最低限の目的だけは事前に共有すること
私が所属する原宿サン・アドでは、ブレストについて厳密にルール化しているわけではありませんが、社内のメンバーや、時には社外のクライアントも招いてブレストを行う機会はよくあります。目的次第ですが、基本は参加者が過度にプレッシャーとなるノルマを課さず、なるべく制約のない意見交換ができる場となることを意識しています。
一方で漫然とブレストを行っても、必ずいいアイデアが生まれるわけではありません。「実りの多いブレストだった」と手応えをつかむには、どう意識して臨むべきでしょうか。
例えば、ブレストと企画会議は違います。ブレストは積極的に風呂敷を広げていくイメージで、さまざまな意見を表に出していく場です。出席者はある程度ラフな状態で集まってもOKとし、ネガティブなコメントの出し合いは避けながら、多面的な意見交換ができることを目指します。企画会議となると、仕切り役があらかじめ企画の方向性をまとめておき、出席者は方向性に沿って形になったアイデアを持ち寄ったりする点で、大きな違いがあります。
だからこそ、企画会議の前に行うブレストの価値や意義があるわけですが、まったくの自由にすると手応えがつかみづらいでしょう。「何を決めるブレストなのか?」「どれほどの時間でやるのか?」の2点は、あらかじめ出席メンバーに伝え、共有した上で開催しましょう。
ブレストとは、関わるメンバー全員の時間を預かることにもなります。仕切り役はその当事者意識を持つべきですし、出席者はその時間が有意義となるように、能動的な参加を心がけたいです。ブレストの成否は、「最低限の目的の共有」「設定した制限時間」「参加者全員の協力」にかかってきます。
実行のタイミングは、クライアントからのオリエンテーションを受けてやる場合ならその翌日にはやりましょう。短時間でも早めに集まらないと、「そうだった?」というあやふやな状態が膨らむばかりです。プロジェクト全体を効率的にするためにも早めの開催がお勧めです。
仕切り役の心がけ「若いスタッフが話しやすい場」にする
ここからは役割や参加メンバーの違いごとで解説します。
ブレストの仕切り役は、もっとも参加者への目配せがしやすい立場です。場が活性化するかどうかは、仕切り方次第の側面があります。まずは、参加者全員の意見を引き出すことを最優先で注力してください。例えば、現場に近い若手たちほど、よく考えているのに発言しづらそうにしていませんか? 経験があり年次を重ねたメンバーほどスラスラ語りやすいものです。その時は「〇〇さんは?」と無理なく話を向けてみて、仕切り役が若手と1対1で対話するような状況をつくることも手です。
ブレストは5~6名くらいのチーム単位で行うことが多いと思いますが、メンバーは本業の手を止めて参加しています。仕切り役は、特に「時間内で何を決めるのか」を意識し、参加者全員の話を引き出す中心役を担いましょう。参加回数が少ない新しいメンバーほど、聞いていてハッとする意見を持っていたりします。一方でそういう人たちほど、想像以上に当人が緊張し、話しづらそうにしていたりもします。声の大きな人の意見を聞くだけのような会になったなら、その失敗の原因は仕切り役にあると自覚すべきです。
多様な意見を引き出すために、積み上げた話を意図的にひっくり返すことも、時にはやっていいでしょう。一つの方向で盛り上がり過ぎないように、「こちらの方向性だとどうだろう?」と振ってみて、異なる意見を出やすくするのです。予算や期限などくつがえらない条件に触れたままの場合も、やんわりと条件で引っかかることは伝えます。後味のいい終わり方とともに、次につなげる調整も行うのが仕切り役の責務です(01)。
ブレストの内容を次の回へと引き継ぐために、話の内容が追ってわかるようにもしましょう。細かなやりとりの記録ではなく、話し合いの内容の核心や多面的な意見の中身が確認できるように、仕切り役がまとめておきます。
参加者の心がけ「これだけは意識してほしい!」こと
次に参加者の立場から考えます。まずは事前の情報に基づく一定の準備はしておきます。心がけとしては「自分はこう思う」という意見を1つ持って参加します。その1つが、必ず裏づけがはっきりとした内容でなくていいので、事前の準備で至った考えを伝える意識を持って臨みます。カチッとした会議と違うのは、そうした意見が許される場です。
準備では、ひととおり入れておくといい情報を探りながら、例えば自分の強みや得意な話の延長線上をさらに調べておくと、当日は話しやすくなると思います。他の参加者にはない個性的な話がしやすくなるからで、他の参加者も話を聞きたくなるでしょう。
とはいえ、年次が浅い、入社まもない社員ほど、ブレストの場だからと自由にどこまで話をしていいのかわからない場合もあります。自分の意見と近い話の流れの場合はいいとして、異なる意見が出てきた時に、なかなか一声が言い出しづらい場合です。もし隣に座る人が自分と立場の近い人であれば、隣の人に話しかけてみるのは一案です。その場全体に対して声を上げるよりかは話しやすいでしょう。「あの話は…」などと、周りに聞こえるくらいの声量で、異なる意見や別の話をしてしまいます。盛り上がっている話とは別に話が進めば、仕切り役も気になってきます。
年齢層や年次がメンバー内で真ん中くらいで参加している場合は、年次の若い人たちを巻き込むスタンスがあってもいいでしょう。仕切り役の目が行き届いていない人にも、うまくその場に入りやすくする会話のパスを出したり、糸口を示せるとベターです。現場に近い若手ほど、日頃から感じることは多々持っていて話すことはあるけれど、話すタイミングがつかめないという状態を手助けする意味は大きいはずです。
そうは言っても、隣に立場の近い人が座るとは限らず、誰かが必ず助け舟を出してくれるわけではありません。そうした時は、最後に「置き土産」を置く意識を持っておきます。会の終わりに「私はこう思いました」と言えるだけでも違います。仕切り役はその一言が気になり、無視できなくなります。参加者は、必ず主役にならないといけないわけではありません。何かしら自分の浮かんだ思いが無理なく伝えらえる瞬間をつくれるといいでしょう(02)。
クライアントもいるならブレストだけれど、「仕切り感」を強めよう
ブレストの意義の1つは、多面的な意見を俎上に乗せるので、さまざまな視点に耐えうる企画に向けた材料が見つけられます。あらゆる視点と指摘に耐性がある、揺るがないコアのある成果物を導くために、時間があるならブレストはやったほうがいいでしょう。昨今の時代背景も加わって、クライアントと直接やりとりをするプロダクションも増えています。すると、社内メンバーだけでなく、クライアントを交えたブレストを行うケースもあるでしょう。
基本の姿勢は、時間を決めて、何を決める場とするかを共有しながら、さまざまな意見を出し合うことです。しかし、社内メンバーだけで進めないからこそ、通常のブレストよりは仕切りの意識を強くしたほうがいいでしょう。
クライアントとのブレストでは、どうしてもカルチャーギャップが存在します。どちらかの常識が、どちらかの非常識にもなりかねないので、ギャップがある前提で丁寧に進めましょう。例えば、社内ならざっくりとした形での事前アナウンスでよかったのに対して、クライアントが含まれる際はしっかりと伝えたほうがいいでしょう。企業同士の場なので、決めた内容はきちんと明示しないと、現場は混乱しかねません。
進め方としては、通常のブレストより仕切り感を出して、時間割ややることの目安を設けて、そのことを事前に共有しておくといいでしょう。例えば、全体が90分という設定なら、冒頭30分は雑談を中心に話を広げる時間に、次の30分でクライアント側のメンバーが中心になって話す時間、残り30分が自社側で話すような時間と振り分けます。
大切なのは、終わった時にブレストが有意義だったと思えるかです。両者には、「企画のコアを見つける」という共通のゴールイメージがあるはずです。判断に迷うことがあっても、共通のゴールに基づく動きで、相手を尊重したブレストを実現しましょう(03)。