Googleアナリティクス4でWebデザインはどう変わるのか 事例詳細|つなweB

GA4の新たな計測プロセスや指標はWebデザインにどのような影響を与えるのか。Webサイトの構築・設計・運営支援をはじめとする、さまざまなクリエイティブ事業を展開するデザイン会社・株式会社コンセントの二人に話を聞きました。

 

足立 大輔さん
株式会社コンセント プロデューサー/プロジェクトマネージャー
サイトの戦略策定や設計・構築、ウェブアプリ・イントラの体験設計やUI開発など、長期に渡る大規模プロジェクトにおいて幅広い領域の知見でプロジェクトリードを行う。https://www.concentinc.jp/
田所 和輝さん
株式会社コンセント ウェブディレクター
プロダクトのブランドサイト構築や企業サイトのリニューアルを幅広く手がける。他、実績としては国立研究開発法人の広報サイトリニューアルなどがある。

 

感覚的”だったGA以前のWebデザイン

2005年にGoogleアナリティクス(以下、GA)が登場するまで、この世の多くのWebサイトは制作者の手に委ねられていたように思います。デザイン面では情緒面が多分に重視され、どんなユーザーがどんな文脈で見るのかや、どのような目的を実現したいかといったことは置き去りになることも多かったと言えます。

また、当時はWeb制作者とクライアントのやりとりも情緒的・感覚的な側面が強く、お互いしっかりとしたロジックがないまま話が進み、結局クライアントが求めるままに出来上がっていたサイトも少なくなかったように思います。

そんな“非ロジカル”だったWeb業界を大きく変えるひとつの要因となったのが、GAでした。Webサイトのアクセス解析を行えるツールは当時ほかにもありましたが、多くの人が手軽に導入できるGAを利用していました。誰もが簡単にWebサイトを数値で“見える化”することを可能にしたという点で、GAは非常に大きな役割を果たしたと言えるでしょう。

また、Web制作者とクライアント双方がWebサイトの効果を数字で把握・分析できるようになり、互いの議論もより健全に行えるようになったことで、Webサイトの制作を根本から変えるきっかけをつくったのもGAだったと言えます。

 

GAの数値がデザインの拠り所に

GAで計測した数値がWebサイトの制作に与えた影響は多岐にわたります。たとえば、スクロール率によってページ内のコンテンツの配置を変えたり、クリック数によってクリエイティブやラベルを改善したり、ユーザーの流入経路によってサイトの構成や動線を見直したりするのは、その最たる例でしょう。

また、どのページがどれくらいコンバージョン達成に貢献しているかという相対的な「ページの価値」を測ることができるようになり、価値の高いコンテンツを拡充するといった施策につなげることができます。最近でいえば、ページの読み込み速度の指標もUXに大きく関わってくるでしょう。

Webサイトを制作する際には、ユーザーにわかりやすく情報を伝えたり、ユーザーが情報を探しやすくするための「IA(Information Architecture:情報アーキテクチャ)」という考え方が大切です。IA分野の第一人者である弊社代表取締役社長の長谷川(敦士)も著書の中で解説していますが、このIAの設計プロセスにおいては定性的、そして定量的なユーザー分析が欠かせません。

その誕生から現在に至るまで、サイトの定量的なユーザー分析のスタンダードとして存在しているのがGAであり、“GAで見られるもの”こそが、“Web制作者が見るべきもの”とイコールになったのです。これまで感覚的に行っていたWebサイト制作にロジックをもたらし、Webサイトの設計や誰もが手軽に利用可能な“デザインの拠り所”となったのがGAの数値だったとも言い換えられます。

 

01 Webデザインに影響を与えるGAの指標

GAによってWebサイトのアクセス解析が可能になったことで、それまでの「Webデザイン=感覚的なデザイン」が一変しました。Webサイトに誰がいつ何回訪れたか、またはどんな動きをしたかなどが数値で見える化されたことで、Webサイトの目的やKGI&KPIを達成するための仮説検証が可能となり、その結果に基づいてWebサイトをロジカルに設計・改善することが良いデザインに欠かせない要素の1つとなりました

 

GA4になってもWebデザインは変わらない

では、ユニバーサルアナリティクス(以下、UA)からGA4へ移行すると、Webデザインにはどのような影響があるのか。先に結論から述べると、GA4になったからといってWebデザインが大きく変わることはないと思います。

たしかに、UXの観点からすれば、セッション単位からイベント単位の計測に変わることで計測するユーザーの定義が変わり、またサイトやアプリなどを横断してユーザーがどのような行動をしたかについてもより正確に把握できるようになります。これまでのUAでは難しかった、より“本質的なユーザー体験”を“高い解像度”で知ることができるようになるのは非常に大きいでしょう。

カスタマージャーニー等を描くとわかりますが、Webサイトの利用は一度訪れて終わりではありません。ユーザーが1時間後に再びWebサイトを訪れることもあれば、場合によっては数日後、数カ月後に改めて訪れることもありますし、アプリなどのWebサイト以外のものにも接触した上でコンバージョンに結びつくと考えるのが普通です。弊社でもWebサイトをデザインする際はこうした本質的なユーザー体験を重視してきましたので、GA4によってより正しく数値化する土台ができたことは素晴らしいことだと思います。

ただ、ここで問題となるのは、果たしてどれだけの人がそうした分析を必要としているかです。Webサイトでリードを獲得して、それを商談や購買に結びつけるというシンプルなユーザー体験で十分な企業にとっては、GA4ではこれまでとは異なる見方をしなければならなくなるので、デメリットに感じるケースもあるでしょう。

また、UAからGA4への移行期間に猶予が設けられたため、これまで様子見を続けていて期限の迫ったこれからという人も多いはずです。UAからGA4への置き換えは徐々に進んでいるとはいえ、それを存分に使いこなしている人は果たしてどれだけいるのでしょうか。もしかしたら、GA4の可能性を提示して、クライアントを導くことがWeb制作者の役割なのかもしれません。しかし、分析結果からまだ最適解を導けない状態なのであれば、当面はGA4がWebデザインのUX/UIに劇的な影響を与えることはないと考えます。

 

02 情報アーキテクチャの設計プロセス

Jesse James Garrett氏が考案したUXデザインの5段階モデルの概念図。よいUXを生むためにはその土台となる戦略(Strategy)の段階でWebサイトの目的やユーザーニーズを明確化する必要があります。また、ここでUX/UI設計のベースとなるのが情報アーキテクチャの考え方。この図でいうと構造(Structure)の部分に当たりますが、その設計プロセスにおいてはユーザーニーズを明確化するためのユーザー分析が必須であり、GAによるアクセス解析の定量データがその際の大きな1つの指標となります

 

Webデザインで大切なのは“定性”と“定量”の二軸

もう1つ、GA4を語る上で大事なのは、たとえユーザーの興味や属性といった新たな数値が取得でき、ユーザー体験をより広い範囲で可視化できるようになったとしても、それは定量データの1つに過ぎないということです。これまではブラウザ単位やセッション単位で十分だったのが、現代にはそぐわないからという理由でGA4になっただけのこと。

また、GoogleがWeb検索のスタンダードになっているので私たちはその指標に従っていますが、「ChatGPT」のような新しいテクノロジーが今後誕生していく中で、それがいつまで続くのかは定かではありません。GA4によってデバイス間やブラウザ/アプリ間をまたいで計測できるようになったとはいえ、引き続きプライバシーを懸念する人もいるでしょう。

ですから、Webサイトの実際の制作フローでは、GA4の数値を盲信して仮説を立てるのではなく、定量データを取るための1つの判断指標として捉え、これまでのように定性的なユーザー分析をしっかりと行って、定性と定量の両軸で方針を立てることが重要です。GA4になったからといってUX/UIデザインが劇的に変わることはないと言ったのは、そうした理由からです。

 

03 定性と定量の2種類のユーザー分析

ユーザー分析は、定性分析と定量分析の二軸で行う必要があります。誰が、どんな状況で、どんな目的でWebサイトを利用するのかといった情報を知るために、グループインタビューやアンケート、口コミなどを通してユーザーの心理や行動を理解するのが定性分析。一方で、GAによるアクセス解析やデータマイニング等、数値から測るのが定量分析です

 

Webデザインで大切なのは“定性”と“定量”の二軸

とはいえ、Webデザインを行う上でGA4の理解を後回しにできる訳ではありません。同じ言葉でもUAとGA4では算出ロジックが異なる場合がありますし、今まで使ってきた指標が実は違うものになっている可能性があります。また、これまでのようにセッション単位で考えていると、クライアントとのやりとりで大きな認識のズレが生じてしまうでしょう。

ですから、GA4になってどのように指標が変わったかなど最低限の知識は身に付け、制作を中心に行っている人もスタートラインには少なくとも立っておくべきです。そして過去の新しい技術がそうであったように、最新情報をキャッチアップしてアジャストしていくという柔軟な姿勢を整えながら走り出しましょう。

また、これはUAでも言えることですが、GAはWeb制作者やクライアントの大きな武器になった一方で、同時に“手段の目的化”という副作用ももたらしました。本来、Webサイトのさまざまな数値を高めることはKGIやKPIの達成、ひいては事業貢献につなげることが目的ですが、ページビューやコンバージョン率といった目先の数値を上げること自体が目的化してしまうケースが散見されました。たとえUAからGA4に移行したとしても、Webサイトのアクセス解析は“目的のための手段”であり、それ自体がゴールでないことは忘れてはならないでしょう。

 

04 コンセントのUXリサーチ(一例)

UXデザインのプロセスにおいて不可欠な手法が、ユーザーへの理解を深めてユーザー視点で仮説を検証しながら改善を行う「UXリサーチ」です。コンセントではプロジェクトに合わせてUXリサーチを始めるためのチームづくりを行い、他のチームと連携できる環境を整えた上で、KGI/KPIの設計→KGI/KPI達成状況の評価→ログ(アクセス)解析→ユーザーインタビュー→UX/UI改善案の検討・実装というプロセスを複数回実施して、仮説の検証をしながらWebサイトやデジタルプロダクトの改善を目指しています

 

Text:水川 歩
Web Designing 2023年6月号(2023年4月18日発売)掲載記事を転載

関連記事