[Creative]企業アイデンティティを見直す
創業84年の日本鋳鉄管(株)が、2021年を迎えてリブランディングへの動きを加速させています。4月30日にはリニューアルしたコーポレートサイトを公開。6月には同社代表取締役の直下組織として「ブランド戦略推進室」の設置を発表。さらに8月には刷新された企業ロゴマークも公開されました。
当初は「既存のコーポレートサイトを変えて、社内外に自社の変化の意思を伝えたい」考えがあったそうです。
「私が代表取締役に就任以降、弊社の事業環境を見据えた時、自社ブランディングの見直しが急務でした。企業ブランドを高めて、魅力あふれる会社としての認知向上には、当時の自社サイトに漂う“更新が放置されたような印象”を変えたい。そこが出発点でした」(日本鋳鉄管・日下修一さん)
パートナーとしてリブランディング構築に携わるのが(株)セブンデックスです。
「サイトリニューアルだけでは表層的な変化に止まり、本質的な解決になりません。根本的に問題を洗い出し、企業アイデンティティの再構築をすべきだと提案しました」(セブンデックス・中村伸啓さん)
提案の真意に強く賛同した日本鋳鉄管が、リブランディングを決断。その結果が、数々の刷新となったわけです。
[Concept]認知向上を促す再構築
日本鋳鉄管がリブランディングへと舵を切る背景には、保守的な事業環境が強く関わります。例えば、同社が主要事業で扱う水道管はすべて規格品です。
「他業種だと複数のメーカーがさまざまな機能性を争い、価格設定を工夫し製品化しますが、規格品だと基本はどのメーカーでも同じです。規格品である以上、機能性では勝負できず、業界内で競争力を生み出しづらい側面があります。加えて、今後も国内の人口減が続く中で、水道を使う総量は減り続けます。水道に関わる事業収入は手を打たなければ、先細りを待つしかないのです」(日下さん)
まずセブンデックスが改善に向けて動いたのが、ステークホルダーへのコミュニケーション不備の解消です。
「私たちが関わる当初から、日本鋳鉄管さんが手がける経営・事業施策には変革の意思が込められていましたが、対外的には伝わっていない状態でした。まずは、日本鋳鉄管としてふさわしいコミュニケーションをステークホルダーに行える状況をつくることです。ここでのステークホルダーとは、マーケット(市場)の顧客であり、採用面での学生であり、IRに対する投資家と、さまざま存在します。どのステークホルダーにも共通して必要な企業サイトについて、優先してリニューアルを行い、情報提供のあり方を改めることで自社ブランドの価値向上につなげる一歩とすることにしました」(中村さん)
日本鋳鉄管の事業は「BtoG through C」(日下さん)だと説明します。事業対象は各自治体の水道局(Goverment)でも、最終的なユーザーは一般消費者(Consumer)です。このCにもっとわかりやすく情報発信すれば、新たに企業認知が生まれ、ビジネス活性化を促します。
「つい自社製品のPR目線になりがちなところ、セブンデックスさんとの連携で、ユーザー目線の重要性に気づけました。社内も納得しながら、ユーザーに伝わる言葉の使い方や見せ方を模索するようになりました」(日本鋳鉄管・服部匡成さん)
[Action]「ブランド経営戦略室」の設置
リブランディングの一環として具体化が進むとともに、6月からは企業ブランド力向上を掲げ、デザイン経営をビジネスに取り入れた「ブランド戦略推進室」を設置。組織を本質的に変革する動きが、さらに具体的に進み始めています。
「“デザイン”と聞くと、見た目の形式美を思い浮かべる人は多いですが、本質的な組織の再設計(=デザイン)こそが目的です。社長直下の組織とすることで、社内が一致して同じ方向へと大きな力をかけて推進していきたいと考えています」(日下さん)
「企業価値を上げるには、他社が模倣できない共感性や情緒性をいかに喚起できるかです。そこには組織のありようの見直しや、ユーザーがわかりやすく情報を受け取れるさまざまな工夫やビジュアル化なども求められます。デザイン経営を通じて、組織の内側からビジネス推進を支えていきます」(中村さん)
そうした動きの中には、広報面で参画するもう1社のパートナー企業・カタルの提案で、サイトリニューアル以前からnoteを通じた情報発信も継続中です。
「サイトリニューアルの制作期間からスタートして、同社の変化の兆しを知ってもらうようにしました。従来ならnoteをやりそうにない業界であり会社だからこそ、誠実に丁寧に、ステークホルダーに向けた情報発信を心がけています」(カタル・井澤梓さん)
リニューアルサイトを公開後、月間ユーザー数は1.5倍増。顧客だけでなく、採用面に関わる学生層からの直接的な反応も着実に高まるなど、変革に向けた行動は少しずつ実りとなって表れている状態です。
特にここ数カ月の日本鋳鉄管の動きは、「実は先進的」「面白そう」という前向きな予感へと結びつき、期待感の漂う企業コミュニケーションを実現しています。だからこそ「ブランド経営戦略室」による次の施策は要注目。デザイン経営に則った、同社の今後が楽しみです。