社内断捨離には要注意! 企業内の自炊はNG!? 事例詳細|つなweB

旺文社が全国の高校・大学約500校から入試問題の提供を受けて原本を社内の倉庫で保管していたそうですが、場所を取ること、劣化することから2007年以降はPDF化していました。しかし、その行為が著作権法違反に当たる恐れがあるとの指摘を受けて、すべて削除したと10月に報道がありました。

自分の書類や書籍をPDF化することを「自炊」と言います。書類減量、オフィスの有効活用法としても魅力的な方法ですが、残念ながら企業内での自炊は著作権侵害です。このことに異論はありません。

自炊については複製権が問題となりますが、著作権法上は私的使用目的の複製は複製権侵害にならないとされています。「私的使用目的」とは自分自身、あるいは家族に提供する場合などです。そして、企業内での複製は、どんなに少人数でも、さらに言えば自分自身が使うためであっても、私的使用目的に当たらないとすることで異論がありません。したがって企業内での自炊は複製権侵害となります。報道された旺文社の対応も、このような理解によるものだと思います。

ただ、だからといって社内の膨大な書類の自炊が一切許されない訳ではありません。たとえば、社内で作成した資料など、会社が著作権者となっているものはもちろん自炊できます。また、取引先から提供されたプレゼン資料や、企業が発信しているプレスリリースなどは、自炊について著作権者が暗黙の許可をしているか、そうでないとしても自炊が著作権侵害だと訴えてくることは少ないだろうと思います。

旺文社の事例ではどうでしょうか。学校側が旺文社に問題を提供していることからすると、学校は旺文社の自炊についても許可していたか、少なくとも自炊について著作権侵害と訴えてくる可能性はないようにも思います。ただ、学校の入試問題の中には、国語の問題に使われた文学作品など、学校が著作権者ではないものも含まれています。それらについては学校に自炊を許可する権限はありません。だからといってすべての問題をチェックして、学校が著作権を有していないものだけを削除するのも大変です。旺文社が全データを削除することにしたのにはそういう理由もあるのでしょう。今後は旺文社がどのような対応をとるのかわかりませんが、最初から学校側からPDFデータで問題の提供を受けるようにすると良いのかもしれません。

なお、以上にしたがって自炊ができる場合、本連載でも紹介した「引用」の要件を満たしていれば、その資料に収録されている第三者の著作物なども一緒に自炊をすることが許されます。ただ、国語の試験問題に使われている文学作品などは「引用」には該当しません。旺文社の対応はやむを得ないものだったと言えるでしょう。

ただし、引用の要件を満たしていれば1、2に関しては自炊をすることができる。国語試験の問題は引用における付従性(主従関係)の要件を満たさないので自炊はできない
Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2003年骨董通り法律事務所設立、2009年より島根大学法科大学院教授。著書に『出版・マンガビジネスの著作権』社団法人著作権情報センター(2009年)など。 http;//www.kottolaw.com/
桑野雄一郎
※Web Designing 2017年2月号(2016年12月17日発売)掲載記事を転載

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