インプットとは?
インプットとは「入力」という意味で、コンピューターの内部に情報を取り込むことを指します。「アウトプット」とは「出力」を意味し、アウトプットはコンピューターにある情報を外部に取り出すことを指します。本来はコンピューターに対する「入力」「出力」という意味で使われる「インプット」「アウトプット」ですが、人間の脳に記憶することや、学習することをインプットといったり、何かを表現することや作品・成果物を制作すること、または作品そのものをアウトプットといったり、人間の活動に対しても使われることが多いことばです。
1. 「クライアントが本当に望むこと」を常に意識する
「あなたにお願いしたい!」と思わせるための事前準備が鍵
「インプット」を必要とする状況を想像してみてください。新規案件、既存案件のいずれにも関わらず共通するのは、「どう伝えるのか」というアウトプットへの意識とともに、「クライアントが本当に望むことは何か」を考えて情報収集するという意識が必要です。
クライアントが一声かけてくる状況を考えた時、仕事を引き受けるWeb制作会社側の理想は「指名」です。声がかかった後の交渉で、クライアントの気持ちをつかめば正式な依頼に発展しますが、うまくいかなければクライアントは他社の様子をうかがいたくなります。
クライアントとWeb制作会社とをブリッジする立場で仕事を手がける機会が多い私たちの実感としては、「課題解決をどこにお願いしていいか迷う、わからない」と悩むクライアントがとても多いことです。クライアント側の業務は多忙をきわめています。窓口の担当者も1つの業務に専念しづらい状況であることをよく見受けます。こうした相手に、もし「この制作会社は、先回りして私たちのことを考えてくれる」と思わせられれば、仮に最初の声がけの段階では曖昧だった依頼への意識が、強い確信へと変わっていくでしょう。
また、最初の声がけの時点ではクライアントからあまり情報が示されていないことも多々あります。だからこそ、少ない情報をテコにして「何を望んでいるか」を考えながら情報収集を進め、「クライアントの本質的な課題」を事前につかむくらいの意識でインプットしましょう。
「インプット」とは、ただ相手の情報を入れる受動的な工程ではないのです。クライアントに「頼れる相手だ」「もっとお願いしたくなる」と思わせる、相手を説得するための能動的な工程なのです。
2. 先回りして徹底的に調べておく
新規案件はクライアントの情報を掘り起こして本質をつかんでおく
例えば、「A会社のB部署でプロジェクトリーダーのCさんから、主力サービスDのプロモーションサイトをつくってほしい」という新規案件話があったとします。勝負は一度目の打ち合わせです。相手の話とともに、クライアントが求める範囲はわきまえつつ、先回りして相手の課題の本質を把握できるかです。
基本情報を検索しただけで初会合に臨み、お互いの会社紹介だけして帰ってくるようでは「私たちは頼りになりません」と伝えにいったようなものです。
この例だとA会社→サービスD→B部署→Cさんという優先順位で事前に掘り下げます。A全体が手がけるビジネスサイズや主な売り上げは何か、Aの競合会社やその中でのポジション、サービスDの詳細や売上を上げるための方程式は何だと考えるべきか。Dと競合とを比べた時にできていることとできていないことは何か、などについておおよその当たりをつけておきます。
余力次第でB部署についてや、Cさんについても調べます。Cさんはプロパーなのか転職組なのか。所属部門の在籍は長いのかなど、すべてわかるわけではないものの、インターネット検索によってわかることがあるので調べておきます。過去にインタビューなどメディア露出がある人なら、その中身に目を通して人となりや考え方、担当施策などもインプットします。A~Dを把握したら、プロモーションサイトという要望が本当に現状の最適な施策かの検証を行います。
サイト自体がすでにある場合は、サイトのクリエイティブや構造、ナビゲーション、タグも見てテクノロジーの導入状況も探りましょう。競合についても同様に調べます。あとは打ち合わせ時間内に、優先度の高い項目からクライアント目線で話を伝えると、「わかろうとしている」「一緒にやろうとしてくれている」という気持ちの共有が生まれやすくなります。
NGは、自社紹介中心、自社の得意なことだけを話すことです。サイトを見ればわかる実績や強みを話しても、閉じた方向にしか話が向きません。
時間を取ってもらいやすい既存案件でのインプット術
既存案件ではどうでしょうか。既存案件だと、直接会う予定も組まれているでしょう。そこでのやりとりが今後の仕事につながる可能性があります。例えば、クライアントとの雑談中に「もっと集客施策に力を入れてみたい」という話が出れば、その一言がクライアントの課題認識で、そう遠くない時期に動き出すシグナルと読み取れます。
この場合、「集客」という基点ができます。集客に絡めて改善施策がしたい意思も現れています。ここからまず現状の集客施策の状況を調べ、これからの集客施策のあり方も検討しながら、最適な展開施策が本当に「集客」なのかも見分けていきます。集客の前の「認知」にもっと力点を置かないと、集客施策を打っても投資に見合う効果が期待薄だ、と見えてくれば、一度クライアントに時間をつくってもらいましょう。新たな提案は、施策のニーズを考えると相手も聞く耳を持ちやすいはずです。
クライアントは集客に固執しているのではなく、成果を引き出す施策を優先したいはずです。ここまでの提案に一定の説得力が示せれば、ビジネスにつながらずとも、好意的な印象を残すでしょう。こうした、現場でつかんだヒントから先回りしたインプットが、次のビジネスを生む可能性を高めます。
もう1点補足すると、本業にかかりきりのクライアントの担当者は多く、競合サービスの施策を追いきれていないということがあります。例えば、競合製品サイトのリニューアルにあわせて自社の足りない点や競合が進化した箇所をレポートすると、現状把握できたクライアントが次へのアクションを検討しやすくなります。
3. 3C 分析を踏まえた「インプット」を!
クライアントとの初動を大切に。協議できる時間につなげよう
ここまでの内容をまとめると、インプットは「クライアントの本質的な課題を掘り起こすための工程」だということです。クライアントが設定した課題を尊重しながらも、本当にプライオリティの高い課題なのかを見抜く必要がある。見抜いて本質的な提案ができれば、クライアントに最大の貢献ができるのです。
私たちの場合、特に初動を大切にしています。最初の会合に備えて、最低でもクライアントの事業環境、売上順位や市場シェアなどのビジネス環境、マーケティング環境、お客様からの評価といった4つの視点は必ず押さえます。初回の打ち合わせで全部を明らかにする必要はありませんが、あらかじめ押さえておくことで、優先度が高く、品質を担保した提案がしやすくなります。
できていなかったという人たちは、3C分析(Customer、Competitor、Company)に基づくインプットを優先的に実行するといいでしょう。3Cを意識してインプットできると、市場と顧客の変化をつかみ取り、本質的な課題や競争に勝ち残る条件(キーサクセスファクター)を見つけ出すことができます。
ここまでの話をもう少し体系立てながら、インプットのあり方として整理すると、参考にしてほしい「はじめの一歩」が上のシートです。特に意識してほしい項目を抜粋してまとめた状態です。最低限、上に挙げた項目を意識してインプットを深めてください。漠然と表面的に調べていた今までのやり方が、大きく改善されると思います。これからの打ち合わせに向けて、能動的な準備になります。
先回りを心がけたインプットができると、「言われたことをやる」状態から脱却できます。言われてからやると、クライアントは「10を伝えたのに、8しか反映できていない」と齟齬が生まれがちです。言われる前に提案できると、多少の認識のズレがあっても、クライアントはそのズレをあまり気にしないはずです。ズレよりももっと本質的で踏み込んだ内容にこそ、クライアントは大きな関心を寄せてくれるからです。
注力したインプットへの時間は決して無駄にはならない
Web制作会社のみなさんが遭遇しやすい状況を想定すると、中心はデジタル案件でしょう。「クライアントのエンドユーザーを行動させるには?」という観点のもと、3C分析を踏まえて、例えばWebサイトの構築(リニューアル)というソリューションが見えてきたら、クリエイティブだけでなく、集客やニーズ喚起、サービス理解、コンバージョンの促進といった観点からWebサイトがどう機能しているか。競合会社のWebサイトと比較したら、競合側がどれほどできているか、見込み顧客/新客/常連客といった顧客ステージによって、現状分析と今後の取るべきアプローチはどうか、なども事前に把握したい側面です。上のシートも参考にしてみてください。
さらに加えると、クライアントの業界のテクノロジーについても踏み込むといいでしょう。マンションなどのデベロッパーだと、MAの導入は各社がある程度できているけれど、顧客データを管理するDMPもとなると先行とみて良かったり、転職支援界隈ではユーザーとのやり取りのスタンダードがメールからLINEに移りつつある、などのことです。MAしかり、LINEしかり、自社にとって不得手な技術面が、本質的な提案に関わる部分であれば、その部分が得意な協業パートナーの力を借りてクライアントに提案の機会をもらうべきです。
インプットという作業は、地味で、必ずしも成果をもたらすとは限らない行為ですが、きちんとやれば、クライアントとの信頼が深まります。特別な企画をつくる必要はないのです。地道にコツコツ積み上げてきたインプットを通じて、クライアントの本質に通じる課題を探り当てられるかどうかです。