サイト分析データは「時系列」「俯瞰」「目的」三段チェックが必須! 事例詳細|つなweB

運営中のWebサイトの現状を適切に捉えるためには、Webサイト側で取得する解析データ(数字)を理解する必要があります。そこで、データを的確に読解するコツや方法について、さまざまな企業のマーケティングを支援する、(株)ジェネシスコミュニケーションの田代靖和さんに話をうかがいました。

 

田代靖和さん
株式会社ジェネシスコミュニケーション コミュニケーションデザイン部 部長 自社メディア「マーケの強化書」編集長 https://genesiscom.jp/

 

出発点はWebサイトの「目的」 数字は最初から細かく見ない!

自社で運営するWebサイトの現状を分析するには、前提となるWebサイトの目的を必ず確認しましょう。例えば、BtoBサイトならサービスへの申し込みやリード(見込み客)の獲得など、BtoCサイトなら消費者への認知拡大、ECサイトなら売上アップなど、対象サイトごとに目的は異なりますが、どのWebサイトも「目的」に基づき設計・構築されているはずです。適切な現状分析は、目的達成に紐づく数字(解析結果)に関わる動き方を中心に見ていくものです。

データに基づく現状分析を可能にする前提として、Googleアナリティクス (以下GA)などの解析ツールを導入したWebサイトを対象に、ここから適切な現状分析の方法を解説します(01)。

最初に注意したいのは、GAなどの解析データは実に細かな項目を見られるので、細部に追われる数字の見方を避けましょう。目的に基づき解析データの全体像やデータの要所をつかむことを優先します。PV(ページビュー)やUU(ユニークユーザー)が無条件に優先されがちですが、サイトの目的に対してわかりやすい指標(PVやUU)でカバーできる範囲、他の指標で追求したほうがいい範囲を意識して数字を見ます。常に最優先は、Webサイトを通じて成し遂げたい数字を起点に見ることです。

 

01 「目的」ありきで数字を見る
Webサイトに関するさまざまなデータは、すべてを見ようとしないこと。Webサイトの「目的」に関連する数値を優先して確認しましょう

 

まずは時系列に沿って目的のための指標を見る

達成したい目的(多くの場合、KGIと設定されている)に基づき、実際のデータを見ていきましょう。まずは、基礎的な指標(PV、UU、コンバージョン数など)を、時系列に沿って確認。年単位、月単位で数字の変遷をつかみます(02)。

例えば、BtoBサイトで自社サービスへの申し込み数増加をKGIに設定している場合です。世の中のトレンドを重ねながら、時系列にコンバージョンの実績の変動を確認します。もしWebサイトへの流入を促す何かしらの広告施策を打っていた場合、広告展開していた時期とそうでない時期との動きの違いを必ず確認します。施策を打たずとも、以前とサイトデザインの変更やコンテンツの大幅な入れ替えなどWebサイトに対して目立った動きをした時期も確認が必要です。オーソドックスに考えれば、広告施策や何かしらWebサイトに動きを加えた時期は、数字にも反映されるはずです。想定と異なる動きがあれば、対象サイト上に要因をはらんでいる可能性が高く、その原因を探るべきです。

一方、広告施策を打たず通常のページ更新のペースに変化なく運用していれば、数字に変化が生まれる動きをしていないことになり、数字の推移は落ち着いているはずです。通常時の動きを把握しながら、そうではない動きがあるタイミングの有無を確認します。いつもと異なる動きがあれば、その時期に何があったのかを突き止めるようにします。例えば、他サイトでたまたま自社サイトを紹介された、SNSで取り上げられた、あるキーワード検索で自社ページがヒットしやすくなった、など何かしら必ず理由があるはずです。

また、年度の切り替わりや年末年始、広告系なら売り込みが下がりやすいとされる2月や8月など、1年の中で必ず出てくる季節要因、行事、定例化した何かしらのタイミングも、数字の変動が予想される時期です。時系列という大きな視点から、まずは数字の全体像をつかんで、現状までに至る自社サイトの傾向を把握するようにしましょう。

 

02 時系列で目的に関わる数値を確認する
目的のコンバージョンを時系列で確認します。GAなら「目標の完了数」などをコンバージョン(CV)として設定し、年単位、月単位で数値をチェック。通常の数字の動きとともに、通常と異なる動きに着目し、その要因を洗い出しましょう(※上のグラフは説明用のサンプルです)

 

来訪ユーザーの行動を「俯瞰」の立場から確認する

「時系列」の観点で、世の中のトレンドとともに自社が関わる業界やサービス業態などのシーズン性を意識しデータを確認したら、次に「俯瞰」で数字を見てみましょう。ここでの「俯瞰」とは、ユーザーがWebサイトに流入・来訪する全体像、といった意味です。

Webサイトにはさまざまな目的がありますが、おおよその場合、来訪ユーザーの行動を「集客」→「アクセス(検討・再訪)」→「コンバージョン(購入・申し込み・資料請求など)」に分解できます。分解後、それぞれのアクションについてデータを見ていきます(03)。

まず「集客」に着目すると、「誰が」「どこから来て」「どこへ行ったか」を見るようにします。「誰が」は、初回の来訪ユーザーや、以前の訪問からしばらく経過したユーザーなどが考えられ、こうしたユーザーが何かしらのきっかけで自社サイトに訪問しているわけです。

次に「どこから」来ているかです。考えられる流入経路が自然検索、広告流入、SNS流入、他サイト経由、メールマガジン経由、ブックマークからの直接流入などが考えられます。例えば、初回ユーザーの流入元の割合を調べれば、おおよその集客の現状を把握できます。

広告を手がけていなければ、時系列の視点で出てきた特記事項を除けば、基本的に数字の推移はあまり増減しないはずです。その推移を確認しつつ、数字の気になる変動箇所は必ず調べましょう。一方で広告経由、例えばリスティング広告やディスプレイ広告などを行っているなら、個々の広告パフォーマンスを見る必要があります。どのキーワードやメディアに出稿して、それら経由でどれほど流入数があったか、クリック率、CV率がどれほどかなどを見ます。

その後「どこへ」は、離脱か再訪か、コンバージョンなのかといった、その後の動きの割合を確認。こうしてデータのおおよそについて、把握していきます。

03 ユーザーの行動を「俯瞰」で捉え直す
「集客」→「アクセス」→「コンバージョン」というユーザー行動を分解し、行動ごとのデータを一通り見ていくようにすると、現状のWebサイトの全体像がつかみやすくなります

 

入口からの視点だけでなく、ゴールから遡って数字を見直す

時系列、俯瞰の次は、「集客」→「アクセス(再来訪)」→「コンバージョン」に対して、もう少し踏み込んでデータを捉え、個々の指標を見ていきます。

例えば、どの入口から何のページにアクセスし、「その後、どういう動きをしているか」までを確認。「その後」とは、離脱、再訪問、別ページへの回遊、そのままコンバージョンなどが考えられます。用意したページが目的に寄与したのか、逆に目的に貢献していないかを確認します。

他にも、ページごとの滞在時間やアクセスしやすい時間帯、デバイス別の割合なども見ていきながら、ユーザーの動きを捉えていきます。年数をかけて運営中のWebサイトなら、過去の蓄積データも参照し、過去と現状との違いを比較する観点も大切です。

ここでもう1点伝えたいのが、入口から追跡する視点に加えて、目的(ゴール)から遡る視点でも数字を見ることです。コンバージョンに至ったユーザーが、どういう経路を辿ってきたのかを逆(ゴール)から追いかけます。コンバージョン前の直近でどのコンテンツを見たのか、Webサイト内を回遊していたのか、一度の来訪でのコンバージョンなのか、複数回の来訪を経てのことなのかを確認します。データは膨大にあるだけに、Webサイトの「目的」を意識した両方向から見る視点によって、要所のデータを優先的に読み取り、把握すべき数字の見落としを防ぎます(04)。

昨今の傾向を加味すると、スマートフォンの普及でBtoBの商材でも“まとめサイト”で事前に検討を済ませ、スマホ経由の初回流入でコンバージョンに至るユーザーが増えています。こうした時流と自社サイトの背景が当てはまるかを確認し、当てはまる場合に想定した数字が出ていなければ、スマホでのユーザーの閲覧に何か支障があるなど、具体的な課題が浮かんでくるでしょう。

 

04 アクセスルートの視点とコンバージョンから遡る視点で確認
ユーザー行動をもう少し個々の状況に紐づけながら見ていきます。Webサイト訪問者の入口からアクセスを辿る視点と、コンバージョンしたユーザーの軌跡を遡る視点の両方向から確認すると、データの要所が浮かび上がりやすいです

 

最終段階で細かく数字を見ていく

最終段階で、いよいよ細部について数字を見ていきます。時間をかけて、丹念にデータを追いかけていくわけです。

例えば、自然検索による流入が多いWebサイトなら、「どのキーワードからの流入が多いのか?」から始まり、自社名やサービス名以外にも流入数が多いキーワードがあるのか? あれば、それは何なのか。各キーワードはどのページにどれほど流入しているのか。そこに時系列を重ねて、アクセスボリュームに変化が出る時期があるのかなど、闇雲に細かく見るのではなく、ここまでで絞ってきた的に目がけて調べます(05)。

もし、現状サイトの品質や構造があまりよくない状態だと、「どこまで現状を分析する必要があるのか」という懸念を感じる人もいるでしょう。実際に出てくるデータは自社サイトに関わるリアリティで、今後の改善や施策検討の材料だと言える半面、深入りしない判断はあっていいでしょう。現状分析で大切なことは、分析を通じて今後の施策に活かすことであり、目的を達成するための改善策につなげることです。データや数字は際限なく見続けることも可能ですが、見続けているだけでは何も始まりません。最終的に数字の向き合い方は、自社やWebサイトの状況にあわせて決めておきます。

こうした大きな視点から細部へと突き詰めていく視点までを通じて、自社サイトで常に見ておきたい指標・項目が整理されてきたら、「Google データポータル」のようなBIツールを使い、見るべきポイントをまとめておくと便利です。

細かく数字を見る大切さもある一方で、自社サイトにとって、毎日数字を確認する必要が本当にあるのか。毎週、会議を開く必要があるのか、なども考えます。自社サイトの実情や施策を起案するペースも考慮して、どのタイミングでどこをどう深くデータと接するべきかも決めておくといいでしょう。

 

05 最終段階で初めて細部を突き詰め
ここまでの作業でおおよそ絞ってきた目的に紐づくデータの詳細を突き詰めていきます。上記は一例ですが、時系列やユーザー属性などの条件とも組み合わせながら、深掘りが必要と判断した内容を適切なタイミングで見ていくようにしましょう

 

常に「目的」を忘れない現状分析の精度向上の工夫を

最後に、現状分析の精度を高める工夫についても考えましょう。マーケティング支援会社の立場から、さまざまな企業のGAに接する中で、よく企業のWeb担当者から相談される1つが、競合他社の数字の状況です。なかなかそうした数字は拾いづらいものですが、すぐに始められることの1つが、自社に近い業界の登壇者によるセミナーや講演を気にかけておくことです。メディアに当日のレポートなども公開されたりしますが、そうした内容の中に具体的にデータや数字が公開されることがあります。そうした情報はしっかりと押さえておくといいでしょう。

また、クライアントとの折衝でよく見受けられるのが、GAでコンバージョンを設定していないケースです。コンバージョンを設定していないと、ゴールから入り口に向かって追いかけていくデータが確認しづらくなるので、注意します。対象とするサイトによっては、自社の社員の訪問機会が多い場合があります。例えば、拠点を複数持つような会社の場合、各拠点の場所の確認で、社員がよく自社サイトにアクセスしていることはありえる話です。こうした会社の場合、事前に社員の流入データはGA側でフィルターをかけて数値にカウントされないようにする工夫もしましょう。そのままだと、社員データ経由で生まれた偏りに気づけない可能性があります。他にも、時系列で特記事項が生じた時にGA内にメモを残しておくと、数値の変化の原因が探りやすくするなど、GAの使いこなしも意識します(06)。

GAで取得したデータをいきなり見ても途方に暮れるしかありません。今回、ここで紹介してきた流れに沿ってデータを再確認してみてください。迷ったら自社サイトの目的に立ち返ること。すべての数字を理解しようとせず、目的に基づいて、自社サイトの要所をつかむ見方が大事です。

 

06 意味のある現状分析を実行する
現状分析を実りある行為とするために、「目的」に基づく数字を見ること、大枠から徐々に細部へと近づくように確認すること、要所を外さず見極めるために工夫を欠かさない態度が大切です。ただし、数字に追われるような見方は避けます

 

Text:遠藤義浩