企業の満足度を高める提案力と真の支援(リーピー) 事例詳細|つなweB

岐阜を拠点に全国各地の地方企業や地方自治体のサイト制作を手掛けるリーピー。同社は業務効率化・制作の仕組みづくりに注力することで成果を上げ続けていて、ニューノーマル時代になっても別段悩みが生じなかったといいます。どのようにして、不測の事態にも強い制作体制をつくってきたのでしょうか。代表の川口聡氏にその秘訣を伺いました。

 

川口 聡さん
株式会社リーピー 代表取締役/福岡県久留米市出身。39歳。地方企業や自治体に対し、デザインとデジタル領域における支援を展開している。2022年6月より地方転職に特化した人材紹介も開始した。
https://leapy.jp/
https://twitter.com/satoshi_leapy

 

ニューノーマル時代における制作現場での変化

リーピーでは、「地方の未来をおもしろくする」というビジョンの元、地方企業や地方自治体のWebサイト制作をメインに手がけています。クライアントは、北海道から鹿児島まで全国各地にわたり、業種もさまざま。自社から売り込む営業活動はしておらず、コーポレートサイトから集客しています。そうして業績を順調に伸ばし、社員数も3年前は30名だったものが2023年4月には50名を越えるまでになり、成長傾向にあります。

ニューノーマル時代になってからもその傾向や自社の業務としては大きな変化はなく、困ったこともなかったものの、クライアントの予算の使い方やコミュニケーションの取り方、社員の働き方などは変わってきました。

クライアントに関しては、展示会やオフラインでの広告予算をデジタル領域に振り分けるようになり、特に求人サイトやサービス専用サイトをコーポレートサイトとは別につくる案件が増えています。また、これまでコーポレートサイトを持っていなかったり、簡易なものを公開していただけの企業から初めて制作会社に依頼をいただくといった案件も多くなりました。

遠方のクライアントもいることから以前より打ち合わせの手段としてリモート会議を取り入れていましたが、最近はリモート会議が浸透したことで、打ち合わせは近くの岐阜市内であっても基本的にオンラインで行うようにしています。リモート会議の浸透で遠方でも自社のニーズにあった制作会社に依頼しようと考える企業がより増えたのか、県外クライアントからの依頼が今では4割以上とさらに多くなっています。

社員の働き方については、多くの企業で起きた変化だと思いますが、リモートワークをする人が増えました。弊社ではもとから社員の希望があれば認めていたので、育児都合などでリモートで働いていたメンバーは以前より1~2名はいました。現在は2割が完全リモート、7割はハイブリッドといった状況になっています。

 

クライアント確認は本当に必要な工程のみに

弊社では5~6年前から業務効率化のための仕組みづくりをしてきました。もともとは採用促進のために同業他社よりもよい職場環境をつくる必要があると考え、年間休日数130日や残業なしの労働条件にしていましたが、それだけでは採算が取れなくなるため、徹底的にムダを排除しました。例えば受注から納品までにおけるクライアントとのやりとりにおいても、注力するところとムダを減らすところのコントラストをつける工夫をしています(01)。

まず問い合せをいただいた際に渡す営業資料が約40ページあります。そこに制作工程や協力をお願いすること、注意点などを詳細にまとめていて、納得・安心した上で発注いただきます。受注した際にも、営業担当がわかりやすい言葉でサイトを持つ意味なども含めて丁寧に説明します。

打ち合わせはリモート会議で行うため、リモート会議専用ルームもつくりました。移動時間の節約になるだけでなく、移動負担が少ないお陰で打ち合わせの回数を重ねられるようになりました。打ち合わせは数を増やした方が絶対にいいものができます。また、必ず録画をしているので、同席していない制作チームにもクライアントの言葉を伝聞ではなくそのまま共有できる点もメリットです。

その後は社内で時間をかけて揉み、クライアントへはトップページのデザインが完成した段階で初めて見ていただきます。ワイヤーフレームなど途中段階では、見てもイメージが掴めないことが多いためです。また、見せるデザイン案は1つだけで、95%以上そのままOKがいただけます。複数案を提案するのもムダだと考えているため、本当にクライアントの意向や価値を表現できる1案だけをつくります。

そしてOKがいただけたら、テストサイト全体をつくり確認をお願いします。弊社がコンサルに強みを持つ会社のため、サイトをまるごと見てほしいというニーズが高いこともあり、クライアントにもこのやり方を受け入れていただけます。

01 クライアントとのコミュニケーションと確認フロー

クライアントへの事前の情報提供や打ち合わせはしっかりと行い、サイトのクオリティアップに注力します。Webでの公開イメージが掴みづらいことから、ワイヤーフレームやダミー原稿でのデザインイメージのクライアント確認はムダと考え、実際の原稿が入ったトップページのデザイン確認を出すのが最初で、OKがいただければテストサイトを構築し確認依頼をします

 

効率化しつつもクライアントの満足度を上げる工夫

弊社は受託制作を行うので、クライアントの満足度を満たすことが第一です。全国から依頼をいただけるのは、地方企業や地方自治体のWeb制作をメインに手がけてきた実績や、そこに特化したコンサルティング力に期待いただけるからです。そうした強みを活かす意味でも下請けの仕事はしていません。クライアントから直接依頼を請け、ターゲットやコンセプトづくりから行っていきます。

クライアントに対しても、サイトの評価基準となる視点を共有していきます。Webサイトはクライアントの顧客に向けてつくるものだということをハッキリと伝えます。

1案のみ提出して95%の確率でOKをいただくためには、その分クライアントに見せる前の社内チェックが厳しくなります。営業やディレクターが本当にこれで提案できると自信が持てる状態になるまで、何度でも修正を入れます。

その際に、トップページに関しては各クライアントごとにあったものをつくり込みます。アクセス数や見る人の印象など、コンバージョンに寄与するのはほとんどがトップページであることがデータからわかっているからです。一方、下層ページはそれほど影響しないため、独自開発したほぼノーコードで構築できるCMSを活用しています(02)。Webサイト制作でもっとも工数がかかるのは、コーディングだからです。Web制作の仕事は単なる作業とクリエイティブな仕事に大別できるので、そうした作業的な部分を効率化することは、クリエイティブな部分に時間をかけられるようにするためでもあります。例えばクライアントに送るメールについても工程ごとにテンプレート化してあり、それを活用しています。そうすることで、新入社員でもきちんとした内容のメールを送れるというメリットもあります。

納期については、サービスのリリース日やイベントなどの都合がある場合以外は、こちらで決めさせていただくことも多いです。「いつ公開したいですか?」と尋ねると「4月1日がいいです」などと答えが返ってきますが、その理由を聞いてみるとキリがいいだけで、別にそれより前でも後でも構わない場合がほとんどです。そうすることで制作にかける時間の確保と、社員の労働環境のバランスを取ることができます。

02 効果の出るところに注力してこだわる

コンバージョンやアクセス数に大きく寄与するトップページにクリエイティブの労力を大きく割くようにし、あまり影響の大きくない下層ページはCMSを活用することで、クライアントの満足度を上げつつも制作の工数を抑えるバランスをとっています

 

工数と売上を社員自身が管理する

リーピーの業務効率化には、自社開発した工数管理・日報管理ツール「Pace(ペース)」が大きく貢献しています(03)。社員ごとに1時間あたりの工数単価を登録していて、その日何のプロジェクトの何の作業をどのくらいの時間行ったかという日報を記録していくものです。各プロジェクトの売上も登録してあるので、工数原価や売上と差し引きした利益がリアルタイムに表示されます。そのため制作担当者自身が、採算のあう範囲でクライアントの満足度を上げるためにどこまで手間をかけるべきか自然に一生懸命考えてくれるようになる点が大きなメリットです。これが上司などに「5時間以内に作業してね」と言われると、追い詰められる気持ちになってしまうと思います。

プロジェクトの終了後には、Paceの記録から振り返りを行います。管理部がPaceの分析を担当し、もし赤字が出ていたら原因を調査します。その際に、作業時間が多くかかった個人を責めることはしません。あくまで仕組みの問題だと考え、見つかった課題をその後の改善に活かしていきます。前述の営業資料やメールのテンプレートなどもそうですが、改善点が見つかったものは毎日のようにアップデートしています。

このPaceは2018年にリリースしていて、他のWeb制作会社にも利用されています。他にもクラウド制作管理ツール「PassTeam(パスチーム)」(https://pass-team.jp/)など、自社の必要性から開発したいくつかのサービスをリリースしています。弊社の売上としてはWeb制作が9割を占めていて、これらに関して現状ではビジネス的な役割は大きくありません。ある種同業他社への作業支援ツールとなっていますが、Web制作は過酷な労働になりがちなため自社のみならず業界全体を改善していく必要があるという考えで提供しています。人手不足の業界ですので、労働が過酷だったりライフスタイルとあわせられなかったりという理由で社員が辞めてしまうのは、非常に勿体無いことです。

03 生産性をアップした管理ツール「Pace」

Pace https://paces.jp/
リーピーが自社開発した工数管理・日報管理ツール。社員ごとに1時間当たりの作業単価を登録し、日報をつけていくことでそのプロジェクトでは誰がどのくらい作業したのかを見える化できます。売上との差し引きから、プロジェクトの利益もリアルタイムで表示されます

 

納品後の満足感向上とアフターフォロー

独自カスタマイズのCMSを用いているのには、更新がクライアント側で行えることで、運用費用がかからないようにする意図もあります。弊社の制作費は都市部の制作会社よりは安いですが、特別安くはありません。クライアントには、納品後の運用コストが抑えられることに価値を感じていただいています。文章や画像の差し替え・更新はノーコードで行え、誰でも簡単に操作することができます。

Web制作会社としては、定期的に改修の仕事が入る方が事業が安定するという考えもあるかもしれませんが、自社のコンサルティングや制作力に自信があるのでそこを収入源にしようとは考えていません。社内のエンジニアにとっても更新はやりがいのある作業ではないですし、少額の改修のために請求書発行などの事務作業が発生するのもムダで、クライアントにも制作会社にもメリットがないことではないかと思います。

そのため、弊社では納品したらそのプロジェクトは終了です。制作したサイトの満足度が高ければ、別のサイトが必要になったときに、また声をかけていただけます。一度納品したクライアントが他の制作会社に切り替える事例はとても少ないです。

そうはいっても、納品後にクライアント側では対応できない修正や疑問点などが出てくることはあるので、専門のカスタマーサクセスチームが対応しています。よくある質問をまとめたFAQサイトをクライアント向けに用意していますし、メールで問い合わせがあれば対応します(04)。FAQに掲載していない質問をいただいたら、それらも反映して適宜アップデートします。サイトはNotionを独自カスタマイズして制作しているので手軽に更新でき、自社の作業負荷も抑えています。

納品後はクライアントとの接点が減りますが、こうしたカスタマーサクセスの体制を用意したり、他にもクライアント向けのメールマガジンを発行して情報発信をしたりすることで接点をつくり、何かあったときには思い出してもらえるようにしています。ありがたいことに納品から数年後にWebの困りごとが発生しても思い出していただけるクライアントが多く、毎日たくさんの問い合わせをいただき、カスタマーサクセスチームが対応しています。

04 クライアントへのアフターフォロー

リーピーではノーコードで更新できるCMSを導入するため、クライアント自身でサイトの更新ができるようになります。それに加え、クライアント向けによくある問い合わせをまとめたFAQページを用意したり、メールマガジンで情報発信を行ったりするほか、カスタマーサクセスチームが問い合わせなどに対応してアフターフォローを行っています

 

人材事業を始めた理由とこれからのビジョン

Web制作に関わる事業の他に、2022年6月から地方企業向けの中堅や幹部候補、DX推進人材を中心とした人材紹介サービス「リーピー・HRキャリア」を開始しました(05)。採用専用サイトの制作依頼は増えていますが、地方ではより採用が難しくサイト制作の支援だけでは解決しないと感じたからです。大手の人材紹介会社は地方に支社がなかったり、あっても都市部だけだったりします。そのため、例えば岐阜の求職者には名古屋の採用情報が紹介されがちで、岐阜などの地方企業は登録しても紹介されない状況があります。そうした問題を解決するために、弊社が直接人材を紹介しようと考えました。ニューノーマル時代で移住に興味を持つ人も増えてきたので、東京などから移住して地方で働きませんか、という提案もしています。

さらに近い将来の展望としては、弊社の強みである採用とマーケティングの分野において、BPOサービスの提供を考えています。その2つはとても専門性が高いので、地方企業が自社でやっていくのは難しいです。企業としては物をつくって販売することなどが本業のため、マーケティングや採用は大事な業務にも関わらず管理部門の人が片手間にやらざるを得ない状況であることも少なくありません。しかし、それが企業の成長を遅らせる原因になっている面もあります。であれば、弊社のような専門スキルを持つ会社に外注していただくという世の中の流れになっていくのではないかと考えています。

そもそもWebサイト制作と人材ビジネスはとても相性がよいです。制作時に「会社の未来をどうしていきたいか」「そのためにはどういうポジションの人材が必要か」といった話も聞きますから。これらの事業もみな、「地方の未来をおもしろくする」というビジョンに基づいています。地方企業を盛り上げるには、その街で働く人を増やして人口流出を防がなければなりません。そうしないと、地方はどんどん衰退してしまいますので。

05 採用難という企業の課題を直接解決する

リーピー・HRキャリア https://leapy-hr.jp/
求人サービスに登録してもなかなか採用が難しい地方企業に向けて、特に採用が難しい中堅や幹部候補、DX推進を担う人材を中心に紹介しています

 

 

Text:平田順子
Web Designing 2023年2月号(2022年12月16日発売)掲載記事を転載

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