法的な問題がないのに叩かれるコンテンツ 事例詳細|つなweB

身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。

 

この連載ではWebデザインに関係する法律問題について紹介してきましたが、実はネットの世界では法的には全く問題がないのに炎上してしまうことも珍しくありません。

先日「pot and tea」というアパレルブランドが、菓子店のクッキーの写真を使用したTシャツを販売したことがネット上で騒動となりました。そのクッキーの写真を見た顧客から問い合わせを受けた菓子店が、X(Twitter)上に、ブランドとは面識も連絡を取ったこともない、コラボ商品ではないとの投稿をしたことが発端でした。

投稿された写真の1つが右のものです。確かに特徴のある可愛らしい形のクッキーですから、普段から親しんでいる顧客がTシャツを見て問い合わせをしたのももっともと思います。

では、このTシャツに法的な問題はあるでしょうか。

まず、可愛らしいのは確かですが、このようなクッキーの形は著作物とは認められないでしょう。また、菓子店のWebサイトなどの商品の写真を流用した場合は写真の著作権を侵害する可能性がありますが、どうやらTシャツに使われたのは自分で撮影した写真のようです。したがって著作権法上の問題はなさそうです。意匠登録も商標登録もされていないため、意匠法・商標法上の問題もありません。

コラボ商品と間違えられたという点では不正競争防止法違反が問題となりそうです。それが認められるためにはクッキーの形に独自性があり、その形状を強調した宣伝がなされるなどして、少なくとも一定の広い範囲で「あの形のクッキーは〇〇のもの」という知名度(周知性・著名性)を獲得していることが必要とされています。今回の菓子店は人気があり、問題となったクッキーは味も好評だったようです。ただ不正競争防止法の要件のハードルは高いので、それを満たす可能性は低いでしょう。

こうしてみるとこのTシャツは法的には特に問題がないということになりそうです。ただ、他方で顧客がコラボ商品だと誤解した、そんな顧客からの連絡を受けて菓子店が困惑し、迷惑だと感じたのも常識的にもっともなことです。また、コラボ商品だと誤解し、菓子店への応援のつもりで買ってしまった顧客がいたら、騙されたと感じるかもしれません。

指摘を受けたアパレルブランド側の対応も誠意は感じられるものでしたが、少し問題があったこともあり、ネット上でアパレルブランドに対する非難の声が挙がったのも当然のことだったと言えます。

この件はWeb制作とは関係ありませんが、Web制作にあたっても、法律に違反さえしなければよいというわけではありません。誰かが困ったり不快に思ったりしないかということを考慮することも大切でしょう。

 

菓子店がX(Twitter)上に投稿したクッキーとTシャツの写真。クッキーの形は著作物とは認められないため著作権法上の問題はない。けれども、倫理や感情は法的な問題と切り離して考える必要がありそうだ

 

桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/

 

桑野雄一郎
※Web Designing 2023年12月号(2023年10月18日発売)掲載記事を転載

関連記事