2023年6月、Googleアナリティクスの計測サービスが終了します。「噂には聞いていたものの移行を先延ばしにしてしまった」「GA4の使い方がわからない」といった方々のために、UAからGA4への切り替え時に押さえるべきポイントをWebアナリストの小川卓さんに教えてもらいました。
Q1・UAとGA4は何が違う?
A・GA4はより今の時代に則したアクセス解析ツール! UAとは全くの別物で、これまで計測できなかった動画の再生回数やアプリ版の利用状況なども計測できます。
「Googleアナリティクス」は2005年にリリースされました。時代が進むにつれてWebサイトでできることが増えていったため、Googleアナリティクスも二度のバージョンアップで対応。そのうち2012年にリリースされた最新版を「ユニバーサルアナリティクス(UA)」と言います。
ところが継ぎ足しするように機能を拡張してきた結果、計測方法に矛盾が生じるなど、最近では「使いやすい」とは言い難いツールになっていました。そこで2020年に誕生したのが、Googleの新たなアクセス解析ツール「Google アナリティクス4(GA4)」です。サイトに埋め込んだ動画の再生回数やアプリ版のユーザー数、最新バージョンのアプリのインストール数を自動で測ることができるなど、より今どきのサイトにあった形になりました。また、UAではCookieと各サイトのIDパスでユーザーを識別していたのに対し、GA4ではGoogleシグナルも活用。デバイスやブラウザが変わっても同じユーザーであると特定しやすく、ユーザーの行動をより細かく分析できるツールになりました。
Q2・UAが使えなくなるって本当!? その期限は?
A・無償版は2023年6月いっぱいでデータ計測が終了! 7月~12月は過去データへアクセスはできるものの、その後完全にサービスが終了します。
2023年6月30日までのデータであれば、7月1日から12月31日の間も確認したり、ダウンロードしたりすることができます。その後については現時点※でGoogleから正式なアナウンスはされていませんが、2024年1月1日にデータがすべて消え、UA自体にアクセスできなくなる可能性もゼロではありません。GoogleとしてもUAのデータの保管やGA4と同時並行での運用はコストと手間が掛かるので、移行を促したい考えです。いずれは必ずサービスが終了すると考えておいた方がよいでしょう。
データ計測のサービスが終わると、Googleアナリティクスの数値を使って社内やクライアントにWebサイトの運用レポートを提出したり、Google広告と連携して広告を出したりすることもできなくなります。現状ではGoogleアナリティクスのデータを何にどう活用しているのかを整理し、7月1日以降の対応について考えておく必要があります。
なお、代理店経由で購入できる有償版(GA360)は無償版よりも期限が1年長く、2024年6月30日まで計測、2024年12月31日までデータへのアクセスが可能です。
Q3・GA4は7月以降に導入しても間に合うの?
A・これまでとは全く違う新しいツールだからこそ、使いこなすまでには十分な時間が必要。今すぐにでも導入を!
UAからGA4にツールを切り替える実装作業だけであれば、1週間ほどで完了します。そのため、6月末に移行を始めたとしても、間に合うといえば間に合います。ただし、UAとGA4は全く別のツールと言っても過言ではありません。操作に慣れたり設定を調整したり、GA4を本格的に使いこなせるようになるまでには思った以上に時間がかかります。
また、これまでと今後の計測の仕方を見直す「要件の棚卸し」という作業が発生する場合もあります(詳しい移行プロセスはP44へ)。実装作業以外にも準備や運用面の整備が発生することを考えると、移行期間として3カ月から半年ほど見ておくのが理想的です。ただし理想のため、すでに3カ月を切ってしまったという方も今すぐに始めれば大丈夫。「まだGA4でうまく計測できないのに、UAの計測が終了してしまった…」という事態を防ぐためにも、一刻も早く移行作業を始めましょう。なお、計測するWebサイトがいくつかある場合はさらに時間が掛かるため、より一層余裕を持って進めてください。
Q4・移行作業って具体的に何をするの?
A・「要件の棚卸し」「実装」「運用面の整備」の3ステップで行います。
移行作業は大きく3つのステップに分かれています。まず「要件の棚卸し」では、今UAのデータをどう活用しているかを整理し、GA4でも同じ使い方をするかを検討します。具体的には、利用用途や頻度、外部ツールとの連携状況、ユーザーのどんな動きを計測しているのかなどを確認しましょう。あわせてこれまで計測していなかったけれど新規で測りたいデータがあるか、GA4の新機能を使うかどうかも検討し、今後の活用方針を決めます。
次は「実装」です。Webサイト内に計測に必要なタグ(トラッキングコード)を設置し、初期設定を行います。初期設定とはデータの保持期間を調整したり、ファイルダウンロード数や外部リンククリック数を測るために拡張計測機能をオンにすることを言います。ちなみにGA4にはデモアカウントが用意されています。実装前にGA4を試してみたい方は、GA4デモアカウントのページ※で自分のGoogle アカウントにデモアカウントを追加し、試しに利用してみるのもおすすめです。
最後は「運用面の整備」です。どう操作したらUA時代のレポートを再現できるのか、報告書の数値をいつGA4で計測したものに切り替えるかなど、運用に乗せる準備をします。移行はただツールを切り替えただけでは不十分。実際に運用できるようになってこそ移行完了と言えます。
一連の移行作業は、自社でやるか外部に委託するかの2パターン。「実装」だけであれば、ほとんどの会社が難なく対応してくれるので、費用感を最優先に委託先を決めて問題ないでしょう。ただし「要件の棚卸し」や「運用面の整備」は、得意とする会社が限られてきます。外部に委託することになった際は移行作業のどのフェーズを依頼するかを明らかにし、対応できる会社を選びましょう。
Q5・要件の棚卸しは絶対にやらなくちゃいけないの?
A・GA4はできることがぐっと増えるものの、使い方によっては宝の持ち腐れになることも…。機能を十分に活かすためには棚卸しが大切です!
正直なところ、要件の棚卸しをしなくてもGA4への移行はできてしまいます。要件の棚卸しは時間も手間も掛かる作業なので、移行プロセスのステップ2「実装」から始める企業も少なくないでしょう。
ただし、Googleアナリティクスを長く使っていれば使っているほど、計測の仕方やデータの活用方法が古くなっている可能性は否めません。もっと効率的な使い方やWebサイト改善に役に立つ活用方法があるかもしれないのに、見直さないまま今後何年も使い続けるのはもったいないことです。
他方ではページビューやユーザーの数を集計・確認しているだけで、これまでデータをうまく活用できていなかった企業もあるでしょう。ユーザーの動きをより細かく見ることができるGA4には、サイトの改善につながるヒントがたくさん詰まっています。ページビューやユーザーの数を測るだけであれば、他の無料アクセス解析ツールで事足りてしまうかもしれません。無料でさまざまなデータを計測できるというGA4の強みを十分に発揮するために、使い方を再検討すべきです。
もちろんGA4へ移行してから要件の棚卸しをすることも可能です。ですが移行がひと段落したと思いきや、今度は棚卸しのために予算申請やスケジュール作成といった面倒な作業が待っていると思うと気が重いですよね。億劫が故に結局Googleアナリティクス時代と同じ使い方に…なんてこともあり得ます。手間の掛かる棚卸し作業は、移行作業と一緒に片づけてしまうのがおすすめです。
また、要件の棚卸しをして初めて、自分たちはどのデータをどう集計すべきかが固まります。棚卸し作業をせずに計測を始めてしまうと「IPアドレスの除外設定をしておらず社内のIPアドレスも含めて計測してしまったため、純粋なユーザーの数値がわかりづらくなってしまった」「カスタム設定をしておらず、商品の売上個数などデフォルトで計測できない数値が集まらなかった」といった具合に、不完全なデータになってしまいます。初めからサイト改善に役立つ完全なデータを集めるためにも、移行作業の一環として要件の棚卸しをしてみてはいかがでしょうか。
Q6・忙しくて棚卸し作業をする時間がとれない! その場合の最優先事項は?
A・GA4で計測だけでも開始すべき! 最低でも1ヵ月を目途にUAとGA4を並行利用する期間を設けましょう。
忙しくてすぐに棚卸しができそうもない場合は、GA4でのデータ計測だけはスタートしてしまうことをおすすめします。移行期間は本来、3カ月から半年ほど見ておきたいとお伝えしました。とはいえ、UAでの計測が終了する6月30日まではすでに3カ月を切っている状況。対象のWebサイトの各ページにトラッキングコードを設置して、計測だけはスタートしてしまいましょう。
その理由は、UAとGA4のデータを並行して計測することで、数値の比較が可能となるからです。そもそも、GA4は全く新しいツールですから、計測の仕方、用語の定義などの仕様がUAとは異なり、同じデータでも両ツール間でズレが生じることが必ず出てきます。こうしたズレの要因を探ることで、例えばGA4では社内IPアドレスを除外していなかったなど、設定の見直しにつながる場合もあります。
並行して計測する期間に1カ月は欲しいところですが、長いに越したことはないということを前提に、先に棚卸しをするか、移行するかを判断するとよいかと思います。
Q7・GA4を導入するメリット、デメリットは?
A・計測できるデータの幅が広がり、特に自社アプリを運用している企業にとっては大きなメリットに! 一方で、移行に伴う工数はデメリットになり得る可能性も。
GA4の導入は必須とはいえ、担当者だけで判断して実施できない場合もあるでしょう。上司や社内に判断を仰ぐにあたり、メリットやデメリットを把握しておくことで、スムーズに事が進むはずです。
そもそもGoogleのアクセス解析ツールを選択するメリットは2つあります。1つ目は、無料ながらも機能が豊富であること。単にページビュー数や流入元を確認するだけでOKということであれば、他の無料アクセス解析ツールを選択してもよいと思いますが、Webサイト分析に活用するならば、Googleアナリティクス、GA4に敵うものはないと言っても過言ではありません。2つ目は、ツールに関する情報の豊富さです。今やアクセス解析ツールのスタンダードともいえるGoogleアナリティクス、GA4。その分利用者数も多く、書籍やセミナーなどで多々取り扱われているため、情報は他のアクセス解析ツールと比べても圧倒的に集めやすいはずです。
GA4への移行にあたっては、担当者は改めて操作や運用方法を学び直す必要がある点はデメリットと言えるかもしれませんが、UAでは計測できなかったアプリへの対応やサイトに埋め込んでいる動画の再生数の計測など、新たに取得できるデータの幅は大きく広がっています。特に、自社でアプリを開発して運用している場合は、GA4に移行するメリットも大きいでしょう。例えば、ユーザーはアプリとサイトをどれぐらい重複して利用しているか、アプリをダウンロードするに至った経路、最新バージョンをインストールしているユーザー数など、UAでは確認できなかったデータを計測することができます。アプリ関連以外でも、サイト内ユーザーの動きがUAよりもさらに細かく確認できるようになりました。
一方で、Googleアナリティクスを集計レベルでしか使っていなかった方々にとっては、苦労することも多いかもしれません。しかし、そうした方々も今回の移行を機に、改めて要件の棚卸しを行うことで、サイト改善に役立てられる活用方法を見出せる可能性もあります。GA4への移行が、サイト運用を見直すよい機会となるのではないでしょうか。
Q8・過去データの管理はどうしたらいいの?
A・レポートのダウンロード、外部ツールの活用、ビッグクエリの利用がおすすめ! 過去データは12月31日まで見られるので焦らなくても大丈夫です。
UAで取得した過去データを、分析のために残しておく必要がある方もいらっしゃると思います。繰り返しになりますが、UAとGA4は全く別のツールのため、前提として、UAで取得していた過去のデータをGA4へ移し、管理、再現することは不可能です。また、アクセス解析ツールは導入して初めて計測をスタートできるため、過去のデータを計測することはできません。そのため、過去のデータは、何かしらの形で保存しておく必要があります。その場合、主に3つの選択肢が考えられます。
1つ目は、過去のレポートをダウンロードして保存しておく方法です。Googleアナリティクスでは、エクセルやCSV、PDFなどさまざまな形式で各レポートをダウンロードできます。1週間、1カ月ごとなど、計測期間も選べるので、必要な様式にあわせて対応するとよいでしょう。これは最も手間が掛かりますが、コストはおさえられる方法です。
2つ目は、外部ツールでの保管です。GA4への移行に伴い、Googleアナリティクスのデータを別のツールで表示できるサービスが、月額~10万円ほどの費用で販売され始めています。中には、ツール内で表やグラフを作成してくれるものも。こうしたサービスを利用すれば、各レポートを手動でダウンロードする手間は掛かりません。
3つ目は、GA360を利用している場合に限りますが、ビッグクエリを使用する方法。これは、Googleアナリティクスの元データをすべてGoogleのサーバ上に保存しておけるサービスです。ただし、集計前のデータになるため、実際にデータを利用したい場合はエクセルにダウンロードし、集計して、グラフにするなどの作業が必要となります。
過去データは2023年の12月31日まで確認できるため、あわてて対応しなくても大丈夫です。どの方法を選択するかは、これまでのGoogleアナリティクスの利用頻度や用途によって判断してください。利用頻度が高くないのであれば、1つ目の手動の作業もそこまで時間は掛からないと思います。多くのレポートを出して、詳細に分析したいのであれば、外部ツールの活用も有効でしょう。
Q9・GA4に早く慣れたい!何から始めるのがおすすめ?
A・これまでUAで出していたレポートを、GA4で出せるかどうかを試すことから始めよう!
GA4は全く新しいツールであるとはいえ、UAでとれていたデータの大半はGA4でも確認することができます。ただし、そのデータを見るための操作方法が変わっている点には注意が必要です。中には、新規とリピーターのように、UAではワンクリックで出せていたデータが、GA4では2~3つの工程が必要になっているものも。一方で、UAよりも簡単に出せるようになったデータもあり、操作量の増減にも変化が生じている状況です。また、例えば「直帰」のように、UAとGA4では用語の定義が変わってしまっているものもあります(詳しい用語解説はP51へ)。
以上より、GA4を使用するには操作方法や用語の意味をインプットする必要がありますが、すべてを覚える必要はありません。まずは自分たちが取得してきたレポートを、GA4で再現するにはどうすればよいかを試してみるとよいでしょう。その中でわからない用語があれば調べればよいですし、機能の細かい使い方がわからなければ確認すればよいのです。「企業、そして自分にとって必要なレポートを取得するにはどうしたらよいか」という視点で1つずつ試していくうちに、おのずと、自分が覚えなければいけない機能や用語が明確になっていくはずです。
ここまでお伝えしてきた通りGA4を扱うことは、正直、簡単なことではありません。しかし、6月末で計測サービスが使えなくなってしまうことは決定事項なので、少しずつ慣れていきましょう。工数が増えて大変になるというデメリットはありつつも、GA4への移行は、Webサイトの分析方法を見直すよい機会です。実際、UAを導入してはいるものの、データが正しく計測できているのか、自分たちが計測しているデータは本当に必要なものなのかわからないまま、長年経過してしまった企業も少なくないと思います。これを機に、サイトの分析方法を整理し、意義のあるデータが計測できるようになれば、より効果的なサイト運用へとつながっていくはずです。