鼎談:コロナ禍がもたらすWeb制作業界のいまとこれから 事例詳細|つなweB

コロナ禍でWebをはじめデジタルクリエイティブの制作状況は大きな変化を迫られました。ここでは、新型コロナウイルスが猛威をふるい始めた2020年以降も、現場で奮闘を続ける3人を招いて、オンライン座談会を実施。この3年の間、日々の業務にどう対応し、未来に向けて何を見据えているのか? 3者それぞれの立場から話をうかがいました。

 

田口亮さん
[社員約200名(海外支社含む)]株式会社フォーデジット 代表取締役/2001年創業。東京に加え、タイやベトナムにもグループ会社がある。デジタル領域のデザインを提供するデザイン&テックカンパニー。
http://www.4digit.com/
大川貴裕さん
[社内外スタッフ/パートナー約30名]株式会社シナップ 取締役 クリエイティブディレクター/2004年設立。クライアントの事業支援やサービス開発を中心にUXを提供。社内にグロースチームを置き、クライアントの継続的な支援業務も行う。
https://sinap.jp/
カトウヒカルさん
[フリーランス・小規模]kanvas Webデザイナー/福岡県在住。2014年よりフリーランスのWebデザイナーとして活動。著作に『思わずクリックしたくなるバナーデザインのきほん』(インプレス刊)。
https://kanvas.fukuoka.jp/

 

この3年間、どのように活動し、どう変化を迫られたか?

リモートワークに向く業務と不向きな業務が明確に

──この3年近く、コロナ禍でみなさんの業務環境はどう変わりましたか?

田口 2020年はフルリモート中心でした。徐々に出社できる状況にあわせて、国内にいる200名近くの社員にリモートを解除したチーム、リモートを続けたチーム、どちらも半々ずつのチームをつくって、生産性やパフォーマンスを分析しました。その結果、フルリモートだと、業務設計がしっかりしていて、オペレーショナルなチームだと満足度は高いのですが、それ以外だと低調でした。どっちつかずがもっともダメで、フル出社にしたチームは生産性が上がりました。そこで現状は、一部の部署を除き、基本はフル出社に戻しています。

大川 シナップは外部パートナーさんを入れても30名ほどですので、柔軟さを活かす方向で、2020年4月から完全なフルリモート体制にしました。もともと東日本大震災をきっかけに、備えとしてリモートワークの機会を設けたり、新潟や福岡へと移ったメンバーとリモートで仕事をしていたので、会社としてリモートワークのベースがありました。出社する社員も激減したので、12年ほど構えてきたオフィスからも移転しました。

──会社の規模や業務内容に加えて、社内カルチャーでも判断が変わりそうですね。

大川 社内はリモート希望が大半でした。シナップの場合はリモートでも生産性が変わらず、きちんと成果を出してくれるので出社に戻す理由がなくて。コロナ禍以降、UターンやIターンを希望する社員も増えて、今はシナップにとってのリモート環境の最適化を模索中です。

カトウ 僕の場合は、福岡でkanvasというチームとして活動しオフィスも借りていますが、法人ではないですし、会社のような決まりごともありません。基本は以前と変わらず、自己管理しながら出社しています。ただディレクションの場面で、一緒にデザイナーがいてくれるとはかどりやすいのですが、以前より一緒にいる時間、タイミングのあう時間が減ったかもしれません。

 

時には仕組みで促す社員同士のコミュニケーション

──リモートワークでよく問われることに、会社の中、チーム内でのコミュニケーションが挙げられます。

田口 リモートはスキルが必要ですよね。個々がスキルを高めて、チームとして最適な運用を見つけないと難しいところがある。どうしてもリモートスキルが上がらない人は出てくるし、孤独・孤立を感じる人が出てきてしまいます。仕事に慣れていない新卒社員などになると、特に影響がありました。メンタルのケアをどうするかも含めて社内で議論を重ねて、私たちの場合は基本出社と判断しました。ただし、出社に踏み切る前には、社員のほぼ全員と1on1の面談もしました。

大川 社内のコミュニケーションは難しい課題になりましたよね。例えば、定期的なオンライン飲み会や、週に1度、ランダムで3人のメンバーをつくって雑談する時間を設けたり、社内で仕組み化するようにしています。本心は「雑談まで仕組みにしないとダメなの?」と思う一方で、フルリモートだとコミュニケーションの苦手な人ほど、どんどん見えなくなります。失敗しながらでも、いろいろな方法を用意したいと思っています。

 

 

田口亮さん
プロとして「ものづくり」に真摯に向き合い、業界の発展につなげたいのです(フォーデジット)。

 

コロナ禍における人と人の最適な接し方とは?

リモート環境のクライアントとどう向き合ってきたか?

──クライアントとの対応では、以前との変化はありましたか? 新たな対応を求められたでしょうか。

田口 2020年は人が外に出歩けなかったですよね。必然的に人々が暮らす上でのニーズがデジタライズ、DXという世界観へと移行しました。従来だと“堅い”とされる業界も含めて、クライアントがリモートで業務を進める中で、さまざまなコミュニケーションツールの導入が進んだ半面、もっとデジタル化を進めるチャンスだったのに…という思いもあります。

──今は少しずつ、対面の機会も増えてきた?

田口 明らかにリアルで進めた方がいい場合は、ためらわずに会うようにしています。クライアントさんもストレスを感じていて、そこは双方で気持ちが一致しやすく、会う機会を調整します。ワークショップみたいな、時にみんなで顔を合わせながら集まって、意見交換を重ねるようなやりとりには、リモート環境がどうにもなじまなかったですから。ただし、定例で毎週会うのが当たり前というルーティンがオンライン化したことは、移動時間を抑えられたり、あらゆる場所から参加できるので、いい移行でした。

──大川さん、加藤さんはそれぞれいかがでしょうか?

大川 コロナ禍をきっかけに、クライアントとの定例会議はすべてオンラインになりました。今もオンラインのままです。特に現場のやりとりで、わざわざ対面を求められることはありません。双方が抵抗なくできていることは、率直に助かっています。

カトウ 僕も似たような状況で、基本的に対面の打ち合わせはオンラインになりました。ただお客様の中には、ITリテラシーが決して高くない人も少なくありません。これまでは、対面でワーッと思いの丈を話してもらっていましたが、それができなくなって電話が頻繁にかかってくる時期がありました。そこで、Backlogに入ってもらってタスクを書き込んでもらうようにしたり、オンライン会議にあわせて、事前に要望をまとめた動画を用意して(例えば、WordPressのログインの方法)、オンライン会議で見せながら説明することもあります。

──その場合の業務効率はいかがでしょうか?

カトウ 必要なツールを覚えてもらう労力はありますが、一度覚えてさえもらえると、業務効率が上がりました。ただ、オンライン化が進んだことで、何かと人と対面する機会が減って、次につながる新たな案件化の機会も減ってしまっています。地場の案件は、紹介でつながっていくところがあるので、クライアントさんとの会食が減って、率直に雑談がなくなってしまい…。 

 

意図をもって相手を誘うコミュニケーションも必要!

──何気なくできていたことが、今はできない…。

田口 オンラインの打ち合わせの終わりに食事や飲み会などができなかった時は、偶発的に出てくるきっかけはつかみづらくなくなりました。そういう機会を意図的につくり出す必要がありましたよね。

──その場のノリで誘えないから諦めるのではなく、能動的に機会をつくることが大切になります。

大川 僕らもすごく難しい課題だと考えているのが、新たな相手との関係性づくりです。何も、クライアントに限らないことです。すでに、それなりに築いてきた関係性がある相手なら、業務をともにしてきた背景があったりするので、リモートだけでも成り立ちやすいです。これが新規の相手になると、リモートの限界を感じやすい。特に相手が限界を感じてしまう前に、こちらから意を決して、対面の機会を持つことが大事になってきます。

 

 

大川貴裕さん
フルリモート体制では、コミュニケーションの機会を上手にルール化しましょう(シナップ)。

 

「つくり手のプロだからできること」を追求する

クライアントに寄り添い最適な解決策を提供できるか?

──ここまでの3年を踏まえながら、気になるのが展望です。業界の今後をどう考えていくといいでしょうか?

田口 大きくは、さまざまな企業、クライアントのデジタライズへの意識が強く働く流れです。それは、ひと昔前のWebサイトを提供する、といった明確な定義のあるアウトプットではなくて、クライアントの抱える課題に応えるソリューションを提供する必要があります。そもそも、クライアントが本当に何を求めているかがわかりづらくなっているので、クライアントの事業やサービスに寄り添う力、寄り添いながら求めるべきことが何かを見極める力の有無を、私たちつくる側には問われているのだと思っています。

──事業会社の内製化では対応できないことを、制作会社がどこまで対応できるか、ということでしょうか?

田口 僕らはプロフェッショナルとして、あらゆる枠を超えて取り組まないといけません。つくり手としても、ビジュアルデザインや1行のコードに、きめ細やかで精緻な仕上がりを追求することが大事だと思うのです。率直に「頑張らないといけない」と思っていますし、対応範囲を広げながらも、ものづくりへの素直な思いを大切に活動したいですね。

大川 技術的に簡単に制作できるローコード、ノーコードツールも出てきて、単純なつくりものなら短時間で難なくつくり出せる世の中です。そこで僕らが求められるのは、単純にはつくれないものを高度な技術や高いセキュリティ性を担保しながら制作することでしょう。しかも、つくるだけで終わらず、つくり終えてからがスタートで、つくったサービスをどう成長させるのか? サービス設計から運用・テスト・改善を繰り返して、業績を伸ばす支援ができる存在になれるのか、だと思います。

カトウ 自分や周りの状況から見ても、身近な地元の案件もクライアントのビジネスに伴走できないと評価してくれません。今は、コロナ禍で人づてに紹介が紹介を呼ぶようなサイクルが期待できないので、行動を起こしていきたいです。フリーランス同士が集まってチームをつくる動きもありながら、チームを組むと利益を上げる人とそうでない人が出てきた時、チームを保つ難しさもあります。今は、業界を盛り上げようという機運から、お互いに「助け合おう」という雰囲気に変わってきた印象があって、そこをきっかけにしたいですね。

 

事業会社にない魅力の訴求が「採用」の生命線になる

──以前に比べると、今後への道筋が見えてきました。

田口 もう1つ、今後の展望で押さえておきたいのが人材です。クライアントとなる企業側が、内製化のために手を動かしてつくれる人材を採用する動きがあります。この流れが続くと、採用の場面で競合となってしまいます。手を動かしてつくりたい人が、事業会社の求人に惹かれるのではなくて、デザイン会社にもっと魅力を感じてもらいたいと思っています。

大川 採用は本当に悩みどころです。僕らの規模で複雑な作業をこなそうとなると、採用で有望な人材を確保したい。リモート環境の利点を活かして、地方の方々をもっと積極的に採用したいと思っています。ただ実際はフルリモートの会社だと言っても、知名度を含めて、やはり東京の方の応募が多いですね。このあたりは課題だと思っています。

カトウ 僕の立場からは個人同士ではない、組織と個人という関係の難しさを感じますね。

田口 採用は弊社も苦労しています。事業会社かデザイン会社か、といった話で言うなら事業会社では実現できない、プロフェッショナルとしてデザインを追求できる魅力を伝えていきたいですね。待遇や条件なども含めて、シンプルに頑張らないといけません(笑)。

大川 採用活動におけるリモート対応も、ますます磨きをかけていきたいです。磨きをかけた先に、会社の強みを反映した採用があるはずです。

──このたびは、お三方ともありがとうございました!

 

 

カトウヒカルさん
最近はフリーランス同士で“盛り上げていこう”より“互いに助け合おう”という意識が強いと思います。

 

 

Text:遠藤義浩
Web Designing 2023年2月号(2022年12月16日発売)掲載記事を転載

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