ディスプレイ広告のポイント 事例詳細|つなweB

画像や動画の表示も可能なのがディスプレイ広告。さまざまな課題にトータルソリューションで対応するWeb制作会社の(株)マイクロウェーブに、ディスプレイ広告の概要と、出稿に最適な条件や要点についてうかがいました。

 

高田志郎さん
(株)マイクロウェーブ 取締役/同社は、戦略・アート・テクノロジーを通して企業のデジタル戦略、DX支援の相談から開発までトータルに支援しています。https://www.micro-wave.net/
八木隆幸さん
(株)マイクロウェーブ DX事業本部 エクスペリエンステクノロジー事業部 マネジャーhttps://dif-s.jp/
関俊春さん
(株)マイクロウェーブ S&C推進本部 営業推進事業部 マネジャー

 

 

幅広い層へのリーチが可能画像、動画などの表示OK

ディスプレイ広告は、Webサイトの上部や下部、もしくはコンテンツ内の途中(文章と文章の間)、アプリ内に設定された広告枠に表示されます。

ディスプレイ広告と言えば、バナー広告を思い浮かべる人も少なくないかもしれません。広告形式はテキスト広告、画像付きの広告、動画付きの広告にも対応しており、ビジュアル要素で訴求できる広告手法です。昨今はデバイスも多様化し、広告スペースも大小さまざま存在する中、広告枠のサイズにあわせて調整されるレスポンシブにも対応しています。

よく顕在層にはリスティング広告、潜在層にはディスプレイ広告が向いているとも言われます。実際、ユーザーが能動的に検索することで展開されるテキスト形式のリスティング広告に比べると、ビジュアルが表示できるディスプレイ広告は、目的にあわせて潜在層や顕在層を問わず、幅広い層にアプローチできるのも特徴です。

ディスプレイ広告は、代表的な2種類が存在しています。1つがGoogleが提供するディスプレイネットワーク(GDN)で、もう1つがYahoo!広告が提供するディスプレイ広告(YDA)です。GDNであればGmailやYouTubeをはじめとするGoogleが提供するサービス、YDAならYahoo! JAPANが提供するYahoo!ニュースなど各種サービスに加え、両社ともそれぞれが提携するWebサイトやサービスに対して広告が配信されることになります。

さらに、広告アカウントをつくったGDNかYDAのいずれかの提携先の中で、どのWebサイトやアプリに配信されるのかを決めるのが「ターゲティング」です。ターゲティングには大きく2種類あり、1つが配信面に関わる設定です。任意のワードやトピック、提携先のURLなどを指定して、自社が望む配信先を設定するという方法です。

表示先の鍵を握るターゲティングの設定

もう1つのターゲティングが、ユーザーの属性や行動履歴などに基づく設定です。例えば、一度Webサイトに来訪したユーザーに向けて表示するリターゲティングという設定も可能で、ディスプレイ広告で展開できます。ただし、クッキー情報に基づくリターゲティングは、クッキーレスになると設定できなくなるメニューの1つにもなります。

GDNとYDAはそれぞれ主体が異なりますので、細かく見ていくと両社で用意されているセグメントの分け方が異なりますが、共通したセグメントも多く存在します。広告メニューには膨大な設定が用意されているので、新任者や慣れていない人は、まず2社に共通する区分を中心にしっかり把握することから始めるといいでしょう。例えば、地域やデバイス、年齢、性別、世帯収入、配偶者や子どもの有無、住宅の所有状況、学歴などは、両社に共通するターゲットの区分、種別です。

ですので、目的にふさわしい設定について、配信面やユーザー属性、ユーザー行動などの諸条件をしっかりと詰めることで、目的の達成に近づくための配信がしやすくなります。

予算や費用については、課金形式がクリック課金(表示された広告をクリックしたら課金が発生)とインプレッション課金(広告表示されたら課金が発生)の2種類が用意されています。クリック単価自体はリスティング広告よりも抑えられる傾向が見られます。

詳細はP048で後述しますが、ディスプレイ広告はリスティング広告ほどコンバージョン(獲得)に近い層へのアプローチに用いる手段ではありません。対象となるユーザー(=分母)を増やす施策に向いており、少なくともリスティング広告よりは予算がかかりやすいです。あまり安価な予算設定では実行しない広告タイプであることも、事前に把握しておくといいでしょう。

 

ディスプレイ広告の表示や配信について

リスティング広告は、検索されたワードに関連する広告が検索画面内にテキスト表示されます。広告経由で自社サイトやECサイトにユーザーが流入することに備えて、Webサイトでは目的につながるユーザー体験をコンテンツとして提供できるようにしておきましょう

 

ディスプレイ広告に適した3つの目的を理解しておこう

ディスプレイ広告に適した目的について、慣れないうちは大別して3パターンがある、と覚えておくといいでしょう。

限られた広告予算の中で、成果に結びつきやすく、今後に向けて着手しやすい順番で言うと、1つ目がコンバージョンに近い層へのアプローチです。例えば、リスティング広告やSEO対策を通じてコンバージョンに近い顕在層へのアプローチを進めた場合、獲得しきれなかったユーザーも出てきます。そこで、すでに自社サイトに来訪したことがありながらコンバージョンには至らなかったユーザーに対して、リターゲティングによるディスプレイ広告を通じてユーザーに自社サイトへ再訪する機会を高めていき、獲得へと導く形です。

2つ目は認知を促すための目的です。例えば、検索される可能性が少ない新サービスや新商品の認知施策に有効です。ディスプレイ広告はテレビCMのようなプッシュ型ですので、あるWebページに来訪すると(勝手に)広告と接点を持ってもらえる可能性がある、ユーザーが意識せず接触する施策です。リスティング広告は、ユーザーの頭の中に課題につながる言葉があって初めて検索を通じて表示されますが、そうではないユーザーに知ってもらうための、潜在層へのリーチに有力です。

3つ目が、ビジュアルでの訴求が有効だと判断した商材やサービスについての施策です。例えば、すでに存在する商品でも、形状など見た目の特徴が強みの場合や、新商品や新サービスでビジュアルとともに伝えたい場合、ビジュアルがなくテキストの説明だけではユーザーが想像しづらい商材などには、有力な選択肢になります。

3パターンとも、一部を除くと、すぐにでも購入や申し込みを希望するユーザー層への訴求ではありません。広告に接するユーザーのインサイトを十分に想像しながら活用したいところです。

クリエイティブづくりで気をつけたい注意点

ディスプレイ広告のクリエイティブについては、商品やサービスによって細かな判断や検討事項が変わるので、ここでは普遍的に通用する方向性やルールに基づく配慮について考えます。

まずクリエイティブをつくる際に、どういう目的で、どのような状態にいる誰に届けたい表現であるかを定義しましょう。その定義に基づいてKPI(重要業績評価指標)を設定しながら、考えられるクリエイティブの方向性を検討します。

ここで注意してほしいのは、一点突破にならないこと。1本だけの展開は避けて、対象商品やサービスに対するUSP(Unique Selling Proposition、独自の売り)に基づいて、必ずいくつかのパターンを用意します。また、精度の悪い仮説だと、検証するまでもないとなるので、用意する仮説にも根拠や妥当性を求めましょう。

複数のパターンが用意できたら、A/Bテストなどの検証を行います。一定数以上の広告表示回数のもとでテストし、パターン別でデータを比べます。特に検証してほしいのは、表示後にクリックする回数や割合(CTR)と、クリック後に流入したページ経由でコンバージョンにまで至った回数や割合(CVR)を見ながら、どのパターンがより機能しているかを検証します。統計学上、パターン別での有意差が見られるまで、一定期間をとるだけでなく一定数以上の表示回数を重ねながら、検証します。

その際に、ルールに基づく表現にも配慮しましょう。広告規定の遵守は当然ながら、例えばアクセシビリティに配慮してフォントと背景の色差もつけた表現にします。もちろん、ブランディング目的でクリエイティブの世界観を優先したい場合、ガイドラインに抵触しない範囲で意図的にフォントや背景の色差を出さず雰囲気重視の表現にするなど、目的に応じて、臨機応変に判断できるといいでしょう。

 

ディスプレイ広告が機能しやすい3つの目的

ディスプレイ広告は、テキストのほかに画像や動画を伴う表現が可能なため、コンバージョンに近くない層に働きかけるアプローチや、ビジュアルありきの訴求に対して、成果を引き出しやすい手段です

 

ふさわしいクリエイティブの見つけ方

クリエイティブの検討では、目的にリーチする表現について複数案を用意。ターゲットとなるユーザーのインサイトを考慮した表現を、ルールに則りながら検討し、準備ができたらテストを進めます。しっかりした有意性が出るように一定以上の表示回数を重ね、検証します

 

流入数増と獲得数増両者ともに追いがちという誤解

コロナ禍もあって、ネット広告全般に積極的ではなかった企業なども、課題対策の選択肢にネット広告を入れてくる傾向を感じています。その中で、現場の問い合わせで多いのが、「ディスプレイ広告は、ビジュアルが表示されて自社サイトにも誘導しやすそうだし、広告運用すれば自社への問い合わせ数がさぞかし増えるはず」という反応です。ディスプレイ広告の導入に際して、手段ありきの採用さえしていなければ、目的に基づく施策として採用しているはずです。視覚的に訴求できるわかりやすさの印象が強いからなのか、例えば自社サイトへの流入数は確かに増えたけれど、コンバージョンレートは下がってしまうといった広告運用中の結果に納得できない反応を示す広告主が少なからずいます。

この場合、設定した目的に基づくふさわしい手段として、なぜディスプレイ広告を選んだのかを改めて再確認するといいでしょう。その多くは、ニーズがある相手に対して具体的な訴求のために行っておらず、まだニーズを感じていない認知の拡大に使われやすいのが実情です。もちろん、認知が増えるから自社サイトへの流入ユーザー数が増える分、問い合わせも比例して増える可能性はありますが、問い合わせを行うほど積極的な層は限られます。認知目的で自社サイトへの流入数が増えた場合、その増えた分にあわせてコンバージョン数が伸びるわけではありません。その結果、分母が増えたことでコンバージョンレート(率)が下がることは十分にありえます。リスティング広告のような獲得への効率性はないのです。両広告のレートを比べると、余計にその差が気になるでしょう。

では、コンバージョンレートが下がった施策は失敗なのでしょうか? 事前にKPIを定め、どのような結果を評価するのかを決めておけば、必ずしも失敗という評価にはならないはずです。認知拡大を目的としたなら、自社サイトの流入数が増加していれば初期の目的は達成しています。その先のコンバージョンは、成否を問われる評価指標ではないはずです。

認知拡大によって増えた流入層は、まだコンバージョンに達するほどニーズが顕在化していない層を多数含んでいます。こうした混乱が起きないためにも、対象商品やサービスの置かれた現状のフェーズがどこに位置し、ディスプレイ広告の特徴を活かせる状況にあるのかを見極めた上で、採用しましょう。

手段ありきで考えない常に目的に立ち返ること

加えて最近は、クッキーレスへの対応についてよく問い合わせを受けます。P047で触れた通り、ディスプレイ広告はリターゲティングにも使われるので、一度Webサイトに訪問したユーザーに対して再訪してもらう策の代替が求められます。例えば、訪問ユーザーに何とかメールマガジンへの登録を促して再訪機会をつくり出すような施策など、再訪してもらう手段は考えておく必要があります。

クッキーについては、クッキーを用いて担保されていた精度の問題とも言い換えられます。クッキーを用いずとも、配信枠を用意しているWebサイトベースで考えて、このWebサイトに訪問するユーザーならこういう属性で、このようなインサイトのユーザーが来るという推察のもと、設定することもできます。クッキーレス対応の広告運用のメニューの中には、こうしたサイトターゲティングに基づくものも見受けます。費用対効果を考えると、代替策としてサイトベースに基づくアプローチは、現実的で有効だと捉えていいでしょう。

大切なのは本質に迫った対応です。どのような目的のもとで、誰に何を伝えるかを考えましょう。決してディスプレイ広告ありきとならず、一連のKPI設計の中で妥当な一手段として選ぶことになれば、全体の広告予算からどれほどの配分で行うのか、実際のビジュアルなども含めた設定を進めます。

後は、配信を通じた検証を行いながら、目的に常に立ち返っては、状況に応じて改善のアクションがとれると、自社で知見を蓄積しながら成果を引き出していけるでしょう。

 

実施後の現実と目的をすり合わせる

ディスプレイ広告を運用する目的に基づいて、求めたい流入数やコンバージョン(獲得)数とその割合について、確認しておきます。流入数が増える一方で、そのまま獲得数につながるわけではないので、評価すべき指標を整理しておきましょう

 

常にKPIに立ち返る運用を!

クッキーレスによって取得しづらくなったデータはありますが、やるべきことの本質に変わりはありません。ディスプレイ広告は幅広い対象へのリーチが可能だからこそ、いつでも実施目的に立ち返りながら運用することが肝要です

 

 

Text: 遠藤義浩
※Web Designing 2022年2月号(2022年4月18日発売)掲載記事を転載

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