【Web解析士が解説】SEO対策のKPI設定とは? 事例詳細|つなweB

 

業種問わず最も重要視するべき指標とは

もし、Webサイト(ホームページ)を営業ツールとして役立て、売上に貢献させたいという期待があるならば、売上目標から逆算し、達成するための営業手法や営業戦略を考えていく必要がある。そこで必要になるのが具体的な数値だ。

01はKPIを算出するシミュレーションシートだ。Microsoft Excel(マイクロソフト・エクセル)やGoogleスプレッドシートなどでKPIを逆算できるシミュレーションシートをつくっておくと、追いかけるべきKPIが簡単に設定できる。

逆に、シュミレーションシートから得られた数値(指標)を設定していない場合、Web解析をする際に「なにを目的に解析をしているのか」「どのようなデータを見れば良いのか」「どのデータを改善に役立てるのか」といったように、目標や目的自体を見失うことがある。数値(指標)とは、言い換えれば目標だ。Web解析を100%活かすためには、この道しるべともなる目標がきちんと見えているかどうかが大きな鍵となる。

01_シミュレーションシート
実際にGoogleスプレッドシートでKPIを逆算できるようにつくられたシミュレーションシート。普段、筆者が業務で利用している。目標とする売上や利益、利益率、CVRなどを入力すると自動で目標となる各KPIが算出できるようにしている。このようなシートを独自に持っておくと、数値から作業ボリュームなど全体像が見えてくる

 

具体的な数値が改善策のためのスイッチ

最初の目標が設定できると、「では、現状はどうか?」と初めて好奇心が湧いてくる。例えば、月の売上目標が100万円で顧客の単価が1万円とすると、必要受注数は100件。これまでの傾向から目標のCVRを1%とした場合、必要な訪問数は1万セッションとなる(02)。

「1万セッション」という数字を聞いて驚くかどうかはさておき、重要なのはこれまで漠然としていたWebサイトの役割が具体的に見えた、という点である。

では1万セッションに達しているのか、それとも達していないのか。ここまでくると例外なく誰もが現状を確認するのは、目標が見えたからに他ならない。仮に訪問数が1万に満たない場合でも、超えていた場合にも、ここで初めて「なぜ?」「ではどうしたらいいのか?」「もっと良くするにはどうすればよいのか?」という課題に対して、改善を考えるスイッチが入る。

02_必要となる「訪問数」の割り出し
CVRを算出し、必要な訪問数を割り出した。サンプルにおける計算式は下記の通りになる。
「目標売上100万円」÷「客単価」=「必要な受注数」
「必要な受注数」÷「CVR」=「必要な訪問数」

 

仮説立てにおける“なぜ?”と“もしかしたら”

「なぜ?」というスイッチが入らないとデータの深掘りが難しい。理由は、「なぜ?」というスイッチが入らない限り、仮説を引っ張ってくることができないからだ。

例えば、実際の訪問数が1,000セッション程度しかなかった場合(03)、目標と比べてかなりの差があることは明確なため、すぐに目標が達成できるとは思えない。しかし、「なぜ、1,000セッションしか得られないのか」というスイッチが入ることで、「なにかWebサイトに問題があるのかもしれない」という仮説を引っ張りあげることができるのだ。

「なぜ?」と「もしかしたら」は一対だ。「もしかしたら、そもそもサイトが表示される頻度が少ないのかもしれない。実際の検索クエリを見てみよう」「もしかしたら、このサービス(業界)のニーズは少ないのかもしれない。トレンドや検索数を確認してみよう」「うちは訪問数が少ないけれど、競合他社はどうなのか? もしかしたら、ウチよりアクセスを稼いでいるかもしれない」。

こういった仮説(もしかしたら)が立てば、これまでの知識から、確認するための方法やツールの選択肢が浮かぶ。

「検索クエリだったら、Googleサーチコンソールがいいのではないか」「トレンドや検索数だったら、キーワードプランナーやGoogleトレンドが優れているのでは」「競合他社のWebサイトを分析するのは、SimilarWebかな」などといった具合だ。

このように、それぞれの「Webサイトに期待する事柄」と「成果」を設定するだけで多角的な視点から仮説を立て始めることができる。期待値が上回っていても、下回っていても、「なぜ?」というスイッチが入り仮説が立てば、Web解析でサイトを改善していくことができる。

03_必要となる「訪問数」の割り出し
Googleアナリティクス上で表示される「ユーザーサマリー」。「ユーザー>概要」で表示が可能だが、目標がないとこのサマリーを確認しても気づきを得ることが難しい。目標があれば現状との「差」を確認することができる。例えば、売上という目標を据えたなら、セッション(訪問)数は注目すべきポイントだ

 

事例から学ぶサイト改善のプロセス

ここからは、実例を紹介する。栃木県を中心に注文住宅の設計から施工までを行なっている薄井工務店の場合、過去にCV(コンバージョン)に至ったセッションにおけるランディングページを確認したところ、「平屋」というワードが発見できた。Webサイトに求める期待値を上回った「平屋」というワードに、「なぜ?」という疑問をぶつけ、立てた仮説が「もしかしたら、平屋のニーズが高いのではないだろうか」というものだ。

平屋とは文字どおり階層を持たない住宅のことなのだが、仮説は的中し、平屋と他の建築スタイルを比べると圧倒的に平屋のニーズが高くなっていたのだ(04)。しかしなぜ「平屋」なのか? 土地面積が広くないと非効率な建て方のような気がしてしまうが…。「もしかして、地方特有のニーズなのかもしれない」と確認してみると、人口の多い東京都や神奈川、大阪などはワースト5位内に位置しており、栃木県は10位以内にいることがわかった。

04_「平屋」での検索ワード
Googleトレンドで、キーワード検索数を比較した状態。青線が「平屋」だ。検索数は相対的な数値で表わされるため複数のキーワードと比較することで人気があるのか、ないのかがわかる。比較する際はできるだけビックワード、ミドルワードに分けてそれぞれのカテゴリで比較したほうがよい

 

仮説を経て見つける“戦略”と“成功法則”

検索されているキーワードとして「平屋」が多いのはわかったが、同業他社が栃木県で「平屋」に絞ったコンテンツを展開しているのか気になった。展示場などで大手メーカーが「平屋」を推しているのは見かけたことがあるが、大手以外の同業他社ではあまり「平屋」に対するコンテンツを用意していないのではないか。もしかしたら、この事実に気付いているのは自分たちだけではないか? といった有利なものに行き着く。そこで、実際にユーザーが検索しそうな検索クエリで検索してみると、予想どおり平屋に対する検索結果数(競合他社)は思ったより少なく、オーガニック検索でも上位表示が狙える数値であることがわかった(05)。

上位に表示されているサイトはポータル系のサイトやまとめ系サイトが主であり、表示されていた地元ハウスメーカーや工務店のサイトはそう多くはなかった。これであれば「エリア名+平屋」で新しいユーザーを獲得できる可能性が高い。ブルーオーシャンを見つけた瞬間だ。

現状のサイトでは「平屋」に関するコンテンツや実施している施策そのものが少ないので、十分に伸びる可能性がある。この施策がいわば戦略であり、Web解析を用いて成功法則を見つけ出せたことを意味している。

ここまで、特に難しいことはしていない。目標を決め現状を確認し、仮説からデータを拾い、気づきを得られただけだ。ここから先は、この気づきを元に施策を検討、実施していく必要がある。

05_検索クエリに対する検索結果数
ニーズがあると考えた検索クエリに対する検索結果数は、「60万3,000件」と表示された。概算ではあるが、検索クエリに対する同業他社のボリュームを把握することができる。これは筆者の感覚値となるが、100万件を超えてくると自社サイトをヒットさせるのが途端に難しくなってくる

 

「間違い」は存在しない目標や指標の考え方

実は、薄井工務店のWeb解析でサイトを改善するにあたり、私たちは明確な目的を共有した。「売上に貢献する」ことだ。先述のようにKPIを逆算できるシミュレーションシートをつくって算出し、CVRから必要セッションを割り出した。その上で「平屋」というキーワードを見つけた。これは筆者の所感だが、Web解析やアクセス解析を事業の成果に結びつける最初の一歩は「数値的な目標を設定する」ことではないだろうか。

どんな目標や指標でも「間違い」という解釈は存在しない。「その目標や指標は効率的なの?」という評価の声は飛んできそうだが、設定してみないことには間違っているかどうかすらもわからないのが事実だ。

設定した指標を数カ月追いかけてみて、もし、「こっちの指標の方がより効果がありそうだ」ということがわかれば切り替えればよい。この気づきでさえも運用してみてはじめてわかることなのだ。

 

Text:籐 貴志
Webコンサルタント。ウェブ解析マスター・Google 広告代理店専門分野認定の資格を持つ。株式会社中屋(あいだや)代表。Webマーケティング事業「remacre(リマケ)」を展開。「remacre(リマケ)」では、インターネットを活用し、販売者のサービスや商品の情報を必要な人に届け、購入に至るまでの流れを創っている。 https://remacre.jp/
Text:一般社団法人ウェブ解析士協会
事業の成果に導くWeb解析を学ぶ機会の創出、研究開発、関心を持つ人たちの交流促進、就業支援などで、Web解析を通じての産業振興やWeb解析の社会教育を推進する。
籐 貴志:ウェブ解析士協会
※Web Designing 2019年8月号(2019年6月18日発売)掲載記事を転載

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