はじめなければはじまらない
「自ら書き、発信すること」がオウンドメディアの要件であるが、それを実現する手段は実にさまざまだ。コーポレートサイトをコンテンツ化する場合もあれば、広報・製品ブログ、あるいは特定のテーマを中心にしたWebメディアを立ち上げる場合もあるだろう。また、媒体はWebに限らず、メールマガジンやフリーペーパー、あるいは店舗そのものだって企業の従業員自らがコンテンツを発信するのであれば、それはもう立派なオウンドメディアである。
こうした形態的な理解を踏まえたうえで自社のメディア戦略の方向性を考え、最適な選択肢を取らなくてはならないが、現実問題として人員や予算に余裕がなく、運営のノウハウもないといった理由で周囲に相談もできず頭を抱えている担当者もいるだろう。
だが、ブログ形式のオウンドメディアであれば、運用の人員やコスト、更新の労力を極限まで抑えられると「Six Apartブログ」の壽(ことぶき)かおり編集長は語る。
同ブログは自社製品の広報活動を担う「広報ブログ」とは別にオウンドメディア運営者に向けて役立つ情報を発信しており、実際に編集長みずから1名体制で運用している。費用も人件費以外はほぼゼロだという。
「オウンドメディア運営の目的を明確にし、記事の数ではなく、記事がもたらす効果に注目してメディアを運営しています。単体のメディア力を上げることだけではなく、勉強会運営など対象読者につながるための多様な活動を通して、Six Apartのファンを増やしていきたいと思っています」(壽氏)
プラットフォーム選びは運用の手軽さを重視
ここでは、まず担当者がオウンドメディアをひとりで切り盛りするための基本的な環境構築と知識を整理していく。例えば、あなたが広報や製品マーケティングの担当者としてブログ形式のオウンドメディアを新規に立ち上げるとしよう。予算と人員が潤沢にあれば社内のIT部門や外部の制作会社に依頼することも考えられるが、ここではすべて自力で行う場合を想定してみる。自分でレンタルサーバの管理、WordPressやMovable Typeなどソフトウェア型のCMS導入・カスタマイズまでを問題なくできるのであれば話は簡単で、そのままセットアップして次のステップに進んでもらって構わない。
だが、実際は本業でWebの業務などをしているのでなければ、そうした環境構築の手間は極力かけずにコンテンツの制作や更新に注力したいのが本音ではないだろうか。
その場合、運用コストは多少かかるものの、クラウド型のCMSとオウンドメディア向けテーマの組み合わせが最適解だ。なぜなら、こちらはソフトウェア型よりカスタマイズの自由度は下がるものの、サーバインストールの手間が不要で運用をすぐ開始できるからだ。「Ameba Ownd」「はてなブログメディア」などほかの構築支援サービスを使う選択肢もあるが、業務用途での実績や普及度で選ぶならば「WordPress.com」や「MovableType.net」は利用者も多く、有力な選択肢といえる。
社内リソースでできることからはじめる
ひとまず広報・製品ブログの環境構築を終えたら、CMSを使って実際の記事を投稿していくことになる。あらかじめ方向性を考えていたとしても、多くの場合ここで何をどのように書くべきか迷ってつまづいてしまうことが多いだろう。
特に担当がひとりで記事執筆を行う場合、どうしても手持ちの話題は限られがちだ。ややもすると新商品の紹介や機能紹介、他社製品との比較など自社視点から語られた「告知」記事になってしまう危険性も高い。オウンドメディアは広告のように短期的な成果は得られにくいので、それよりは読者の共感が得られやすく価値のある情報を発信していこう。
もし小規模なブログで社内リソースを活用するのであれば、例えばその会社でなければ知りえないようなノウハウや技術の話題、業界のトレンドなど「濃い」情報が好まれる傾向にある。また、自社では当たり前のような情報でも一般的な読者にとっては新鮮な話題であったということもよくある。読者のよくある疑問・質問にズバリ答えていく記事も人気コンテンツへつながりやすい。壽氏によると「実践的でマネしたくなるテーマ」がコンテンツづくりのポイントだという。
そのほか、その会社や商品のファンを獲得したいのであれば、従業員の仕事ぶりやイベントの様子などを内輪受けにならない程度に紹介していくのもよいだろう。可能であれば、社長や開発担当者など、その会社や製品の価値観を体現するような人物を積極的に登場させていくというアプローチもある。社外やネットから話題を探すよりは、社内をよく観察してテーマを見つけるほうがオウンドメディアの場合は適している。
ひとり担当者が孤立しないために
もちろんここまでの話はひとり担当者にとっては初歩的な段階だ。最初から成果が出ないのが当たり前とはいえ、ビジネスである以上は一定の成果を求めていく必要がある。
コンテンツの充実を図ると同時に、メディアとしての露出拡大や潜在的顧客へのアプローチなど取り組まなければならない課題は山積みだ。メルマガやSNSとの連携、自社ドメイン外での露出拡大などを段階的に施策を打ち、PDCAサイクルを回していかなければならない。それでも「オウンドメディアはコンテンツマーケティングの起点になる」(壽氏)のだから、まずはひとりでも予算が少なくてもスモールスタートではじめてみよう。
もちろん、ひとりでは悩みを相談することも難しく、不安になることもあるだろう。次ページでは同社が主催する「オウンドメディア勉強会」について紹介する。他社のオウンドメディア運営者がどのようなプロファイルでどのような問題意識を持っているかなどをデータから読み解いていこう。