サイバーエージジェントに聞く、クリエイティブ強化がもたらしたこと 事例詳細|つなweB

ミッションは「クリエイティブクオリティの向上」

(株)サイバーエージェントでは、近年より一層クリエイティブを重視しており、2015年にはデザイナーのNIGO氏を総合クリエイティブディレクターに迎えコーポレートロゴなどを刷新。2016年には「クリエイティブで勝負する。」という一文をミッションステートメントに追加し、デザイナーの佐藤洋介さんを執行役員に任命しています。佐藤さんはこう振り返ります。

「2012年に中途入社したとき、各サービスの事業部ごとにデザイナーが所属していて、まったく横の繋がりがない状態でした。そのため、サービスごとにクリエイティブのクオリティの差が大きかったんです。それで2013年頃から、僕が小さく仕組みづくりを始めました。たとえば、アートディレクターを8人くらい決めて、それぞれ5サービスくらいのデザインを見るようにしたりと。その頃から、社長の藤田(晋)に『現場のクリエイティブのクオリティを向上させてくれ』というミッションをもらっていました。今もそれは変わっていません」

クリエイティブのクオリティが上がることは、会社にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

「他社のサービスを見ても、クリエイティブを競争力にしているものが市場に増えています。また、各サービスの人気というのは、サービス自体の内容によるところが大きいのですが、使い心地が良かったり遅延によるストレスが少なかったりという地味なクオリティの積み重ねもユーザーのどこかに刺さっているのかなと思います」

経営層や他部署とのコミュニケーション

デザインが大事だということはわかっていても、経営層や上司、あるいは他の部署が理解してくれないというのはよく聞く話です。それを佐藤さんはどうクリアしていったのでしょうか。

「お互い違う立場なので、うまく理解してもらうための伝え方は必要です。たとえば2013年頃に流行り始めたフラットデザインの重要性を藤田に伝えた際には、既存サービスをフラットデザイン化して見せ、デバイスが増えたときに工数が3分の1になるという話も伝えました。相手に結果とメリットを先に伝えるというのは重要かなと思います」

そして、もう一つ大切な点を指摘します。

「各事業部ごとに紐づいたデザイナーを横につなげて束ねようとしたときも、最初は事業部長などから反発がありました。デザイナーの成長のためにこの仕事を任せたいと思っても、その事業部のリソースを奪われるという捉え方をされてしまって。でも、その分、僕や他のデザイナーが手伝うようにして、迷惑をかけず、むしろ新たなリソースが入るメリットがあるようにしたことで、徐々に理解を得ました。WIN-WINの関係をしっかりと築いていけば、対話でどうにかなるんですよ。コミュニケーションを諦めないことが大事ですね」

クリエイティブを向上させた成果

2016年にCIリブランディング、AbemaTV、AWAの3つがグッドデザイン賞を受賞。また、2016年にAbemaTVが、2017年にAWAがそれぞれGoogle Playのベストアプリを受賞するなど、実際に対外的な評価も得ていきました。

「デザイナーだけでなく、ビジネス職やエンジニアも含め、これくらいのクオリティが最低条件だよねという社内の美意識が上がりました。また、提案書類一つにしても、本当にこれでいいのかともう一度考えるように意識が上がってきました。そうやって、社員の価値観を変えられたのは一番大きな成果かもしれません」

その結果、採用でも、クリエイティブに惹かれ意欲のあるデザイナーが多く集まるようになってきたと言います。

 

デザイナーの意欲を高め力を発揮するための7つの取り組み

佐藤さんは、社内のクリエイティブ力を強化するため、デザイナーの意欲や実力を高めるためのさまざまな取り組みをしてきました。そのうち主な7つについて、その内容と狙い、効果をご紹介します。

 

Policy 1:デザイナーの意識を一歩先へ

最近は世にあるクリエイティブのクオリティが上がってきているので、ユーザーの目はとても肥えています。佐藤さんは、「ユーザーに対して、どう驚きをつくるのかというのが僕らデザイナーのミッション」と言います。それを実現するために、社内のクリエイターに「それ、ふつうになってない?」から始まるミッションステートメントを共有しています。

オーソドックスなデザインはユーザーが慣れていることもあり使いやすさという面では良いものの、印象に残りにくいという面もあります。一歩先をいく新しさを提示することは、サービスのエッヂになったり、ユーザーにとって替えの効かない体験になったり、あるいは情報過多な現在において目に留めて選択してもらうきっかけになり得ます。そのためにも同社では、デザイナーは常に新しい提案をすべきだという意識を浸透させています。こうした意識が、デザイン学習意欲にも繋がっています。

 

 

Policy 2:課題解決力を競い、サービスと人が共に成長する

「デザイナーロワイヤル」とは、既存の自社サービスの現状の課題を担当プロデューサーにヒアリングし、それを解決する施策を複数のデザイナーが考え、バトル形式で競う、サイバーエージェント独自の会議です。参加者は、「自分だったらこうデザインする」とか、「ここのリストが使いにくいからこういうモジュールに変えてみる」といった案をみんなの前で発表し、佐藤さんが点数をつけて、もっとも高得点だった人が優勝となります。

佐藤さんは、デザイナーは自分と他のデザイナーのアウトプットを横で比較して伸びるものだと言います。特に自分のアイデアを人に見せる経験がまだ少ない新入社員には、アウトプットを人に見せることに慣れるための場としても有効です。また、切磋琢磨して勝ち、スポットライトが当たることで自信にも繋がり、デザイナーにとって大事なモチベーションになります。

 

 

Policy 3:経営者の考えとデザイナーの考えを橋渡し

3年ほど前から月1回、藤田社長と佐藤さんで実施しているクリエイティブレビューは「サトウの日」と呼ばれています。まず佐藤さんが各サービスの担当者と15分ずつミーティングをし、進捗や新しいものができたという報告、こういうデザインを考えているという相談などさまざまな話を聞きます。それを藤田社長と2人で話し、フィードバックします。場合によっては、迷っているところを現場メンバーと一緒に、藤田社長に直接相談することもあるそうです。

このとき、ただ藤田社長の御用聞きなるだけでは意味がありません。デザイナーとしての意見をはっきり伝え、経営の意図を汲み取ります。そこから、デザイナー視点では良くできていても、、経営視点ではまだ不足があったり、ハッとした気づきを得ることもあるそうです。

そうして話したことを、翌週関係者全員を集めてフィードバックします。このとき、担当サービス以外のことについても知ることで、経営者が自社サービスに対してどう考えているかが現場にしっかり伝えられる点も重要です。

 

 

Policy 4:デザイナーのストレスを減らす

佐藤さんは、通路側の席になったデザイナーには、「奥の席に変えてもらった方がいいんじゃないか?」と声をかけるようにしています。というのも、デザイナーはデザインの過程を席の後ろから覗かれるのがすごくストレスになるからとのこと。実は佐藤さん自身が、そうした状況が苦手だとか。小さなことではありますが、デザイナー出身ではない上長では気づきづらく、なおかつデザイナーは自ら言い出せない人が多いため、佐藤さんが気を配るようにしています。

 

 

Policy 5:一流の作品を見てセンスを磨く

同社では、「デザインに対する投資」にも理解があります。たとえば「一流のものづくりをするためには、一流のものに触れるべき」という主旨のもと、アート展やデザイン展にデザイナーみんなでバスに乗って出かけて行く「一流の日」を開催しています。バスを用意することで、業務を中抜けする言い訳を作り、さまざまな部門のデザイナー同士の交流が生まれる機会にもなります。これまでに、「メディア芸術祭」や「グッドデザイン賞」の展示を見に行っています。こうした投資をする際、佐藤さんは「デザイナーという特性を理解し、潜在的なニーズを汲み取って最適なサポートをしてあげること」を心がけているそうです。

 

 

Policy 6:カンファレンスで知見や交流を広げる

2年ほど前に、全社のクリエイターに向けて開催した社内カンファレンス「CCC(CyberAgent Creators C?onference?)」をきっかけに、同社では社員に向けたさまざまなカンファレンスを開催しています。当初は交流がメインで、さまざまな事業領域で活躍するデザイナーたちがお互いのやっていることを理解することを目的としていました。

同年に、エンジニア向けの社内カンファレンスも初開催しており、翌年は合同の技術カンファレンス「CA BASE CAMP 2018」も開催しています。このときは社内だけで全60セッション、参加者1,000名超えという規模となり、制作物に関しても、?オープニングムービーから会場のアナウンスまで「Made in CyberAgent」の技術でこだわってつくられました。社内からも好評で、次回も開催予定だそうです。

 

 

Policy 7:自身の評価に納得感を持つ

同社では、デザイナーの査定を半年に1回行っています。その際に、右表のような「基本スキル」「標準スキル」「リーダースキル」の3種に各9個ずつの項目に基づいて、次の半期に向けて目標設定を行います。個々のレイヤーによって、基礎スキルだけ、あるいは標準スキルとリーダースキルの両方など、使用する項目は変わってきます。そして、「たとえば自分はヒアリングが課題だから伸ばそう」というように目標を設定し、半年後に目標どおりに伸びたのかを本人と評価者で話し合います。

これは定量的な評価を行うためというよりも、評価者との目標設定のすり合わせのために使われています。上から一方的に評価されるのではそれが妥当だと感じない場合もあるため、こうして現場の“納得感”をつくり出しているのです。このとき、評価者側がどのような点に期待を持っているのかを伝えることも重要です。

また、評価者で集まり、お互いに適切な目標設定ができているかレビューする機会を設け、評価者の育成もしています。

 

 

現場デザイナーの声

サイバーエージェントが行っている取り組みは、実際に社内では、どのように受け止められているのでしょうか。3名のデザイナーに、感想や仕事への思いをうかがいました。

 

 

 

 

佐藤洋介_Yosuke Sato
(株)サイバーエージェント 執行役員クリエイティブ統括室室長 2012年中途入社。さまざまなスマートフォン向けサービスのデザイナーを統括。現在はクリエイティブ担当の執行役員として、各サービスのUIデザインを監修している。
平田順子
※Web Designing 2019年2月号(2018年12月18日発売)掲載記事を転載

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