サイトをどのように活用すれば、売り上げ向上、契約獲得といった事業成長へと繋げていくことができるのでしょうか。その方法は、きちんと自社の事業やサイトを分析して、ロジカルに導き出す必要があります。多くの企業サイトの改善を手掛けるKaizen Platformの多田朋央氏にその分析方法を伺いました。
現状理解と改善はロジカルに
課題の理由を明らかにし因果関係を理解する
サイトでの売り上げ等のコンバージョンを伸ばしたいと考えた際、具体的に何をすればよいでしょうか。実際に、企業からはそうした相談を多くいただきます。特に近年のニューノーマル時代において、やりづらくなった実店舗販売や対面営業をどのようにデジタルで補ったり置き換えたりすべきかという悩みを抱える企業は増えています。
サイトで何をすべきかという課題を分析するには、まず事業構造を把握することが重要です。事業の中で売り上げが発生するポイント、あるいは売り上げが下がるポイントなどを整理し、どこに課題があるのかを特定していきます。Webマーケティングでは流入施策に注力する傾向がありますが、せっかく来た人が売り上げに至っていない、あるいは離脱して売り上げが下がってしまうといったことに対策がされていないという場合も多いです。
さらに、さまざまなデータや調査に基づいて現状のサイトの状態を分析し、どこに課題があるのか、どこを改善すれば事業構造整理で見つけた課題の解決となるのかというKPIを特定していきます。このように、分析に基づき、ロジカルに課題の特定を行うことが大切です。もちろん的外れな施策を防ぐという意味もありますが、もしデータに基づかない憶測を根拠に改善してしまうと、それで効果が出たとしても、「どのような原因がありなぜ改善されたのか」という要因を捉えられず、その後に活かせるノウハウとして蓄積していけないからです。
サイト分析やペルソナ分析の方法
3つの分析方法と競合比較
そもそも、分析とは何をすることなのでしょうか。データを集めたりアクセス解析を見るということではなく、そうして集めたデータをもとに分類して比較することを分析と呼びます。
分析には、主に3つの方法があります(01)。1つ目は、類似のものと比較すること。例えばその人の身長が大きいか小さいかを判断するために、平均身長と比較するというように。そして2つ目は、構成比を見ること。例えばサイトへのトラフィックが何経由で来ているかという構成比を出し、その中でどの割合が高いか低いかという比較によって傾向を把握します。そして3つ目は、変化です。例えば1年間で会員数はどう増減したのかというように時間に伴う変化を見ていきます。
ただ、自社サイトのこれらのデータを把握しただけでは、それが良いのか悪いのか判断がつきません。競合他社などのデータと比較して初めて分析することができるようになります。例えば、昨年4月のトラフィックが10万で今年4月のトラフィックが20万であれば、去年と比較して2倍に増えたことになります。しかし、競合他社はこの1年で4倍に伸びていたとしたら、業界内における自社の伸びは必ずしも大きいとは言えなくなります(02)。
競合と比較することで何がわかってくるのかという一例をご紹介します。美容業界A社の改善のため競合のB社と比較した事例です。A社は自然検索経由の流入がB社の5分の1しかないことがわかりました。さらに全体の流入比率を見たところ、B社は約20%が自然検索なのに比べてA社は9%ほどでした。そこから要因を調べていくと、B社はその業種で検索される用語に関わるコンテンツをたくさん用意していたため、関連用語の検索順位の多くで1位に表示されていました。一方A社はそうしたSEO施策をしてこなかったため、検索順位が低くなっていました。このように比較による分析から、A社は自然検索からの流入を増やすことが課題であり、そのためのコンテンツを制作することが必要だとわかりました。
ペルソナ(ユーザー)を理解する
分析をする際の一つの情報として、自社のペルソナをきちんと把握しておくことも大切です。ペルソナというと、「ファッションに興味関心の高い若い女性」といったように、属性や趣味嗜好で語られることもありますが、そういったことは問題ではありません。自社のサービスを利用してくれている人が「何に悩んでいて、どのようなニーズにマッチしたから選んでくれたのか」ということが重要です。
自社のペルソナを知るためには、直接聞いてみるのが一番です。まずは5人程度でよいので、サービスを使い続けてくれているヘビーユーザーに話を聞いてみましょう。「自社のサービスをどこで知ったのか」「どういう課題・ニーズを持っていたのか」「他に比較検討したサービスはあったか」「なぜ利用しようと意思決定したのか」といったことを聞いていきます。そうして、自社のペルソナはどのような人であり、なぜサービスを使ってくれているのかを把握します。
また、ペルソナについても、競合との違いを把握しておくことが大切です。似たようなサービス、同じような価格帯の競合であっても、ペルソナは大きく違ってきます。それらを知ることで、「なぜ自社のサービスが利用されるのか」がよりわかってきます。そこがわからないと事業を成長させていくための方向性を定めることができません。
分析による優先順位付けと分析例
効果の出やすいところから改善を行う
サイトを分析していくと、課題が複数見つかることも多いでしょう。また、課題のあるページを1つ特定しても、そのページ内で考え得る課題、それらを解決するための施策のバリエーションもたくさんあり、どれが効果が出るのかは実際に試してみないとわかりません。そのため、すべての課題に一度にもれなく取り組むというのは難しいです。分析は、課題解決を効率的に行うための手段でもあります。サイトの定量分析を行い、コンバージョンに寄与する可能性の高いページから優先的に施策を行うのがよいでしょう(03)。
例えば、PCサイトとスマホサイトを公開している場合、それぞれのコンバージョン率を比較して低い方が改善の必要性が高いと言えます。もしPCサイトのコンバージョン率が20%で、スマホサイトのコンバージョン率が80%であれば、前者から取り掛かるべきでしょう。また、自社サイトのコンバージョン率が高いか低いかは、やはり競合と比べて判断します。それによっても、改善の優先度を測ることができます。
サイト内のどのページから取り掛かったらよいかについては、コンバージョンに至るまでのページ遷移の過程での離脱率をそれぞれ出し、訪問者数が多く離脱率の高いページから改善していく方が効果が出やすくなります。そもそも訪問者数が少ないページを改善しても伸び代は少ないです。それに加えて競合のデータと比較をすると、競合より離脱率の高いページを優先的に着手すべきだという判断もできます。また、広告で流入を行っている場合には、費用対効果が合っているかも分析し、より効果の高いところに予算を回すようにしていくことも大切です。
フォームのページに関しては、使いにくさに起因する離脱が多いので、改善すると効果が出やすい鉄板の場所と言えます。まず、そもそも申し込みをする気がなく何も入力せず離脱した人と、途中まで入力した興味があったであろう人を分類します。そして後者の人たちのフォームの流入からのプロセスを追っていき、離脱の多い箇所を特定し、そこで何が課題なのかという仮説を立て改善していきます。入力復元機能などによって離脱率を大きく改善できることが多いです。
競合とのUI比較で分析する
分析は、数値的なデータをもとに行うものだけではありません。例えば、競合とサイトのUIを比較することで課題を見つける「UI分析」という手法があります。全体のサイト構成や各ページにおける課題の洗い出しを行っていきます。
実際のUI分析事例として、イベントのチケット販売サイトの例をご紹介します(04)。その会社は、トップページから購入完了までにサイトで8画面の遷移が必要でしたが、競合は4画面で購入完了していました。また、イベント一覧から詳細ページへと遷移して初めてチケットが購入可能か完売かがわかるページ構成になっていましたが、競合はトップページにイベント一覧が掲載されていて、そこに購入可能か否かも記載されているという違いがありました。ユーザーがチケット購入に至りやすいのは競合の方であり、この例ではUIに多くの課題があると言えます。
他にも、会員登録をしなくても購入手続きを進められる、クレジットカードを所持していない人にも利用可能な決済方法がある、別のイベントチケットも一括で購入できる、イベントグッズも一緒に購入できるといった、競合の方が優れた点がわかってきました。そうした競合の方が優れている点が、自社の改善すべき課題だと言えます。競合だけでなく、他業界の使いやすいサイトと比較することでも課題を見つけることができます。
ここで挙げた分析の手法はほんの一例です。分析はあくまで手段なので、これをやっておけばよいというものはありません。弊社では多くの企業の改善を手がけていますが、その際に行う分析方法はさまざまです。どのような分析を行うかについても、どうすればサイトを事業成長に繋げられるのかという視点で考えていくとよいでしょう。