Web制作者・企画担当が知るべき「これからのリサーチ」 事例詳細|つなweB

さまざまなリサーチの中でWeb制作者や企業の企画担当が知っておくべきリサーチはどれなのか。ここではその違いに注目しつつ、説明をしていきます。

 

木浦 幹雄さん
アンカーデザイン株式会社 代表取締役 兼 CEO /キヤノン株式会社にてカメラ、ロボット、ヘルスケアなどの新規事業/商品企画に従事したのちCopenhagen Institute of Interaction Designにてデザインを活用したイノベーション創出を学び、帰国後アンカーデザイン株式会社を設立。

 

対象人数に見るリサーチ方法の違い

1.UIの開発・改善には一人ひとりの声を
丹念に聞く定性調査が役立つ

リサーチと聞くと、できるだけ多くの人…数百人、数千人、時には数万人にアンケートを配布するなどして、「Aという機能とBという機能のどちらがユーザー受けが良いか」などと全体の傾向を見たり、その結果の平均をとって「30代で子どもが二人いて東京都下に住んでいる…」といったペルソナをつくるなどして、自社プロダクトのユーザー像をつくりあげてていくことをイメージするかも知れません。

このような調査方法を定量調査と呼び、従来マーケティングリサーチとして頻繁に実施されてきました。この手法のその最大の特徴は、グループとしてユーザーを捉えるところにあると言えます。

一方でUXリサーチでは、ユーザーの“一人ひとり”に注目して、その人ならでは情報を深く収集していく質的調査の側面が強いと言えます。リサーチする対象も、3人程度からどんなに多くても50人ぐらいまで、というのが一般的です。「それだけで何がわかるのか」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、一人ひとりの声にしっかりと耳を傾け、行動の様子をじっくりと観察することで、アンケートなどでは集めることが難しい、人の体験にまつわる深い情報を収集することができます。こうした調査を定性調査と呼び、プロダクトの開発や改善に役立つものとして、大きく注目されているのです。

マーケティングリサーチと、ユーザビリティ評価・UXリサーチは、調査対象の捉え方や分析、理解の方法に大きな違いがあります

 

UXリサーチとユーザビリティ評価の決定的な違いとは

2.リサーチの起点をどこに置く?
「事前」か「事後」か

では、「UXリサーチ」と、従来から取り組まれてきた「ユーザビリティ評価」ではどこが異なるのでしょうか? 両者とも“一人ひとり”に注目した調査ではあるのですが、そこには大きな違いがあります。

まず、ユーザビリティ評価ですがその目的はWebサイトやアプリなど、プロダクトの改善すべき点を見つけ出すことにあります。このユーザビリティ評価には一つ弱点があります。それは、“そもそもそのサービスが必要なのか”という部分に切り込むことができないという点です。たとえばユーザビリティ評価に参加した人がこんなことを思っているケースを想像してみてください。

「このアプリを使ってみてくださいと言われたから使ってみたけど・・・そもそもこんなサービスはいらないな(言えなかったけど)」

つくった後に行うリサーチでは、その構造的にユーザーのそもそものニーズの有無や課題感を調査するのは難しく、仮に適切な指摘があったとしても、「今さら反映できない」ということになりかねません。

ならば、つくる前にリサーチした方が効率も良いし無駄がない。ユーザーのニーズを探るところからリサーチを行うことで、「今さら反映できない」といった問題が起きないようにしたというわけです。ただし、ユーザビリティ評価は今でも有用です。ユーザにとって良いものをつくるためには、つくる前、つくっている最中、つくったあとと、さまざまな段階でリサーチを実施していくことが重要であり、それらリサーチの総称が「UXリサーチ」であると捉えることもできます。

このようにユーザビリティ評価を含むUXリサーチは、ユーザーの声を取り入れることができ、小規模でも実施できるため細かく改善を積み重ねていくWebサイトやアプリの制作工程にもマッチします。これからの現場に欠かせないものとなるのではないでしょうか。

 

ユーザビリティ評価の限界

ユーザビリティ評価は改善のために行うリサーチ。ユーザーにとって良いプロダクトをつくるためには、つくったあとに評価するだけではなく、つくる前にリサーチして、ユーザーのニーズを正しく捉えることも重要です

 

 

Text: 小泉森弥
Web Designing 2023年4月号(2023年2月17日発売)掲載記事を転載