大規模言語モデルAIと著作権 事例詳細|つなweB

身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。

 

最近SNS等でも注目を集めているのが、「ChatGPT」に代表される自然言語処理系のAIです。

ChatGPTは対話型のAIで、問いかけに対して応答する形で文章を作成するものです。試しに私が、「株式会社マイナビ出版が発行している雑誌『Web Designing』について、300字程度で教えてください」と問いかけたところ、右の文章が返ってきました。どうでしょう。ライターが書いたものと遜色ない文章ではないでしょうか。

ChatGPTを動かしているのは「ラージ・ランゲージ・モデル」というアルゴリズムで、大量のテキストデータを学習させることで、人間が書いたのと比べても違和感のない、極めて自然な文章が作成されるようになっています。

文章表現そのものがAIが書いたとは思えない自然さを備えていることに加えて、上記の本誌に関する問いのような、ネット上に説明した文章が出ている一般的な題材についてはその内容もかなり正確なものになっています。

ネットで情報をリサーチしてレポートを作成するといった作業をChatGPTのようなAIが代わりにやってくれるわけです。それに、知りたい情報を問いかければAIが調べてくるのですから、自分でキーワードを入力する必要性もなくなります。脅威に感じたGoogleなどは自ら自然言語処理系のAIを開発したりもしています。

ただ、他方で、あまりネット上に情報が出ていないことや専門性の高い事項については、その内容は不正確なものとなります。ネット上でも無名の人物の私について質問したら、生年月日も出身大学も専門分野も全く異なる実在しない弁護士について長々と書いた文章が出てきました。

気になるのは、このようなAIが作成した文章の著作権ですが、日本の著作権法は人の思想・感情を創作的に表現したものが著作物とされています。AIが作成した文章には人の思想・感情は表現されていませんので、著作権は成立しないという見解が一般的です。つまり、著作権フリーなわけです。

ただ、コピペして利用するには注意が必要です。というのは、AIが作成した文章の中にどこかのネット上に出ている文章の一部がコピペされ、著作権を侵害している可能性があるからです。外に出したりする場合は少し手を加えるなどした方がよいでしょう。

なお、大学のレポートなどでAIが作成した文章を自分が書いた文章だと偽ることもあるのではないかと指摘されていますが、そのような場合に備えてAIが作成したかどうかを判定するAIも開発されたりしています。

本誌が発行される頃にはこの原稿を書いた時点からさらに新しいトピックスが生まれていると思うくらい、自然言語処理系のAIの世界は急速に変化しています。今後も注目してください。

 

※同じ問いかけをしても毎回返事の内容は微妙に変化します ※特定の文書のコピペではないことを確認して転載しています

 

桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/

 

桑野雄一郎
Web Designing 2023年6月号(2023年4月18日発売)掲載記事を転載