AIイラストレーター 「mimic」に著作権上の問題はあるのか 事例詳細|つなweB

身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。

 

2022年8月29日、RADIUSS社からイラストレーターの画風を学習して、それを模倣した新たなイラストを作成することができるAIイラストレーター「mimic」のベータ版がリリースされました。ところが、その直後から、クリエイター界隈を中心にさまざまな議論が起こり、リリースの翌日にはベータ版のトップページを除く全機能が停止されました。この原稿を書いている現在、正式版の公開に向けてサービスの改善中とのことです。

画風の模倣については、レンブラントの絵画を学習したAIが3Dプリンターでレンブラント風の絵画を作成して話題となったことがありました。レンブラントの著作権は切れていますが、「mimic」は著作権がある現代のイラストの画風を真似するものですから、物議をかもしたわけです。〇〇風のイラストが簡単に描ける魅力的なサービスですが、著作権法上の問題点はないのでしょうか。

まず、AIにイラストを学習させる際にはイラストをスキャン(複製)しますが、このようにAIに学習させるために著作物をデータ化することについては著作権法により複製権の侵害とはならないとされています。ですから「mimic」にイラストを学習させることは、著作権法上は問題ありません。

次に、AIによってつくられたイラストは、学習したイラストの画風を模倣しているわけですが、実は「画風」自体は著作権法では保護されません。著作権で保護されるのは「画風」を使って描かれた各々のイラストそのものですから、具体的なイラストをコピーしたり模倣したりしない限り著作権侵害にはならないわけです。

さらに問題になるのは、「mimic」を使って描かれたイラストの著作権は誰のものであるかです。「mimic」の利用規約では学習のためにアップロードしたイラストの権利者とされていますが、一定の範囲でRADIUSS社が利用できることになっています。しかし、AIが作成したイラストはAIが自動的に作成したものですから著作権は認められないという考え方が一般的です。ですから著作権フリーという状態になってしまうでしょうか。

以上からすると、「mimic」を利用することは著作権侵害にはなりませんし、つくられたイラストは著作権フリーとなってしまいます。しかし、工夫して考えた画風を勝手に模倣されるイラストレーターとしてはたまったものではありません。ですから「mimic」の利用規約では利用者が著作権を保持していないイラストをアップロードすることを禁止していました。ただ、違反する利用を防ぐ仕組みが十分でないなどの批判が強かったようです。

AIの進化により「mimic」のようなAIはこれからも増えてくることでしょう。利用方法についてのルールづくりや法改正が望まれるところです。

 

AIイラストレーターによる画風の学習は、著作権侵害にならない。また、生成されたイラストに関しては、著作権は認められず「著作権フリー」となる

 

桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/

 

Text:桑野雄一郎
※Web Designing 2022年12月号(2022年10月18日発売)掲載記事を転載