身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。
2022年10月24日、音楽教室とJASRACの音楽著作権使用料の支払義務をめぐる裁判の最高裁判決が示されました。本連載でも2017年8月号で紹介しており、裁判になる以前からの経緯を含めると5年以上にわたる論争に決着がついたわけです。
この事件は、JASRACがレッスン演奏の著作権使用料を徴収する方針を示したことを受けて、音楽教室側が著作権使用料を支払う義務はないということの確認を求める訴訟を提起したものです。著作権使用料を請求する側のJASRACが音楽教室を訴えたのではなく、請求される側の音楽教室がJASRACを訴えたという、少し特殊な裁判ということになります。
裁判の争点は多岐にわたりましたが、最高裁で争われたのは、「レッスン中に演奏しているのは誰か」という点です。レッスン中はお手本として先生が演奏する一方で、指導を受けている生徒自身も演奏します。
地裁は、音楽教室には先生分と生徒分の両方について演奏使用料の支払義務があると判断しました。しかし、高裁は、生徒の演奏は音楽教室ではなく生徒自身で、音楽教室がやっていると考えられるのは先生の演奏だけだとしました。従って、音楽教室に支払義務があるのは先生による演奏の部分だけであるとしたわけです。
最高裁では、地裁と高裁で判断が分かれた「生徒の演奏をやっているのは音楽教室か、生徒か」が大きな争点になりましたが、最高裁は高裁と同じ判断をしました。
先生の演奏については、先生は音楽教室からの依頼でレッスンを行っているため、音楽教室が演奏使用料の支払義務を負う点は、あまり違和感はありません。地裁、高裁、最高裁ともに同様の判断になりました。
しかし、生徒は自分自身の技術を磨くために演奏しているわけで、その演奏も音楽教室が主体でやっているという地裁の判断にはもともと違和感がありました。高裁、そして最高裁の判断は穏当という気がします。
今回の判決を踏まえて、音楽教室における著作権使用料をどのように算出するのかが議論されることになると思います。ただ、音楽教室のレッスンの様子を考えると、先生と生徒の演奏をはっきりと区別できるものなのでしょうか。先生と生徒が一緒に演奏したり、一部を先生が演奏し、続きを生徒が演奏したりすることもあるでしょう。そのように考えると、演奏使用料の算出方法を決めるのはかなり難しいことになりそうです。
今後どのような使用料が定められるのかが注目されます。なお、生徒は自分がやっている演奏について演奏使用料を支払う義務はあるのでしょうか。この点について判決は何も述べていないことについても注意する必要があります。