クライアントの反応からわかる企画提案の落とし穴 事例詳細|つなweB

通らない理由を振り返るには抜けていた視点の発見が不可欠

企画書の振り返りに大切なのは、全体を客観的に見渡す視点です。これは企画提案を受けたクライアントが意思決定する際の思考を想像すると、わかりやすいかもしれません。どの企業も、「自社らしいか」「ターゲットにとって適切なコミュニケーション方法か」「予算や考えられる効果は適切か」など、非常に多くの視点から吟味、判断をしていると思います。ですから、実現に至らなかった企画には、客観的にどんな視点が足りなかったか、まずは多くの視点から分析し、知ることが重要です。

RIDE MEDIA&DESIGN(以下RIDE)では、プロジェクトの立ち上げ・企画提案段階でチームを組みますが、多くの場合で“4 MAN CELL 1 SET”を採用しています。これはチーム内にプランナー・エンジニア・デザイナー・コンテンツディレクターの4職種(または職に準じる知見がある者)を揃える仕組みです。クライアントの課題やニーズ、さらには企業文化や社風までも多角的に把握・検討し、重層的な施策を導き出すための手法ですが、複数人による視点の横断が起こるので振り返りにも同様の効果があります。

また、多くの視点をつくるという意味では、自分やプロジェクトメンバーだけでなく、他のグループや職種のメンバーにフィードバックを仰いでもいいでしょう。プランニングの際、アイデアの輪郭が鮮明になっていく一方で、気付けば単眼的な見方になってしまっていたということは、少なくないのです。

デザインのように感覚的な判断に陥りやすい要素は、クリエイティブの見直しだけでなく、課題の本質や施策全体の目的に紐づけて制作意図をしっかりと伝えられていたのかも振り返りましょう。提案側の説明不足により、クライアントが感覚的な判断にせざるを得ない状況をつくってしまっていなかったでしょうか。

その上で大きな原因が見つからなければ、プレゼンで得たクライアントの反応を手がかりに“実現への道”を考えましょう。反応にもさまざまなパターンがありますが、今回はプレゼンの際に比較的よく聞かれる「もっといい案ない?」「もっと安くならない?」「これも追加できない?」の3つのシチュエーションを考えてみることにします。

ただ、最初にお伝えしておきたいのですが、ここに紹介する問題は、クライアントとのコミュニケーションによって改善できることばかりです。コミュニケーションを増やせば、得られる情報量が増えます。もしかしたら顕在化した課題だけでなく、言語化されていない課題にも気付けるかもしれません。つまりコミュニケーションの総量を増やすことで、より正しくニーズを把握でき、適切な企画提案へとつなげられるのです。

いまやどんな職務でも避けられなくなってきた企画提案。まずは振り返りによる現状の改善をしてみてはいかがでしょうか。

 

01 もっといい案ない?

代案を求められる原因は、企画の精度ばかりではない

度重なるプレゼンや複数案にも「もっといい案ない?」という反応が返ってくる場合、最も多い原因は「前提事項の共有不足」、要するにヒアリング不足です。つまり、「情報収集力」「質問力」不足が原因です。そのため、課題抽出や課題形成に必要な情報量が足りず、企画の設定軸がズレてしまっている可能性が高いのです。RIDEでも、長いものでは半年~1年を費やすほど、ヒアリングは重要視しています。

前述したように、ニーズ把握のためには、先方と十分なコミュニケーションが取れていることが前提です。量を増やすと同時に、聞き方も見直してみましょう。オープンクエスチョン(自由回答)で情報を得られないなら、クローズドクエスチョン(選択肢など)で質問に答えやすい環境をつくる、クライアントの話に対して5W1Hで質問を連鎖させるチェーンクエスチョンを使ってみるなど、さまざまな手法があります。

また、先方の理解が得られる時は、課題を把握するための“シャドー提案”の時間を設けてもらうことをオススメします。これは「課題把握」が目的で、先方の状況は気にせずゴールまでの理想のプロセスを描いて提案します。「ウチはそういうことができなくて…」との返事があれば、「なぜ?」と、質問するきっかけが生まれます。

もう1つは、「別の案も見てみたい」という場合です。RIDEも多くの場合、ベストな一案のみ提案するため、こうした要望を受けることがあります。その場合は、クライアントとともに目的に再度立ち返り、企画書の中で課題解決のために足りない要素がどこかをじっくりと話し合います。そこが言語化され、共有できれば、細部のチューニングで対応できる場合もあります。また、自社のプランニング段階でボツになった案の理由を説明することで、納得いただける場合もあります。この提案だから得られるゴールが明確になり、逆に実施しなかった場合の不都合も伝えることができます。

大切なのは、別案を望む理由をしっかりと確認することです。その理由が明確でない場合、別案を出しても企画にズレが生じてしまうことは想像に難くありません。

 

02 もっと安くならない?

ディスカウントを望む本当の目的は?

企画の実現において避けて通れないのが、予算の交渉です。先方から「もっと安くならない?」と返ってくる場合には、大きく2つの原因が考えられます。

まず1つ目が、先方にとって費用対効果の高さを感じにくい場合。特に、決裁者が窓口の担当者とは別に存在するケースは多く見られる現象です。この担当者は企画の魅力を別の決裁者(多くの場合は上司)に説明し、承認をもらう必要があります。その際、もっとも決裁が得られやすいだろうと想定されるのは、数値的根拠に基づいて費用対効果の説明がしっかりと簡潔になされている場合ではないでしょうか。まずは「なぜそう(高く)感じるのか」を細かくヒアリングし、理由を見つけましょう。そして、伝わっていない部分がわかったら、担当者から決裁者(上司)へのプレゼンシーンを想定して、再現性を意識した上で資料を修正したり、補足説明を行ったりしましょう。

また、段階的に施策が続く提案では、最終的なKPIまでの道のりが遠く、適切なスケジュールなのか、適正な予算なのか判断しかねることもあると思います。その際は、部分的に細かく目標を設定し、段階的に取り組みを始める交渉をしてもいいでしょう。

そして2つ目は、担当者の素朴な「安いに越したことはない」という気持ちや「一応、予算交渉してみよう」という認識です。これも自分をクライアントの立場に置いてみれば、気持ちが理解できるのではないでしょうか。低予算で効果的な企画を実現できれば、きっと社内でも評価されます。また、浮いた予算を別の施策に当てることができるかもしれません。そのため、必ず予算の交渉はしておこうと考える担当者もいるはずです。この場合は、まず交渉の焦点を「予算」以外でも提案してみることが大切です。納期を遅らせることでコストが下げられるのであればスケジュール交渉を、プロジェクトパートナーとして先方に担当いただける部分があれば作業領域の分担を交渉します。予算のみを交渉のテーブルにあげるのではなく、「可能性がある合意パターン」を複数提案することが重要です。

 

03 これも追加できない?

困った時ほど全員で課題や目的に立ち返ろう

打ち合わせのたびに要望が変わる、要望が増え続けるといった問題は、関わるメンバーが多い中~大規模プロジェクトなどで起こりやすいものです。その大きな原因の1つに、クライアント内での意識統一や情報共有ができていないことがあります。

この場合、多くはクライアント社内の他部署、多数のステークホルダーからの要望がバラバラに出てくる構造自体が問題だと考えられます。クライアント社内で自社ブランドやサービス、商品に対して、認識が揃っていない状況が課題と捉えることもできます。そのため、追加要件のたびに企画書の見直しを進めるよりも、まず一度、インナーコミュニケーションの形を改善したり、意識統一を図るための施策を提案してみたりするのも手です。

また、企画が具体化するに従って、個別の意見が舞い込んでくることもあります。旅行で例えると、カーナビの目的地設定を終え、すでに車は走り出しており、到着時間も高速料金も事前に把握し、同乗者にも承認をもらった上で動き出している状況です。

ですから、「あそこにも寄ってみたい!」という申し出に経由地を増やすと、最短ルートも到着時間も高速料金も、すべて変わります。すべてに立ち寄ることはできるので、要望を一旦受け入れてみる「YES,and」のコミュニケーションが望ましいですが、何かが犠牲になることは伝えなければなりません。

この場合は、まず今回の企画で実現したいことや目的にメンバー全員で立ち返ります。ゴールまで最短時間で到着することを目指すのか、時間に余裕があるのか、予算は追加できるのかなどを検討していきましょう。そして優先順位をつけ、本当に今やるべきなのか判断していきます。

また、先回りした提案で回避することもできます。先方の本質的な目的や課題を把握して、そのために必要と判断した内容は、オプションという形で提案し、顕在化させていくことが望ましいです。そうすれば、追加要望まで含めた納期や予算調整ができたり、起こりうる追加要件の整理というディレクションコストが軽減されたりする可能性もあります。

木村早苗
※Web Designing 2019年6月号(2019年4月18日発売)掲載記事を転載

関連記事