Bottleに代表されるサードウェーブコーヒーがスタートアップの起業家たちから絶大なる支持を集め大きなムーブメントになったように、ビーントゥバーチョコレートがアメリカのテックコミュニティの間でブームになっているのがわかります。
ビーントゥバーチョコレートの販売店はすでにいくつか登場していますが、その中でも代表格といえば「ダンデライオン・チョコレート」。2人のIT企業家が2010年にサンフランシスコで創業してまたたく間にヒットを収め、今では日本でも3店舗を構えるまでに成長した人気ブランドです。今回はサンフランシスコのおしゃれなカフェが並ぶミッション地区のValenciaストリート沿いにある同ブランド店舗で働く、ジェニファー・ロイさんに同ブランドの哲学やヴィジョンについてお話を伺いました。
顧客と従業員が至近距離に
ダンデライオン・チョコレートの店内に入ると、木材を基調とした温かい印象を受けるデザインで統一された空間で、まるで自宅にいるような心地よさを感じます。そして気づくのが、「作り手と顧客の距離が近い」ということです。
そこで販売されるチョコレートは産地別で5種類あり、製品の横に生産地・生産者情報が書かれていて製品に対しての興味と理解を深められるよう工夫されています。品質を重視するため、定番商品のみで派手なシーズナルやプロモーションは行ってないとのこと。ちなみに、食器類は日本のものを使用。東京に出店した際に、使用していた食器に惚れ込んで総入れ替えをしたそうです。これらの食器は店頭でも購入することができます。包装紙にもこだわっており、素材はインドでつくられたリサイクル衣料の繊維入りコットンペーパーを使用。
パッケージデザインは各産地のイメージをもとにつくられています。また、チョコレートの食べ方や産地情報のマップが描かれているパンフレット付きで、プレゼントとしてもいいですね。
オープン&シェアで信頼構築
そんなダンデライオン・チョコレートのモットーは“オープン&シェア”。店内はオープンな雰囲気で、飲食はもちろん、チョコレートの製造体験や食べ比べもできます。一連の製造工程が見られる造りになっているのです。材料からつくり方までをすべてオープンにし、多くの人たちにシェアすることをブランドのゴールとしています。
この辺もソーシャルメディアやシェアリングエコノミーに日々触れているサンフランシスコの人たちの価値観にマッチしており、人気の秘密でもあります。通常はどうしても公開したがらないような企業秘密もどんどんシェアすることで顧客との信頼関係ができるのと、ビーントゥバーを一時的なブームで終わらせずに、カルチャーとして定着させたいという思いがあります。
また、情報や手法をオープンにすることで、より多くの人にビーントゥバーの魅力を知ってもらうだけではなく、他にもビーントゥバーのお店が増えれば、大きなムーブメントを起こすこともできます。これが物事を性善説で考えるサンフランシスコ的なコンセプトです。
製造体験では、その材料、つくり方だけではなく、チョコレートの変わった楽しみ方なども紹介しています。お酒とチョコレートを一緒に楽しむ「酒&チョコレート」というクラスもあります。本物志向のサンフランシスコの人たちの心を掴んでいるダンデライオン・チョコレートは、既存の概念に革命を起こすチョコレート界の“破壊的イノベーション”でもあるのです。