本号の特集のテーマはネット広告ですが、ネット広告で使われる素材についても,著作権について注意する必要があります。
著作権法では著作者が著作権者になる、とされています。著作者とは作品を創作した人のことです。写真であればカメラマン、イラストであればイラストレーター、文章であればライターがそれぞれの著作権者となります。ネット広告で使用するこれらの素材については、著作権者から著作権の譲渡を受けるか、使用についての許可をもらうことになります。
これと少し異なるのが広告映像です。著作権法では広告映像も「映画の著作物」として扱われます。そして、「映画の著作物」については創作をした人=著作者ではなく「映画製作者」が著作権者になるとされています。「映画製作者」とは、判例では映画が売れた場合の利益を得る一方、売れなかった場合の損失を負担する人とされています。簡単に言ってしまえば、映画の製作資金を負担した、映画製作に投資をした人ということです。映画が売れなければ投資した資金は返ってきません。しかし、投資をすることで映画製作者として著作権者になることができれば、映画が売れたときの利益は確実に自分のところに返ってきます。著作権法が映画製作者に著作権を認めているのは、それによって映画製作への投資を促そうという狙いもあるのだと考えられます。
一般的な劇場用映画では複数の会社が組織する映画製作委員会がこれにあたります。では、広告映像については誰が「映画製作者」でしょうか。
ケーズデンキのCMの映像について、「映画製作者」が誰になるかが争点の1つになった事件がありますが、その事件では知財高裁は映画製作者は広告主であるケーズデンキであるとしました。広告制作に必要な資金を負担しているのは広告主であるというのがその理由です。そして、この解釈についてはあまり異論もないようです。
ですから、ネット広告についても、映像を制作した場合には、著作権は広告主に認められ制作をした側には認められないという点に注意をする必要があります。ケーズデンキの裁判では、納品した広告映像のうち、開店した店舗名を編集して別店舗のCM映像に流用したことについて、映像を制作した側が著作権侵害であるとして訴えました。しかし、映画製作者は広告主ですから、映像を制作した会社には著作権が認められませんので、訴えは退けられてしまいました。
広告コンテンツについて、無断で流用されるのを避けたいのであれば、映像以外については使用を許可した上で使用範囲を明らかにすること、映像については著作権者が広告主であるとしても、無断で流用することは契約で禁止することが必要になります。