[Creative]親しみやすい雰囲気が特徴
(株)グリラスは、徳島大学が30年近く培った世界トップクラスとされるコオロギ研究をベースに、食用コオロギの生産・販売などを行っている会社です。まず食用コオロギへの着目を尋ねると、「食を巡る、地球の環境問題が関わってきます」と同社CFO・柿内将也さんは解説します。
「人口増加による世界的なタンパク質不足が懸念される一方、数多くの国々でフードロスが生じています。そこで、飼育時の環境負荷が低く、捨てられるはずの食品ロスを餌に飼育することができる高タンパク源の食用コオロギが、次世代のサーキュラフード(循環型食材)として社会に広く普及してほしいと考えたのです」
グリラスは2020年、「無印良品」を運営する良品計画と業務提携。コオロギパウダーを使った「コオロギせんべい」など一定の成果は挙げながら、まだまだ一般社会に食用コオロギの認知が広がりに欠ける現実を直視しました。そこで、コオロギがもっと人々の暮らしに身近な存在となるよう、リブランディングしたのです。
CIには、イラストレーターの飛田冬子さんのイラストが印象的に使われています。コオロギを身近に感じてもらうための「親しみやすさ」に寄与し、温かみあふれるトーンを表現してくれると判断して飛田さんに協力を仰いだとのことです。
[Concept]「昆虫食」の障壁を乗り越える
コオロギはアカデミックな研究対象として自然である一方、いざ食用とした時には「コオロギを食べるのは…」という心理的な障壁もつきまといがちです。この乖離に対して、ブランディングの力が必要だと考えたのが、今回のプロジェクトの始まりでした。
「目指すは、生活にコオロギが溶け込むことです。研究者集団の観点だけでは限界があると悟り、素直に外部の力をお借りしようと思いました」
準備が整った2020年10月過ぎから、リブランディングに向けて社内ではディスカッションを続ける日々。業務の支えとなる「ミッション」と、ミッションを遂行した先に実現したい「ビジョン」を中心に、企業哲学のあり方を議論しました。12月以降は、外部パートナーとして、ブランディングエージェンシーのフラクタ(株)が参画、社内でまとめた熱い想いを言語化した内容に、外部の立場から客観的な判断を注入し、さらなる検討を重ねます。
「約3カ月かけて経営陣などを含む社内5名と、外部パートナーも常に約5名程度がご参加いただく形で、毎週複数回、社内外の定期的なミーティングで詰めました。妥協した判断で進めたくなかったので、予定より1カ月以上延長し、2021年3月に万全な形での公開となりました」
この過程で自分たちの目的をどのような形で示すかを決めて、P128、129にあるようなフィロソフィー、ロゴ、イラストが完成しました。目指していることの言語化、親しみやすいやわらかな雰囲気によって社内外の人々に寄り添う姿勢を示すことで、「昆虫食」から連想されるとっつきにくいイメージを解消した印象を受けます。
「参画メンバーの想いや考えを繰り返し話し合い、共有できた結果、たどりつけました。また、オンライン会議では言葉だけでなくイメージの共有も大事にしました。言葉を具体的な写真や画像で補足することで、メンバーが描く世界観にズレが起きないように配慮し、解像度の高い意見交換を可能にしています」
[Action]自社ECで挑む想いの実現
昆虫食の目新しさが先行していた従来のスタンスから、生活者目線の発想へと至ったグリラス。同社代表取締役の渡邉崇人さんは「ものめずらしさがフックになっている限り、生活に溶け込み、当たり前になるフェーズへと突き抜けることはできない」という問題意識が強く、社内でもその意識が共有されたことがリブランディングの大きな原動力だった、と柿内さんは述懐します。
そして、CIにあわせて、具体的な行動がすでに着々と遂行中です。6月4日の64(ムシ)の日にあわせて、グリラスでは自社ブランドとして初めてとなる食用コオロギでつくったお菓子を販売開始。フラクタの力を借りながら、自社ECサイトの運営にも乗り出したところです。
「まずは食用コオロギでつくったお菓子を通じて認知を拡げていきます。まずは、環境問題などSDGs(持続可能な開発目標)に感心の高い層に向けて発信し、自社ECサイトで購買できる体制づくりを進めています。さらにより多くの層に情報が届けるためにも、今後はマスコミ向けのリアル試食会なども取り入れながら、感度の高いユーザー界隈でクチコミが拡がるアプローチを続けます。それには味の追求は当然ですし、安心して買いたくなるパッケージづくりも含めて、ユーザーとの接点では配慮を怠らず準備を進めています」
2022~2023年までには、朝昼晩とさまざまな場面で食せる商品提供を目指している、と柿内さんは明言します。
「間食のお菓子だけでなく、主食や副食など場面ごとの食のニーズにあわせた商品を2年以内には開発・提供したいです。昨今のSDGsへの盛り上がりも後押しとなって、先行して無印良品さんとのコラボレーションもそうだったように、徐々に知られていなかった層に認知拡大し、実際に食べていただく機会を増やしたいです。そのためにも、きちんと機能するリブランディング構築の達成は、私たちの将来の活動を支える生命線なのです」