身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。
本誌2021年12月号で「裁定制度」について紹介しました。作品を利用したいが著作権者が誰なのか、どこにいるのかがわからないという場合に、文化庁長官に裁定をしてもらうことで利用できるようになるという制度です。
ただ、ネット社会の進展に伴い、社会に流通する著作物の量も拡大し、それに伴い著作権者がどこの誰かがわからないコンテンツも急激に増えています。これらのコンテンツの全てについて文化庁に裁定制度の申請をするのは申請する側にとっても、また申請を受理する文化庁にとっても現実的ではありません。
そこで、現在このような権利者がわからない著作物の二次利用を促進するための著作権法改正が議論されています。現在のところ利用希望者からの相談や申請を受ける窓口を設けて、一定の金額を支払うことで利用できる制度が検討されているようです。
改正案は音楽や小説、動画といった分野をまたぐ著作権のデータベースを立ち上げ、権利者を探しやすくします。権利者が分からない場合や、許諾の意思表示が確認できない場合は新たに設けられる窓口に申請し、一定額の補償金を支払えば暫定的に利用することができるようです。
そして、後になって権利者が申し出てきた場合は補償金を還元し、また利用希望者との間で改めて許諾契約を結ぶこともできるようです。窓口組織は著作権関連の業務で実績のある一般社団法人などを想定しているとのことで、報道によると、現在の国会で成立すると2026年度までに施行される見通しのようです。
利用を希望する側にとっては非常に便利ですが、つくり手にとっては自分の連絡先を明らかにしておかないと、知らない間に作品が利用されても文句が言えないことになります。もちろん補償金は支払われますが、お金の問題ではなく、自分の作品はこのような形では利用されたくない、という意向は反映されなくなってしまいます。
今後作品を発表する場合は、作品の利用について何らかの意思表示をすることも必要になってくるかもしれません。例えば、①無断での利用は一切してもらいたくない ②利用したい場合は(あらかじめ設けた)窓口に連絡してもらいたい、といったことです。逆に、音楽作品のJASRACのような集中管理団体を通じて、一定の金額を支払いさえすればどんどん利用してもらって構わないという意思表示の仕方もあるでしょう。
ネット社会になり、つくり手にとっての「作品」は利用する側にとっての「コンテンツ」という一種の消費財に形を変えつつあります。創作して発表したあとに自分の「作品」がどう流通するのかもきちんと考えることが、これからのクリエイターには必要なことなのかもしれません。