未来食堂が考える定食屋としてのペルソナ 事例詳細|つなweB

東京・神保町に開店した“ふつう”をあつらえる、ふつうじゃない定食屋。「まかない」「ただめし」「あつらえ」といったオープンな仕組みと、店主(女将)の想いに共感する人たちが日々集う“場”として、食事をメインに、新たな「価値」と「出会い」、「居心地の良さ」などを提供し続ける。 http://miraishokudo.com/

「トンテキ」「あじフライ&新わかめとアサリの潮汁」「真鰯のつみれ汁&コシャリ」「麻婆豆腐」。これは、未来食堂の先週のメニューです(未来食堂は日替わり一種類のみ。毎日違う定食をつくっています)。

さて、この中でもっとも来客が多かったのは「トンテキ」。2番目は「麻婆豆腐」。一方で『コシャリとは何じャリ?』と思われたでしょうが、やはりお客様も同じで「コシャリが食べたい!」という方はいらっしゃらないように思いました。

コシャリとはエジプトの、米やパスタの上からクミン風味のトマトソースを掛けて混ぜ合わせて食べる庶民料理。私も知らなかったのですが、調べると錦糸町に専門店があり、レシピを知るために日曜日に駆け込んだのでした。というのも未来食堂は、お客様のリクエストでメニューを決めているのです。「来週のメニューは何がいいですか?」「コシャリが食べたいな」「ならつくりましょう」。そうやって決まった一品でした。

「コシャリ」と「トンテキ」。そりゃ、トンテキの方が人気があります。しかしここで未来食堂の『ユーザーペルソナ』…という言い方は固いので、『来て下さる方』に思いを馳せてみるのです。未来食堂に来て下さる方は、珍しい調理や、その季節・その日にしか食べられない特別感を楽しみにしています。例えば、節分の日にイワシを出すのもその一つ。確かに「ハンバーグ・生姜焼き・とんかつ」を延々リピートすれば、人は増えるかもしれません。しかしいつも来て下さる方の足が遠のくでしょう。

「ほとんどの人は毎日食べに来る訳ではないんだから、2日くらい続けて同じメニューでも良いのでは?」。違うのです。数人の『毎日食べに来て下さる方』が一番大事なペルソナであり、その方々が満足するメニューを提供することに、未来食堂の(飲食店としての)価値があるのです。

“理想のペルソナ”ではなく“儲かるペルソナ”を選ぶと、売上が上がるように見えますが、すでにあまたの飲食店が狙いをつけているので、大変なレッドオーシャンに身を乗り出すことになるのです。「ハンバーグ・生姜焼き・とんかつ」を出すたくさんのお店の中で、頭一つ出るのは本当に大変なことです。

コシャリを出したその日に、爆発的に売上が上がることはありません。ですが、身に付いたエジプト料理のノウハウは何にでも応用できるのです(フライドオニオンの代わりにトルティーヤチップスを砕いてエジプト感を出す、とか)。その日の売上ではなく、来て下さるお客様の満足度、将来へのスキル投資としての「コシャリ」なのです。

コシャリの日の来客者は約50人。平均55人程度なので、大きな開きはありません。おそらくお客様の99%はコシャリを知りません。それでも来てくれたのは「未来食堂で出される料理は何でも満足できる」という、お店の”ブランド”が出来つつあるからかもしれません。そしてそれは、”儲かるペルソナ”ではなく”理想のペルソナ”に焦点を当てて営業してきた結果、と言えるかもしれませんね。

Text:小林せかい
東京工業大学理学部数学科卒業後、日本IBM、クックパッドで6年半エンジニアとして勤めた後、1年4カ月の修行期間を経て「未来食堂」を開業。自称リケジョ。その他、詳しいプロフィールは公開されている情報をご覧ください。 https://goo.gl/XpwnMQ
小林せかい
※Web Designing 2018年6月号(2018年4月18日発売)掲載記事を転載

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