上の写真をご覧ください。サルが歯を見せて笑っているように見えるこの写真、シャッターチャンスといい、構図といい、なかなか面白い作品です。被写体となったのは野生のクロザルです。プロカメラマンでも至近距離からこんな野生動物の写真を撮るのは難しいのではないでしょうか。素晴らしい作品です。
しかし、先日、サンフランシスコの連邦裁判所はこの写真に著作権は成立しないという判決を出しました。それは、被写体となったクロザル自身が、“自撮り”したものだったからです。報道によると、この写真はナルトと名付けられたクロザルが、英国の自然写真家デイビット・スレイター氏のカメラを使って撮影したそうです。スレイター氏が絶滅危惧種のクロザルの撮影をしていた時に、放置していたカメラでナルトが遊んでいたところ、偶然に撮れた写真だそうです。
その後、この写真が無断でウィキペディアに掲載されたため、スレイター氏は自分が著作権者だとしてウィキペディアを運営するウィキメディア財団に対して提訴しました。しかし、結局、アメリカの著作権庁が動物による作品に著作権が成立しないと判断を示したことで、ウィキメディア財団に軍配が上がりました。
ところが問題はこれでは終わりませんでした。「動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)」が、ナルトの代理人と称し、ナルトが著作権者なのにスレイター氏がナルトに無断で写真を使用しているとして提訴したのです。上述の判決はこの裁判について示されたものでした。
これらの裁判を経て、この写真は著作権の成立しない、誰でも自由に使える作品ということになりました。もし日本で同様の裁判が行われたとしても、おそらく同様の結論となるでしょう。スレイター氏は撮影行為自体には関与していませんし、撮影をしたナルト(動物)は法律上の権利者にはなれないからです。
ただ、動物の作品にまったく著作権が成立しないというわけではありません。米国在住のリンジー氏のブログ「filth wizardry」に掲載されている写真で、カラフルな線が描かれている絵画が掲載されています。実は、この絵画を描いたのはカタツムリなのです。リンジー氏によると、食品着色料の色を吸収させたカタツムリを紙の上で移動させ、着色された粘液によって描かせたものだそうです。ではこの絵画の場合、著作権は成立するでしょうか?
ナルトの写真とは異なり、この絵画では、どんな色を使うか、どこからカタツムリを這わせるかをリンジー氏が決めています。そこにリンジー氏の関与があるので、リンジー氏を著作権者と考える余地がありそうです。
海外ではオークションでチンパンジーの描いた絵が数百万円もの価格で落札される例なども出てきています。タブレットPCは動物による操作にも反応しますので、動物が創作したデジタル作品が登場する日も近いかもしれません。みなさんのペットに思わぬ才能を発見した場合は、ペット任せにせず、ご自分も作業に加わるようにしておくことをお勧めします。