動画広告のポイント 事例詳細|つなweB

スマートフォンや高速通信サービスの普及により、動画の視聴が当たり前になった今。マーケティング担当者にとって「動画広告はマスト」と言っても過言ではないはずです。ここからは、動画広告の特徴や傾向を解説します。

 

戸山泰斗さん
株式会社サムシングファン マーケティング部/自ら立ち上げた動画制作会社でキャリアを積んだ後、サムシングファンに入社。自社のSaaS事業の拡大に向け、戦略から戦術まで携わる。 https://www.somethingfun.co.jp/

 

 

動画広告の種類や課金形態は一つではない!?

誰もが必ず一度は目にしたことがあると言っていいほど、私たちにとって身近な存在となった動画広告ですが、大きく分けると5種類に分類されることをご存じでしょうか?

一番イメージしやすいのは、YouTubeなど動画配信サイトの視聴途中や前後に流れる広告だと思います。「インストリーム広告」と呼ばれ、広告を途中でスキップできる「スキッパブル広告」と、最後まで見る必要がある「ノンスキッパブル広告」に分けられます。また、TwitterやFacebook、InstagramといったSNSのタイムラインやストーリー上に表示される広告を目にしたことがある方も多いはずです。それらは「インリード広告」と呼ばれ、Web上の記事をスクロールするときにも表示されます。その他、Yahoo! JAPANなどのトップ画面で再生される「インバナー広告」や、パソコンやスマートフォンの画面の上か下に固定表示され、スクロールしても追従してくる「オーバーレイ広告」、ページを切り替えるときにWebサイトの前面やアプリ画面に表示される「インタースティシャル広告」があります。

それらの動画広告が、どのような仕組みで表示されているのかというと、基本的には入札です。希望の広告枠と、年齢や性別、職業などのターゲティングを定め、そこに対する希望上限金額を設定。もし同じ枠に同じターゲティング設定で他社からも入札があれば、入札した上限金額などを元に競りが行われ、競り勝った方の広告が表示されるというわけです。

ただし、入札した瞬間に費用が発生するのではなく、課金条件を満たして初めて費用が発生します。その課金条件にも、動画広告が1,000回表示されるごとに課金される「CPM」、動画広告が1回クリックされるたびに課金される「CPC」、動画広告が1回再生されるごとに課金される「CPV」という3つのパターンがあります。例えばCPMでは、広告がクリックされても費用は発生しないため、多くの潜在顧客に向けて認知を図りたい場合には費用対効果が高いですが、すでに認知度の高い商品やサービスの場合には、クリックされなくても、表示されれば課金されてしまうなど、それぞれにメリット・デメリットがあるので、配信目的に合わせた最適な課金形態を検討する必要があります。

初めて出稿する際に必要な予算の相場は?

では、いざ動画広告を出稿するにあたっては、どれくらいの予算を考えておけばいいのかが気になるところかと思います。

まず、広告として流す動画自体の制作費が必要です。動画制作費の相場は5万~80万円ですが、動画の内容や依頼する会社によって大きく異なるため、事前に見積もりなどを確認するのがおすすめです。そして、その先の予算については、フレキシブルに変更できるという言い方が正しいかもしれません。

そもそも広告を出す際には、A/Bテストを行うのが基本です。弊社としては、まったく方向性の違うクリエイティブを2パターン用意し、それぞれの予算を一日2,000~4,000円ずつに設定することを推奨しています。もちろん、500~1,000円に設定してもいいのですが、その分、他社に競り負けるなどの理由で広告が表示される回数が少なくなるため、母数不足で効果を適正に測定できない可能性があります。なので、合計で一日4,000~8,000円の予算で、一ヵ月毎に視聴率やクリック率をチェックしながら、まずは3ヵ月やってみる。そして、3ヵ月後に結果が良かった方のクリエイティブを採用して、その後も視聴率などのデータをチェックしながら、3ヵ月毎を目途にターゲティングや一日にかける予算を見直すのがベターです。よって、出稿費用はある程度は決めておきつつも、状況を見ながら変動するものだと考えていただくのがいいかと思います。

 

動画広告の予算と運用の仕方

FacebookやInstagramのように、アカウントをつくるのに電話番号認証が必要な媒体に関しては、他の媒体よりもターゲティング精度が高いため、一日の予算は同じでも、「男性の20代/40代」「女性の30代/50代」のように細かくターゲットを設定した4種の動画を制作し、各動画に一日1,000~2,000円程度ずつかけてA/Bテストを行うことを推奨している

 

動画広告の最大の特徴は圧倒的な情報量

動画広告の仕組みや予算についてお伝えしたところで、続いて気になるのは「他の広告との違い」ではないでしょうか。最大の特徴はなんといっても、画像一枚で伝える他の広告と比べて、伝えられる情報量が格段に多いことです。言葉で説明するのが難しいことでも、動画であれば「視覚的に」伝えることができます。そのため、会社のビジョンや商品・サービスの魅力をより明確に理解してもらい、購入や契約につながる可能性を高めることができるのです。

また、潜在顧客を顕在顧客まで落とし込むのに最適な広告であるとも考えています。例えばリスティング広告やリターゲティング広告の場合、基本的には検索キーワードや行動履歴に基づいて表示されるものなので、そもそもそのキーワードに興味を持っていなければ表示されません。その分、顕在層からのクリック率は高くなるわけですが、キーワードを知らない潜在層には訴求できないということになります。ディスプレイ広告やバナー広告など、他にも潜在層に効果的な広告はありますが、伝えられる情報量の点では動画広告が秀でています。

一方で、動画を途中でスキップされてしまったら、商品やサービスの魅力などを訴求しきれないという注意点もあります。そのため、スキップされにくい、かつ短時間で魅力が伝わる動画の制作やターゲティングのテクニックが必要です。そのノウハウを持っているのが弊社のような制作会社や広告代理店になりますので、自社だけで制作されるよりは、依頼していただくのが基本にはなるかと思います。

また、他の広告と比較してクリック単価が高いので、クリック単価を抑えたいという課題がある場合や、顕在層が明確に決まっていて、購入まで誘導することが目的の場合には、動画広告は向いていないかもしれません。

認知フェーズのユーザーも把握できる!

動画広告には、視聴回数や視聴率を指標として出すことができるという特徴もあります。つまり、どれくらいのユーザーが、動画広告のどの部分まで見たのかを把握できるのです。

他の広告の場合、クリック率や表示回数などまでは把握できても、ユーザーがその広告を見たかどうかまでは把握できません。広告をクリックはしていなくても、実はその広告を見て、商品を認識してくれたかもしれないのに、そういうユーザーがいることを認識できなければ、その後のアプローチも難しくなってしまいますよね。動画広告であれば、視聴データを見ることで、認知フェーズのユーザーが何パーセントいるという分析ができる点もメリットの一つと言えます。ある程度認知が広がってきたことがわかれば、次はリスティング広告に切り替えたり、顕在層だけに向けた動画広告をつくるなど、より効果的なアプローチを打つことができるわけです。

そのため、動画広告の効果を測定する指標としては、媒体や広告の目的にもよりますが、基本的には視聴回数や視聴率、視聴単価にフォーカスするのがいいと考えています。例えばA/Bテストを行って、18歳~24歳の女性の視聴率が5%で、45歳~54歳の男性の視聴率が25%であれば、圧倒的に後者に絞って広告をかけていった方がいいという結論を出すことがほとんどです。もちろん、クリック率で比較して、18歳~24歳の女性のクリック率の方が高ければ、そちらに絞って広告をかけていっても間違いではありません。ですが、正直、動画広告のクリック率はそこまで高くないので、母数が少ない中で適切に効果を測定できているのかという懸念が一つあります。また、クリック率やクリック単価を指標として追いたいのであれば、そもそもクリック率の高いリスティング広告やリターゲティング広告に切り替えることをおすすめします。

 

動画広告を活用したマーケティング施策

課金形態によっては、スキップされれば広告料金は発生しないため、お金の面からいえば問題はない。しかし、広告は見てもらうことが前提。「広告を最初から最後までしっかり見たい」と思っているユーザーはいないので、注意を惹きつけられるよう、クオリティの高い動画を意識することが何よりも大切だ

 

潜在層に向けたアプローチをしたい場合

クリックまではいかなくても、完全視聴率が高ければ、その動画に対して興味を持ったユーザーがいると判断し、その後のアプローチも検討しやすい。そのため、そもそもどのように広告を動かして、どのような統計を取っていけばいいのかわからない場合にも動画広告は最適だ

 

今後の動画広告市場はどう変化する?

最後に、最近の傾向についてお話します。まず、2020年に日本でも5Gが解禁となり、これまで以上に超高速・大容量の通信が可能となりました。動画広告の市場は、スマートフォンの普及や、それに伴う動画SNSの増加によって順調に拡大を続けてきましたが、5Gにより動画市場および動画広告市場はさらに急激な成長を遂げることが予想されています。また、一日の平均動画視聴時間が増え続けているというデータも多く発表されています。動画の視聴時間が長くなれば、その中で動画広告が流れる回数も増えていくため、単純に接触頻度は増えていくはずです。

そうした状況の中、闇雲にいろいろな媒体に動画広告を出すのではなく、目的別に出すべき媒体が定まりつつあるのではないかと感じています。例えば、電話番号認証が必要な媒体の中でも、基本的に実名登録制で、年齢や性別だけでなく、勤務先や趣味まで登録することができるFacebookは、他の媒体と比較して非常にターゲティング精度が高くなっています。そのため、2~3年前までは、商品やサービスのプロモーション動画もあったと記憶していますが、今はセミナーやイベントの呼びかけ、集客を目的としたビジネス広告の出稿先として利用する企業が多くなっている印象です。また、そういった広告を求めているユーザーも増えているのではないでしょうか。逆に、YouTubeではビジネス広告を見かけることはほとんどなくなりました。今後も、この傾向は続いていくのではないかと考えています。

これからの動画広告はクリエイティブ重視の時代へ

一方で、2023年にはクッキーレスの時代が到来すると言われていますよね。サードパーティのデータが取得できなくなる分、今まで以上にターゲティングの精度を高めていくことは難しくなるはずです。つまり、今までよりも広告の費用対効果が良くなることはないのではないかと見込んでいます。そのため、これからの時代は、ターゲティングを絞って広告を打つのではなく、老若男女問わず、多くの人の心を掴めるような動画のクリエイティブがますます重要になってくる。もっと言うと、見た人の心に響くようなおもしろいクリエイティブの広告でない限り、受け入れられない時代が来るのだろうと考えています。どれだけ視聴率を獲得できて、どれだけクリックにつなげられたかといった数字のデータでは賄いきれない、感性やセンスの部分に対する評価が強くなっていくイメージです。

ただ、実は現時点でも、クリエイティブを重視する傾向は出始めていると思っています。というのも、少し話は逸れますが、最近、弊社に対して、タクシー広告やテレビCMをかけたいと相談に来られるお客様がすごく増えています。タクシー広告やテレビCMの場合、デジタル系の広告とは違って、どういう人がどこまで見ているかという統計は取りづらいため、弊社としては、「ターゲティングの資産として残すのであれば、デジタル系の広告をかけた方がいいですよ」というお話はさせていただいています。しかし、よくよくお話を伺ってみると、広告を通してコンバージョン率やクリック率を上げたいというわけではなく、企業のイメージアップやブランド浸透させていくために広告を活用したいという課題感をお持ちのお客様がほとんどなのです。要するに、お客様が弊社に求めているのは、広告の運用やマーケティングではなく、クリエイティブになるんですよね。

とはいえ、多くの人の印象に残るクリエイティブをつくることは言葉で言うほど簡単ではありません。おそらく皆さんも感じられていることかと思うのですが、最初の数秒で引き込まれて、最後までスキップせずに見続けてしまうような動画広告って、正直なところ、10個に1個とかのレベルではなく、50個に1個あるかないかのレベルだと思います。だからこそ、弊社はもちろんのこと、クリエイター同士で切磋琢磨しながら、日本のクリエイティブ水準を上げていきたいと思っていますし、そうすればもっと動画広告市場は活性化していくのではないかとも思っています。

 

動画広告市場規模推計 〈デバイス別〉(2019年~2024年)

2021年の動画広告市場は3,889億円に達することが見込まれ、うち、スマートフォン比率は全体の約9割に。今後もスマートフォン動画広告が動画広告需要全体の成長を牽引し、2024年には6,856億円に達すると予想されている

 

今後求められる動画広告

最終的にクリック率やコンバージョン率の向上につなげるべく、ターゲティングを定めて動画広告を配信する時代から、多くの人の心を打つクリエイティブで、企業や商品、サービスのイメージアップやブランド力を高める時代へ

 

YouTube広告ならではの特徴とは?

ここまで動画広告全般についてお伝えしてきましたが、多くの方が動画広告と聞いて思い浮かべるのはYouTube広告ではないでしょうか。媒体やターゲティングによって、動画の流れも変わってはくるものの、基本的にYouTubeに出稿できる動画を制作しておけば、他の媒体に回すことも可能だと考えています。

ご存じの通り、YouTube広告にもいくつかのパターンが存在しています。一つ目が、6秒以内で終わる「バンパー広告」で、途中でスキップができないため、必ず最後まで視聴してもらえます。また、15秒間はスキップができない「スキップ不可のTrueViewインストリーム広告」と、5秒経過するとスキップできる「スキップ可能なTrueViewインストリーム広告」。その他、YouTubeのトップページや検索結果ページ、動画再生ページ右側の動画一覧上部に表示される「TrueViewディスカバリー広告」や、ホーム画面上部に表示される「マストヘッド広告」など、さまざまな方法があります。

どの動画広告にも言えることではありますが、特にYouTube広告の場合、とにかく最初の5~6秒間でいかに飽きられないようにできるか、潜在層に向けてどれだけ気づきを与えられるかが重要だと考えています。というのも、バンパー広告の場合は6秒間、スキッパブル広告の場合は5秒後にスキップするまでの間に、何か別の作業をすることはほとんどありませんよね。つまり、最初の5~6秒は、どんなに興味のない人でも絶対に見ないといけないのです。ここでスキップされなければ、まったく商品やサービスに興味がなかった人にも、魅力をアピールすることができます。そして、その後はどんどん、興味・関心フェーズや顕在層フェーズに落とし込んでいく流れが一般的です。そのため、「この後どうなるんだろう?」と気になるようなクリエイティブが強いと考えています。

ユーザーが広告を求める媒体ではなくなってきている!

YouTube広告の最近の傾向としては、前述の通りBtoB向けの広告はほぼなくなってきています。BtoC向け商材の広告の中では特にマンガ広告が人気ですね。他には、1時間以上の尺のものも登場していて、正直、「この動画を見てクリックする人いるのかな?」と感じたことがある方もいらっしゃるはずです。一方で、ユーザーもそれを求めている。つまり、YouTubeはユーザーが広告を求める媒体ではなくなりつつあるのだと感じています。そのため、近い将来、クリック率の採算は合わなくなり、マス広告的に、大多数の潜在層に向けたブランディングを行うための場所になっていくのではないでしょうか。

また、YouTubeはもはや私たちの生活の一部になりつつありますよね。最近では、ただ映像を流しているだけの方や、BGMのように利用している方も多いはずです。そのため、視覚だけではなく、聴覚に訴えかけることも重要になってくるのではないかと、私個人としては考えています。まだ具体的なアイデアがあるわけではないのですが、例えば、「耳かきの音」や「咀嚼音」など、日常生活のありふれた音にフォーカスしたASMR動画のように、聞いていて心地良い、聞いているだけでおもしろいなど、耳に対するインパクトも考慮していきたいところです。実際、海外ではブランディングCMとして視覚と聴覚を刺激する「音ハメ動画」が流行っていて、コカ・コーラなど大手の企業でも、音ハメ動画をブランディングのために使用し始めていると聞いています。視覚だけでなく、聴覚にも訴えかけられれば、他の広告と比較して、さらに優位性が高くなるはずです。かつ、日本ではまだ目だけで訴える広告が多いので、あえて耳に訴えることで、他社とも差別化した、強みを増した広告にできるのではないかと考えています。

一方で、耳にフォーカスした動画であっても、テロップや字幕のつけ方を工夫することによって、いくらでも視覚に対して訴求することは可能なので、汎用的な広告であることには変わりないはずです。

 

主なYouTube広告の種類とそれぞれの特徴

それぞれ特徴が異なるため、広告の目的やターゲットを明確に定め、自社にとってベストな形式を選択するようにしよう

 

これからは聴覚へのアピールも欠かせない

YouTubeとそれ以外の媒体向けで広告の内容を変えることもあれば、YouTubeで配信したものを他の媒体で再度配信することも珍しくない。YouTube以外の媒体では、デフォルトで音声がオフになっているが、聴覚にフォーカスしたYouTube広告にテロップや字幕をつければ、視覚に訴えることも可能だ

 

 

Text : 楳園麻美(Playce)
※Web Designing 2022年2月号(2022年4月18日発売)掲載記事を転載

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