イラストやマンガを描く時に写真を参考にすることは珍しいことではありません。とくに動いている物の一瞬や、手に入らないものを描く際には写真を参考にせざるを得ません。そのこと自体はまったく問題ないのですが、あまりにも写真に忠実に描きすぎると、写真の著作権侵害に抵触しないか問題になることがあります。マンガやイラストなどでは、写真を参考にすることが多く、その結果写真のパクリではないかと騒動になることも珍しくありません。
『スラムダンク』、『昆虫交尾図鑑』……トレパク騒動の事例
たとえばバスケットボールの世界を描いた人気漫画『スラムダンク』について、NBA選手の写真のパクリではないかとインターネットで騒ぎになったことがあります。ただ、非常に似た絵にはなっていましたが、あくまで参考にして描いただけで、トレースというほどではなかったため、法的な問題にはなりませんでした。
ところが、参考にしただけではなく、明らかにトレースをしていると思われるケースもあります。『昆虫交尾図鑑』(飛鳥新社 刊)という本に掲載されたイラストが、第三者の撮影した写真のトレースではないかと騒動になりました。実際、2つを重ねるとほぼ一致したため、写真の忠実なトレースと考えられました。ほかにも、写真のトレースではないかと思われるイラストがありました。結局、出版社側は著作権侵害ではないと主張しましたが、作者自身が謝罪をしたこともあり、大きな騒動には発展しませんでした。このイラストが著作権侵害かどうかは見解が分かれるところではありますが、トレースすること自体が著作権(複製権)侵害である可能性が高いと言えるでしょう。
写真の構図も著作権扱いとなる判例も
では、トレースをしなければ必ず著作権侵害にならないかというとそうでもありません。写真の中には、カメラマンが構図などに工夫を凝らしているものがあります。そういった写真を参考資料として、そのまま流用すると、やはり著作権侵害となります。右図は祇園祭の様子を水彩画で描いたポスターですが、これについて写真家が「自分が撮影した写真の著作権侵害だ」として訴訟を提起した事件がありました。判決では、水彩画と写真が全体の構図とその構成において同一であることなどを理由として、著作権(翻案権)の侵害だと判断されました。
このように、構図に特徴のある写真について、その構図をそのまま利用するのは著作権侵害だといわれる危険性があるわけです。こうしてみると、写真を参考資料にイラストを描く際には、?写真全体の構図などは流用せず、個々の被写体を参考にする。?その際にも、写真を忠実にトレースすることは避ける。
この点に注意をする必要があるといえるでしょう。