「聞かせる」と「見られる」を 意識したプレゼン術 事例詳細|つなweB

STEP1 相手に与えたい印象を考える

プレゼンで目指すゴール

プレゼンにおける成功は、企画内容をうけて、こちらの思い通りの印象・感想を持ってもらうことです。そうなるためにはどうすればいいのか、というところから伝える構成を考えていきます。

 

プレゼンを重視していますか?

企画書をつくることばかりに熱中し、プレゼンではただ企画書を読み上げているというケースを散見します。特に企画内容に自信があるからこそ、プレゼンは重視していないということはないでしょうか? プレゼンに力を入れるというのは、口八丁でどうにかしようということではありません。当然、企画内容自体がよいことが大前提です。しかし、プレゼンをおろそかにすると、結果的に損することが多いように思います。効率的な労働という観点からも、企画書やプレゼン資料づくりに毎回やたらと時間をかけるよりは、それらは必要十分なものに整えて、あとはプレゼンの力でその企画の魅力をきちんと伝える方が効果的です。

よりよいプレゼンにするためには、さまざまなスキルがありますが、スティーブ・ジョブズ氏のような強烈に人を魅了する力や、アナウンサーのような流暢な語りを目指す必要はありません。熱意を適切な温度で、内容をわかりやすく伝えることが大事です。プレゼンを上手に行えた場合、クライアントの感想は「プレゼンが上手だったからこの企画を採用した」とはなりません。「熱意を感じたから、わかりやすかったから採用した」となるはずです。内容と熱意の両方が伝わるプレゼンにするに越したことはないでしょう。

 

少しの練習でプレゼン力は大きく成長する

プレゼンは肉体的な行為であり、スポーツのようなものです。やったことのないスポーツはいくらテレビで観ていても自分でできないのと同様に、プレゼンも練習しないとうまくできるようにはなりません。ただし、そんなに複雑で難しいスポーツではないので、少し練習するだけでかなり上手になります。

ビジネスパーソンにプレゼン指南をする「『伝わるプレゼン』トータル支援パッケージ」というサービスを開発・提供していることもあり、自身でもプロのトレーナーによるプレゼンのトレーニングを体験しています。参加者の方々を見ていても、1~2日トレーニングをするだけで、自信を持って落ち着いてしゃべられるようになり、明らかに効果が出ていると感じられました。

例えば、プレゼンをするときは聞いている人の目を見るとよいとされています。相手の人数が多いときも、一人ひとり順番に目を見ていくと「自分に向かって話している」という印象を持たせられます。だいたい7~8秒見たら、相手に見ているという印象を持たれるので、じっと見る練習もしました。見ている自分はものすごく長い時間に感じますが、見られている方は、大して長く感じないものです。

トレーニングの際には、プレゼンの練習を録画して何度も見直すこともしました。プロによるトレーニングを受けなくても、例えば自分がプレゼンしている映像や音声を聞き返すことで改善点が見つかり、上達していきます。普段、プレゼンを録音や録画することはあまりないかもしれませんし、自分で見たり同じ社内のメンバーに見られたりするのは、とても恥ずかしいのはわかります。しかし、練習したものを見返してみると、プレゼンを聞く側の視点で改善しやすくなるでしょう。また、これからご紹介するプレゼンのためのポイントを押さえつつ、反復練習をすることでかなり上手になっていくのは確実です。

 

目指すゴールを設定する

ではここから、そもそもプレゼンの目的(ゴール)は何かということを考えていきましょう。これが、プレゼン準備として最初に行うことです。企画を提案するクライアントにどんな感想を持ってほしいか、企画を提案した広告会社や制作会社などが帰った後、クライアントにどんなことを話題にしてほしいかというところから考えます。これが社内の上司に向けたプレゼンであれば、その夜に同僚と行った飲み屋でどんな風に話題にしてもらいたいか、プレス向けの記者会見であれば、どういう見出しや論調の記事にしてもらいたいか、がゴールとなります。そうした目指すゴールどおりの評判を得られることが、プレゼンにおける成功です。

プレゼンで投影するスライドや話す順番の構成も、目指すゴールから逆算して考えていきます。例えば企業の課題解決をするようなプレゼンの場合は、これまでどんな状況であり、それをどう変えたいか、そのためには何をすべきかといったように、起承転結の流れで伝える方が向いているかもしれません。また、新商品や新サービスなどを訴求する場合は、まずは何ができるものなのかという結論から先に伝え、その後に市場のニーズやユーザーインサイトなどの背景を伝える方が向いているでしょう。あわせて、誰にどういう環境で、どれくらいの持ち時間で伝えるのかというところも含めて、プレゼンで伝えるべき情報の量や質などを決めていきます。

プレゼンに絶対解はありません。誰がどういうシチュエーションで聞き、どういう結果をもたらしたいのかによって、やるべきことは大きく変わってくるのです。

 

 

STEP2 見る情報か聞く情報かを意識しよう

伝わるスライドと原稿

プレゼンが企画書の役割と大きく違うのは、目で読むだけなのか、耳で聞いてもらうものなのかという点です。投影するプレゼンテーションスライドも、見ながら同時に口頭で伝えていくという状況を想定して制作するとよいでしょう。

 

プレゼンテーションスライドの作成

プレゼンでは企画内容が一番大事なのは当然ですが、どのような見せ方、話し方で伝えるかということをもう一工夫することで、よりわかりやすく印象的に、その企画の魅力を伝えることができます。

前述した「ゴールから逆算した全体の構成」が決まったら、次はそれを基にプレゼンテーションスライドを制作していきます。このとき、スライド全体のページ数もそうですが、スライド1ページごとの要素もたくさん盛り込みすぎないように気をつけましょう。より詳細に、たくさんの情報を伝えたいという思いも理解できますが、情報量が多すぎても聞く方は疲れてしまいます。また、どこが重要なポイントかもボヤけてきてしまいます。プレゼンは説明とは違うので、1から10まで網羅する必要はないのです。

コンペの場合など、プレゼンの持ち時間が厳格に決まっているときは特に、時間に対して適切な分量になっているかに配慮しましょう。だいたいスライド1枚1分くらいが目安です。

また、「スライドのこの文字はもうちょっと色を薄くした方がよいのではないか」など、細部にこだわっている方がよくいますが、すごくカッコよいものよりも、スッキリしてわかりやすいことの方が大事です。意外と聞き手は細かいところではなく、大枠の印象で見ているものです。見た目の細かいところに過度な労力をかけるくらいなら、プレゼンの練習に時間を取る方が、熱意が伝わり有益です。

見出しと本文で級数に差をつけてメリハリを出す、全スライド間で図や写真のレイアウトに一定のルールを設ける、色使いはベース・メイン・アクセントの3色程度に抑える、文字装飾は極力使わないといったポイントを押さえておくと、見やすく情報の強弱がわかりやすいスライドになります。

また、Microsoft PowerPointをはじめとするプレゼンアプリは、直前の差し替えが簡単なのもよい点です。業務効率化の観点からも、図やスライドショーなどはプレゼンアプリ内で制作するのがオススメです。

 

スピーチ原稿を用意する

プレゼンで実際に話す言葉、またその語調を記入したスピーチ原稿を普段用意しているでしょうか? 目で読みやすい文章と耳で聞き取りやすい言葉は違うので、使い分けが必要です。よくあるのが、「ああ、原稿を読んでいる」という印象のスピーチです。書き原稿をそのまま読むとこういう印象になってしまい、聞き手の頭や心にあまり入っていきません。

例えば、「現場のニーズに即したスピーチ原稿を実現します」というのは目で見る文章ですが、耳で聞く言葉では、「現場のニーズに即します。そういうスピーチ原稿を実現します」というように、短くぶつ切りするのがよいです。

このとき、1拍空けるところ、数秒空けるところ、早口でさらっと言うところ、強調してゆっくり強めに伝えるところなどの緩急をつけると、聞き手に話が入っていきやすくなります。口調のメモや強調するところは太字にするなど、ト書き入りのスピーチ原稿を用意しておくとよいでしょう。特に初めて聞く内容は、聞き手が咀嚼する時間も必要なので、間を空けることは大切です。

プレゼンする相手にもよりますが、原稿ではその人らしさが感じられる自然な口調になるよう、話し手の口癖や普段使っている方言はあえて入れておくのも手です。自然な口調に感じると、本心で話しているという印象になります。

また、企画書やリリースなどの文章で伝える媒体では、一度書いたことを何度も書く必要はありません。しかし口頭で伝えるプレゼンでは、一度言うだけでは印象に残らず聞き流されてしまうかもしれませんし、何度も耳にすることで、聞き手に「これが大事なことなんだな」ということが明確に伝わりやすくなります。

また、音読みで構成される漢語は聞いていて理解しづらいので、訓読みで構成される和音の単語を使うようにするのも一考です。同音異義語も紛らわしいため、勘違いを防ぐためにも極力使わないのがよいでしょう。

スライドを投影するのであれば、書いてあることをすべて口頭で言い直す必要はありません。見ればわかる部分は省略し、強調する部分を口頭で伝えたり、スライドにはないことを補足したりしていきましょう。

 

配布資料の注意点

企画資料を配布する場合は、ただスライドやスピーチ原稿をそのまま印刷しないようにしましょう。例えばスライドのカラーの図版を白黒で印刷して、線が潰れて読めないということはよくあります。また、スライドでは3ページに割った方がインパクトが出るけれど、紙で見るには1ページにまとめた方がスッキリとしてわかりやすいという場合もあります。

 スピーチ原稿についても、短いぶつ切りの文章は黙読資料としては違和感が出てしまいます。配布資料では、読んで自然な文章になるようにしましょう。

 

 

STEP3 プレゼンターの見られ方に気を配る

好印象な振る舞い

プレゼンの本番時、聞き手はプレゼンター自身も見ています。そのとき、身振り手振り、話し方、服装、仕切りのスムーズさといった点も印象を形成する要素の一つになります。企画内容の足を引っ張ることなく、よりよい印象を残せるようにしましょう。

 

自然な身振り・手振り・話し方を

堂々と落ち着いているプレゼンは、頼り甲斐や安心感があるという印象になるでしょう。身体が固まって縮こまっていると、緊張していたり、おどおどして頼りなく見えたりするので、自然な身振り手振りがつくのが望ましいです。肘が身体から離れると、堂々とゆったりした印象に見えてすごくよくなります。

ものすごく大きな身振り手振りをわざとやるのは、不自然に見えるので必要ありません。ただ、練習のときは少し大きな動作をしておくと、本番ではちょうどよい動きになります。本人はものすごく動かしているつもりでも、意外と小ぶりな動きという場合は多いのです。

また、聞き取りやすい話し方にすることも重要です。緊張すると早口になったり、内容を説明することに気をとられると淡々とした喋りになったりしてしまいがちです。それでは聞きづらく、せっかくの内容も伝わりません。先述したスピーチ原稿で指定したとおり、話すスピードに緩急をつけて、大事なことは声を張って伝えるようにしましょう。声自体がそれほど大きくなくても、芯の通った話し方になると、集中して聞いてもらいやすくなります。また、多少たどたどしくても、本当にプレゼンターがそう思っているという説得力が出てきます。自信を持ってしゃべっていることが伝わるだけで、印象が違うのです。

 

服装が与える印象を考える

人は見た目が9割と言われたりしますが、実際に服装などの見た目が与える印象は大きいです。プレゼンにおいても、聞き手にどういう印象を与えたいのかを基準に、服装を考えていくとよいでしょう。例えば頼もしい期待感を感じてほしいのか、ワクワクするおもしろみを感じてほしいのか、信頼感を与えたいのかといったように。

清潔感があり、そのプレゼンの場のTPOにあった格好をすることは最低条件ですが、別にすごくオシャレである必要はありません。プレゼンター自身に似合う格好をしていることが大切です。ビジネスの場では、スーツであれば間違いないと思われるかもしれませんが、それもシルエットが身体にあっているかどうかで、印象の良し悪しが大きく変わります。特に年配の方はブカブカしたサイズを好む傾向があるのですが、肩が落ちカッコ悪く見えがちです。痩せていたり小柄だったりする方は、貧相で頼りなく見えてしまいます。一方、体型にあったウエストにくびれのラインが出るようなシルエットだと、スッとして見えます。スーツは男性の補正服と言えるほど、シルエットが大事なのです。また、ボタンダウンはカジュアルなのでビジネス向きではない、ラベルが細いとモードになりすぎるなど、スーツにはさまざまなルールがあります。服装は経費ではなく自腹の場合がほとんどだと思うので、予算面で難しいところもあるかもしれません。しかし、高級な生地でフルオーダーで仕立てる必要はありません。今は手頃なパターンオーダーのサービスがあるので、ぜひ活用してみてください。

また、人は「金色が似合う人と、銀色が似合う人に大別される」と言われています。実際に金と銀の布の上に手を置いてみると、どちらが肌の色に似合うかは素人目にもすぐわかります。もし赤のネクタイを選ぶとしたら、金が似合う人は金ぽい赤、銀が似合う人は銀ぽい赤にするとよいでしょう。

ただ、特別な意図がある場合は、この限りではありません。例えばクライアントのコーポレートカラーや商品特徴を反映した服装で、熱意の強さを伝えたり場を盛り上げたりすることを狙いとするのもよいでしょう。

 

質疑応答時の仕切りでスムーズな対応力を

プレゼンの後には、質疑応答タイムが設けられることもあります。このとき、全て一人で答える場合はよいのですが、複数人で答える場合は誰が回答するかという仕切りをスムーズに行うことが大切です。あらかじめ、こんな質問が来たら誰が答えようという打ち合わせをしておくのも必要ですが、全体を見渡せる人が仕切っていくのがよいでしょう。例えば「この質問はプロデューサーの○○から答えます」「この質問はデザイナーの○○とプログラマーの○○から、それぞれ答えます」というように適切な人に割り振っていきます。みんなが勝手にそれぞれ話し出したり、しーんとしてしまうチームよりも、プロジェクトの進行も効率的でスムーズにやってくれそうだというイメージを持たれるのではないでしょうか。

また、その回答に専門用語が出てきて、聞き手があまり詳しくなさそうな場合は、わかりやすいように例えたり、用語解説を行ったりするのも、仕切り役の人がやるとよいでしょう。聞き手のレイヤーにあわせることが大事です。

さらに裏技的な話ではありますが、質問に答えながらも、プレゼンで話し忘れたことや、持ち時間中に語りきれなかったこと、競合他社との比較などプレゼンの中に正式には盛り込みづらい情報をここで話し、補足するということもできます。

平田順子
※Web Designing 2019年6月号(2019年4月18日発売)掲載記事を転載

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