「環境分析」でマーケティング力をアップ(後編) 事例詳細|つなweB

 

環境分析の考え方と6つのStep

自社の商品やサービスの分析に、他社との比較を用いた相対評価を行う「環境分析」。前号では、環境分析の基本的な考え方と進め方(図01)から、Step-1「市場トレンドと市場プレイヤーの確認」と、Step-2「Webサイトのパフォーマンスの確認」までを解説した。

後編は、上記を踏まえてStep-3からはじめてみたい。

01_「環境分析」6つのStep
業績やWebサイト来訪数などのおおまかな情報でベンチマーク企業のWebサイトを見つける。ベンチマークを設定したら、より施策視点の情報を元に自社とベンチマーク企業の差分を調査し、自社に活かせるベストプラクティスの仮説を立てることに進んでいく

 

Step-3. Webサイトパフォーマンスの要因を深掘る

SimilarWebの無料版では、来訪経路ごとの割合、検索来訪のTOP5ワード、リファラー媒体のTOP5、SNSからの流入内訳などを確認できる。これらの情報は、来訪数に差異があった場合の要因分析のひとつとなり、施策を企画する場合の参考にもなる(図02)。

来訪経路は6種類あるが、「Direct」「Referrals」「Search」の3つを経路としたトラフィックが多く、この3つを基本に分析することは、Googleアナリティクスの分析と変わりない。金融系サイトや会員系ECサイトなど、ログイン利用が多いWebサイトの場合は「Direct」の数が多くなり、この大小で会員数の多さを推察することが可能な場合が多い。また、アフィリエイト系やネイティブアドなどの媒体を特定した広告施策をよく活用する業界の場合は「Referrals」の数値が増え、広告施策の予算ボリュームなどを推察することができる可能性がある。さらに、「Search」の値が大きい場合は2種類のケースに分類されることが多い。1つは、来訪数自体が多く、「Search」の数が大きい場合。これは認知度の高さやSEOの力が大きいと見ることができる。もう1つは、来訪数が少なく、「Search」の来訪割合が大きい場合だ。これは、集客などの施策にほとんど力を入れていない結果、来訪経路が「Search」に偏っているだけと見ることができる。

SNSの場合は主要媒体に各々特徴があるため、各企業の取り組みがそのまま反映されているケースがある。YouTubeは動画コンテンツとして、人気タレントのTVCMやハウツーなどに力を入れていることも多い。TwitterやLINEはキャンペーン告知に活用する企業が多い傾向もある。ブログなどコラム的なコンテンツに力を入れたり、ビジネスパーソンをターゲットにしている企業はFacebookを活用する傾向が強い印象がある。

02_Webサイトパフォーマンスの要因を深掘る
SimilarWeb
確認項目:「流入経路別パフォーマンス(ダイレクト、リファラー、サーチ)」「来訪キーワード」「流入元メディア」「SNSからの流入内訳」

Webマーケティングに力を入れている企業の傾向としては、社名や製品名などの指名ワード以外の検索ワードからの来訪が多い、グループ会社など関係会社以外の一般媒体からのリファラー来訪が多い、SNSからの来訪が多い、などの傾向が見られる。画面上はトラフィック別の来訪経路、下は各種SNSからの来訪経路のサンプル 

 

 

Step-4. 検索結果におけるパフォーマンスを確認

1. SEOのパフォーマンスを調べる

業界内で想定されるビッグワードを挙げ、そのワードで検索すると該当するWebサイト(URL)が検索エンジンで何番目に表示されるかを調べてくれるサービスがある。これらのサービスを利用して、競合各社の検索結果順位を調査することが可能だ(図03)。

順位の高いWebサイトはそのワードと相性が良いと言え、集客力の高さ、CVRの高さなどを推し量る指標の一つとなる。

この調査が行えるツールは無料でもいくつかあるので、自分の好みにあったツールを利用するのが良いだろう。各ツールによる調査結果の差はなく、各検索エンジンから実際の検索結果順位を引用してきていることがほとんどだ。

2. SEOランキングの要因を深掘る

「SEOチェキ!」は、SEO関係の基本情報を一通り調査できる老舗ツールだ。テクニックを駆使したSEOというよりも、HTMLの記述やサイト構造など、現在のGoogle基準にも沿った基本的な項目の情報が中心に調べられる(図04)。そのため、SEOのトレンドに関係なくスタンダードに利用できる調査ツールと言える。

「1.SEOのパフォーマンスを調べる」で得られた情報をより精査するために、他社のWebサイトに設定されているタイトル、ディスクリプション、キーワードなどを知ることは、各社がWebサイトの「なに」に、また、「どこ」に重点を置いているかについて把握することにもつながることは意識しておきたい。 

03_SEOのパフォーマンスを調べる
ランキングチェッカー(検索ランク調査) 
確認項目:「検索結果順位」「Yahoo! JAPANとGoogle」による検索結果の順位」となど

検索エンジンによる順位は、消費者の純粋想起や助成想起の順位と比例すると言っても差し支えない。社名や製品名などで獲得できるのは主に顕在層である。一方、一般ワードで獲得できるのは、各社にとって主に潜在層と言える新規獲得に寄与する来訪者である可能性が高い
04_SEOランキングの要因を深掘る
SEOチェキ!
確認項目:「タイトル、ディスクリプション、キーワード、H1」「インデックス数(ページ数=コンテンツ数)」「含有キーワードと出現頻度」

メタ情報、含有キーワードの情報などを見ると、各社が意図的に検索エンジンを意識しているかの度合いがわかる。また、インデックス数=ページ数=コンテンツの量とも捉えられるため、情報提供の姿勢を反映していると見ることもできる

 

Step-5. ページ展開スピードのパフォーマンスを確認

1. ページ展開のパフォーマンスを調べる

ページ展開スピードのパフォーマンス調査ツールの中で、無料版の中でも調査結果データが充実しているのが「pingdom」だ(図05、06)。応答時間、ファイルサイズなどのほか、ページ内各ファイルのリクエスト応答速度も細かく調査してくれるため、具体的な改善業務に活かしやすいことが特徴となっている。

調査起点がオーストラリアやアメリカとなっており、応答時間の絶対評価自体はあまり参考にならないことが難点。あくまで他社や他ページ、他ファイルとの相対評価として利用されることをオススメする。

2. ページ展開スピードの要因を深掘る

先のページ展開スピード調査に用いた「pingdom」を利用する。ファイルサイズや構成ファイル数の確認ができるため、具体的な仮説立てに利用できる。

05_ページ展開スピードのパフォーマンスを調べるpingdom
確認項目:「ページ展開スピード

各社間での応答時間の差異で評価する。基本的に応答時間は短ければ短いほど、利用者の使い勝手が良く、ストレスも低く、エンゲージメントが高まると考えられる
06_ページ展開スピードの要因を深掘る
pingdom
確認項目:「ファイルサイズ」「構成ファイル数」

応答時間の差異による要因分析として、ページのファイルサイズや、構成ファイル数などを確認。この分析には具体的なページ制作の知識や経験が必要になるため、経験がない方は、経験のある方と一緒にデータを見ることをオススメしたい

 

Step-6. Webサイトの更新頻度を調べる

世界中のWebサイトの履歴をアーカイブしているサービス「Wayback Machine」を利用する(図07)。そのドメインで公開された当初から、更新された都度にわたってページがアーカイブされている。Flashなど、各時代ごとのプラグインが必要なコンテンツもあるが、それも含めて過去をさかのぼって確認することができる。

まずは更新頻度の多さを比較する。更新頻度が高いということは、ユーザーにとって情報有益性や情報鮮度が高まることと比例する場合が多く、その結果、満足度の高さや再来訪率の高さにつながることが考えられます。更にフルリニューアルの変遷を確認することで、現在のWebサイトの方針を推察することもできる。

なお、表示されたWebサイトはリンクなどの機能もそのまま表示されるが、当時のHTMLを現在のブラウザで正しく表示することは難しく、表示崩れや非表示になる箇所もあるので注意が必要である。

07_Webサイトの更新頻度を調べる
Internet Archive: Wayback Machine 
確認項目:「更新履歴」「更新内容」「過去のWebページ」

年表がスタートしている箇所が、特定したドメインのWebサイト誕生年となり、更新頻度が山のようにあらわれる。各年を選択すると、年内の各月カレンダーが下部に表示され、更新のあった日にマークが付与される。このマークをクリックすると、その日時で表示されていたWebサイトが表示されるという仕組みだ。

 

環境分析を進めるための2つのフェーズ

環境分析で大切なのは、絶対評価だけでなく「他社との比較」という相対評価の方がユーザー目線に近いことである。大きく2つに分けると、「ベンチマークの設定」から「ベストプラクティスの発掘」の順に行うことをオススメしたい。

_ベンチマークの設定

•市場トレンドが伸びているかを確認し、次にその業界を牽引している法人(主要プレイヤー)の業績を確認

•主要プレイヤーのWeb来訪者の属性や、サイトパフォーマンスは業績と連動しているのか、サービス内容と連動した傾向なのかなど、各社の差分とWebパフォーマンスを併せて確認

_ベストプラクティスの発掘

•Webサイトへの来訪経路から、集客への取り組みの違いを確認
•SEOのパフォーマンスを確認し、検索流入への取り組みの違いを確認
•表示速度を確認し、閲覧ストレス軽減への取り組みの違いを確認
•更新頻度や内容を確認し、ユーザビリティやコンテンツへの取組みの違いを確認
•これらの違いから、自社のベストプラクティスに活かせるかどうかを判断

ここで紹介したツールはあくまで環境分析を目的としたものである。繰り返すが、「分析結果からどの施策につなげられるのか」をイメージしながら調査設計することが大切である。ご紹介した手法を参考に、多角的な視点で環境分析を行い、自社のベストプラクティスの発掘に役立ててほしい。

 

Text:中川 太
ウェブ解析士マスター。デジタルマーケティングのサービス提供を主業務とし、メディア構築、広告、CRM、などの広告代理店的な業務全般を提供。分析、プランニング、ディレクションなどの他、サービス開発も行う。また、VR/AR/IoT/AI/Robotなどのフィジタルコンテンツをマーケテイング活用するためのデータプラットフォーム事業にも取り組む。
Text:一般社団法人ウェブ解析士協会
事業の成果に導くWeb解析を学ぶ機会の創出、研究開発、関心を持つ人たちの交流促進、就業支援などで、Web解析を通じての産業振興やWeb解析の社会教育を推進する。
中川 太
※Web Designing 2019年2月号(2018年12月18日発売)掲載記事を転載

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