将来のフリーランスを地元に育てる 事例詳細|つなweB

優秀なフリーランスは多くの制作会社が求めています。しかし、それだけでは新しい人材の育つ余地がありません。人材の教育と、経験を積むステップのサポートに取り組む株式会社ハタフルに聞きました。

 

臼井翼さん
株式会社ハタフル 代表取締役社長/Webコンサルタントを経て、2017年出身地の福島県で同社を設立。2022年よりWebデザイナーを養成する「ハタフルアカデミー」を運営。来年度は県内に2拠点新設予定
株式会社ハタフル
福島県郡山市。中小企業を中心に、マーケティング×デザインでWebに関わる支援業務を幅広く手がける。
https://hatafull.co.jp/
ハタフルアカデミー
2022年4月開講。いわき市・福島市の新設校で講師を務めるWebデザイナー(社員)を募集中。
https://academy.hatafull.co.jp/

 

カルチャーフィットを重視信頼関係は見積りから

[Q]御社からフリーランスへ制作業務を依頼することはありますか?

[A]弊社は主にコーポレートサイトの受託制作を行っています。フリーランスへの依頼はそれにまつわる撮影やライティングなど、社内に専門性がない分野が中心で、社内リソースが足りない場合にはデザインを依頼することもあります。ただ、予算や納期に余裕のないもの、内容的にコミュニケーションコストが高くなりそうなものはできるだけ社内で行うようにしています。

[Q]報酬はどのように決めていますか?

[A]撮影はあらかじめ料金表をもらい、ライティングやデザインは都度見積りを出してもらいます。想定より大幅に安かった場合にはその旨を伝えて出し直してもらったり、不確定要素の多い段階での見積りなら、ある程度余裕を見てもらうようにしています。カツカツの依頼をしていては何かあった場合に助けてもらえる関係にはなれません。

[Q]依頼先を見極めるポイントは?

[A]重視しているのは、私たちの制作に対するカルチャーにあうかどうかです。もちろん一定のクオリティがあった上での話ですが、ただ作業的に制作するだけでなく、いろいろな提案をしてもらえた方がより良いアウトプットができると考えています。求めているのはプロの意見であり、こちらの依頼内容に正解は書かれていないのです。そうやって対等に話し合える方とは、迷った時にも相談しながら進めることができます。

[Q]そういう方とはコミュニケーションの量も多いのでしょうか?

[A]基本的には最初にビデオ会議で打ち合せを行い、あとはほぼSlackです。打ち合せでは、クライアントのビジネスモデルや課題、案件の経緯など、前提になる情報を詳しくお伝えしています。直接会う機会ほぼありません。その中で信頼関係を築くには、お金の部分でお互い納得できる形にしておくことが大事だと思っています。そこを馴れ合いにして、コミュニケーションだけで何とかできるものではありません。

 

依頼できる人材育成と依頼できる業務フロー構築

[Q]新規の依頼先を探すことはありますか?

[A]地方で制作事業を行う上で、そこが課題でした。人口が少なく業界の人も少ないため、どうしても東京など遠隔地の方に依頼するケースが多くなります。片や、弊社の求人にはWebデザイナーを志望する未経験者からの応募が度々あるものの、業務内での教育が難しいために採用を見送るという歯痒さがありました。そこで、私たちの手で仕事を依頼できる人材を育成しようと、Webデザインを学べる「ハタフルアカデミー」を設立したのです。

[Q]どのような内容を学べるのですか?

[A]受講期間は半年間で、基礎学習は「デジタルハリウッドアカデミー」の教材を使ったビデオ授業で、実践的な学習は隔週の対面授業で行います。オンラインだけで学ぶのはスキルが要ることですし、場や仲間の存在は大切だと考え、スクール形式にしました。内容はデザインとコーディング、ディレクションの基礎、また地元の会計士と連携してフリーランスのお金まわりに関する授業なども行っています。さらに、卒業後半年間はサポート期間として、ビデオ授業の復習や講師への質問(Slack)に対応しています。

[Q]卒業しても、個人で仕事を得るのは難しいのではないでしょうか?

[A]そうですね。その点で、我々から仕事を発注することでフリーランスとして歩み出す最初のステップになればいいと考えています。在籍中に課題を通して適性を見ることもできますし、卒業生にとっても最初のクライアントが講師陣という安心感があると思います。

[Q]ちょうど1期生が卒業したタイミングですが、手応えはいかがですか?

[A]想像以上に成長が大きく、十分に依頼できるレベルだと思います。とはいえ、いきなりゼロからの制作は厳しいですから、こちらで制作したパーツをレイアウトして組み上げるような案件を用意することになると思います。そうなると、弊社側の依頼の仕方も考えなくてはなりません。社内なら阿吽の呼吸でできていた作業を明文化・細分化し、切り分けて外部の人へ依頼できる形に業務フローを見直す必要があります。現在その準備を進めているところです。

 

ハタフル流フリーランスとの付き合い方

予算・納期やコミュニケーションコストの面で依頼しにくい案件はできるだけ社内で対応。適切な見積りが助け合える信頼関係に繋がる。スクールで人材を育成し、将来的に制作を依頼できるよう準備中

 

Text:笠井美史乃
Web Designing 2023年2月号(2022年12月16日発売)掲載記事を転載

関連記事