「巧い企画」に共通する公式 事例詳細|つなweB

事業を行っていると日々企画の連続です。実際に鳴かず飛ばずだった企画もあれば、話題となった企画もある。そして、10数年間PRとしてたくさんのリリースに携わってきて思うのは、「巧い企画」には共通因子があること。これが一般論かはわかりませんが、私の定義では、「巧い企画」=「コンテクストづくり」×「固定概念の打破」という公式が当てはまります。私自身、なにかを企画する時もリリースを配信する時も、これが当てはまるかをチェックするようにしています。

まず「コンテクストづくり」というのは、社会的風潮、文化的背景を的確に捉え、そこから流れるストーリーに企画をピタッとはめ込むという技術。「腑に落ちた!」「いまはこれが必要だよね!」と、左脳で考えたときに納得できるストーリーを構築し、かつ社会と共有できる文脈をつくることです。
 もうひとつの因子「固定概念の打破」は右脳に働きかける技術です。見た瞬間に、「面白そう!」「見てみたい!」「使ってみたい!」と思わずにはいられないエッセンスと言えるかもしれません。これは見方を変えたり(逆から見たり)、掛け合わせたり、タイムマシーンに乗ったり(時代を遡る)、と拡げるところから発想を始めます。どちらかというと、私は苦手であることを自覚しているので、右脳への働き掛けが上手な人をパートナーに求める事が多いという余談をちょっと挟んでおきます。

さて、具体例をひとつ紹介。昨年秋、長野県茅野市とカヤックが共同で行った婚活キャンペーン「結日記」です。“交換日記”をする10組のカップルを募集して(片方は茅野市民)恋愛、ひいては結婚へと繋げようというキャンペーンです。

多くの自治体さんが婚活を主催するなか、茅野市職員の方が「普通の婚活企画には飽きたので、交換日記で恋愛を始めたい」と言ったことが発端でした。

昨今の婚活はマッチングアプリから始まるほどのデジタル時代に、手書きの「交換日記」というまさかの発想。「え、イマドキ?」という周囲の視線も顧みず、「やりたい」という一心で生まれたこの発案は、まさしく「固定概念の打破」です。

LINEで瞬時にテキストメッセージが送られ、告白の回答も数秒で返ってくるこの時代。いかに若者に受け入れられるか、という試行錯誤の過程が待ち受けています。そこでカヤックチームが「ゆっくり恋をはじめてみませんか。」「恋に、想像力を。」という手前味噌ながら“名コピー”を添えました。デジタルによるスピード重視の傾向、情報過多、味気ないWebフォントの時代…だからこそ、相手を想うことに時間を使う、人柄がにじむ手書き文字は価値があり素敵なんだという「コンテクスト」を添えます。そして、交換日記(もちろん郵送)という時代錯誤なアイテムを新しい価値へと昇華させ、「結日記」はリリースに至りました。結果、募集枠の10倍に達する応募数を集めた話題の企画となったのです。

と、偉そうに企画を語っていて気づいたことがあります。仕事では企画を常日頃やっている。でも、家庭(育児)には企画があまり生まれていないかも! と。自ら企画に参加すると、主体的になり、楽しくなりますよね。仕事も家庭もともに、いろいろなアイデアがチームメンバーから出てくる環境をつくりたいものです。

そろそろ、この10組の交換日記から始まる恋愛の行方がサイトで公開されていますので、ぜひ覗いてみてください 「結日記
ナビゲーター:松原佳代
2005年に(株)面白法人カヤック入社。広報および企業ブランディングを担当する。2015年に独立し、株式会社ハモニアを設立。スタートアップの広報戦略、広報人材育成をおこなう。2017年7月より、(株)カヤックLivingの代表取締役を兼任。暮らし、住宅、移住をテーマとする事業を展開する。カヤックLiving/ Twitter @kayom
松原佳代
※Web Designing 2019年6月号(2019年4月18日発売)掲載記事を転載

関連記事