ビジネスマンの営業能力 ニーズをつくり出すアプローチ 事例詳細|つなweB

「ニーズを知る」だけでなく「ニーズをつくり出す」編集力を身につけよう

計画(1)“ターゲット主義”の落とし穴

今回は、市場やニーズを掴むために必要な「編集力」を取り上げたいと思います。Webメディアにおいて、潜在層と顕在層というセグメント発想は、とても重要です。ただポイントは、この2つの層はある側面においては分けられないということです。例えば、調理器具を訴求したいサイトがあったとします。そこでは調理器具を買いたい人が顕在層で料理好きは潜在層です。

この2層で集客やコンテンツを考えると、どうしても顕在層に対してのロイヤリティ向上なのか、潜在層に対してのブランディング認知なのか、ニーズ喚起が必要な層(インサイトの掘り起こし)なのかというように目的が異なるコンテンツや施策を計画しがちです。この統一性のなさが、メディアやサービスの特性を薄めてしまうのです。すなわち、「ターゲット至上主義」ばりにターゲティングだけに頼るわけでなく、まずは消費者の欲求をしっかりと汲み取る必要があるのです。料理好きも調理器具を買いたい人も、「料理という部分」では、どちらも「顕在層」というわけです。

 

計画(2)ニーズをつくり出して顧客を創造しよう

顕在層と潜在層というようなターゲティングをする前に、その2つの層がクロスオーバーするポイントを見つけることが重要です。先ほどの例でいうと料理をしている層と調理器具を買いたい層は「料理好き(男子)」というテーマでくくることができます。数値や属性という観点で私たちは効率よく客観的データを獲得し、マーケティングに活かす術を手に入れました。しかし、そういった定量化されたものだけでなく、消費者のインサイトを汲み取り、新たな消費者を創造する観点も必要です。

マズローの5段階説という自己現実理論をご存じでしょうか。最近の消費者インサイトを考慮するうえで参考になります。

 上図「Point 2」のように

(1)生理的欲求
(2)安全欲求
(3)社会的欲求
(4)評価欲求
(5)自己実現欲求

でいうと、すでに(5)まできていると考えられます。そのため有益な情報や顧客満足はもちろんのこと、ベネフィット訴求も超えた消費者自身の成長欲求をくすぐる感覚が求められます。

例えば、コーヒーショップ。コンビニやチェーン店でもお手軽、安価で淹れたてのコーヒーは飲めます。そんなメリットやベネフィットが明確にもかかわらず、昨今の消費者は個人の店舗やこだわりのあるお店に心惹かれます。

そのコーヒーを飲んでいる自分、好きな豆、好きな淹れ方で飲むという行為が重要であり、飲むことだけが重要ではないのです。飲んだことがある顕在層、飲んだことがない潜在層というところからスタートすると消費者のインサイトを見落とす可能性があります。数的根拠だけに頼らないニーズをつくり出す「編集力」が必要なのです。

 

消費者が「自分ゴト化」できる切り口を考えよう

計画(3)直接的な目標に加え間接的な要因を探る

前項の「ニーズをつくり出す」という作業は、雑誌づくりを考えるとわかりやすいかもしれません。例えば、「Tシャツを紹介する」特集テーマがあったとします。もちろん、カタログのように掲載することは可能ですが、読者にとって必要な物という訴求だけではなく、「なぜ着てみたくなるのか」といった文脈を探します。読者が自分ゴト化できる切り口を考えるのです。これが「ニーズをつくり出す」という編集作業です。

今回のお悩みであれば、自社のWebサービスを使ったことがある顕在層、使ったことがない潜在層という以前に、「そもそも自社のサービスは、どんな人に使ってほしいのか?」「使うことによって得られる実利は?」といった部分の整理をしつつ、さらに「利用してもらえるとどんな楽しみがある?」「どんな充実感が得られる?」という部分までも考慮すべきです。消費者が抱く(5)自己実現欲求への対応です。

そして、もう一つ重要なポイントは「間接的な要因を探る」ことです。ターゲティングは直接的な結果を導き出すフレームワークです。ただ、このアプローチだけでは不十分だという話をしたとおり、間接的なあり方も視野に入れないといけません。「間接的な要因」とは、結果の数値ではなく目標から得られるブランディング貢献です。例えば「その商品が日本一というイメージ」や「唯一無二の商品」といったことです。こういった抽象的な目標だと敬遠されがちですが、この抽象的な事柄を具体的にしていくのが重要なのです。

「商品を日本一にするぞ!」という思考があれば、「商品を売ろう!」という発想以外に「どうやったら商品を欲しくなってくれるだろう?」や「商品に興味を持ってもらうには?」といった消費者の意識、さらには「商品がどう伝播していくべきか?」といった観点が生まれてきます。

計画(4)生産性よりも創造性を意識してみよう

今回は、編集力の中でとても重要な「ニーズをつくり出す」というところにビジネスマンの必須能力を照らしあわせてみました。そもそも編集能力がマネタイズに直結するイメージはないと思うのですが、ソリューションビジネスという面では話が違ってきます。

ビジネスを「何かしらの課題(ニーズ)解決」という前提にしてのお話ですが、「ニーズをつくり出す」ということは、ドラッカーの「顧客の創造」という視点にとても近く、ビジネスマンの必須能力です。生産性向上といった効率的な部分だけでなくクリエイティブ面での影響力を考える必要があります。好条件な状況での「生産性アップ」よりも、新たな市場が生まれるかもしれない「創造性にシフト」するのはごく自然な流れなのかもしれません。

今回のお悩みは、PDCA作業にも関係しています。ある範囲内での改修を都度行い最適化するPDCAはとても大事なのですが、消費者との距離が離れていってしまう可能性もあります。それは消費者の意識を数値化したデータだけでは顧客の創造は生まれないからです。「相手の心情を読み取り、相手がどのような状況になったら心地よいか」を常に考え、それに基づいたアクションがPDCAの根底には必要です。

「人間の行動や心理に紐づいた中で、直線的な思考でなくさまざまな可能性を探すこと」※1という「デザイン思考」が求められているのです。「どうやってリーチを伸ばせるか?」という直接的な考えではなく、「どうやったらリーチが伸びるのか?」というデザイン思考で考え出すということです。それには、問題の枠組みを変え、ニーズをつくり出すという観点で考える「編集力」が活きてきます。

※1 「HARBOR BUSINESS Online」参照

教えてくれたのは…酒井新悟 Shingo Sakai
RIDE MEDIA&DESIGN株式会社 代表取締役社長 https://www.rmd.co.jp/ Facebook ID Shingo Sakai 大学卒業後、祥伝社へ入社。編集者としてファッション誌「Boon」に携わった後、BoonのWeb版「boon.web」でWebディレクターとして活躍。2006年にWeb、メディア、デザインを総合的に制作及びディレクションをするRIDE MEDIA&DESIGN株式会社を設立。現在は、従来の職域にとらわれない新しい時代の「編集力」を活かして、様々なソリューションビジネスに携わっている。
酒井新悟
※Web Designing 2019年2月号(2018年12月18日発売)掲載記事を転載

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