映画館への著作権使用料請求 事例詳細|つなweB

身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。

この記事を書いたのは…
桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/

JASRACが映画館での音楽著作権料の徴収方法を見直す方針を発表しました。これについて映画館側は死活問題だと反発しており、音楽教室に続く騒動に発展しそうな気配です。

映画で使用される映画音楽に対する著作権料は2つに区別されます。

(1)映画に収録する(シンクロナイゼーション)に対するもの
(2)映画の上映に際しての収録された音楽の再生に対するもの

今回JASRACが見直すと発表したのは(2)についてです。映画に収録することの著作権料を支払ったのに、その映画を上映する際に追加の著作権料を支払わないといけないのはおかしいと思う方もいるかもしれません。しかし、著作権法上は(1)は複製権、(2)は上映権というまったく別の権利ですから、(1)の著作権料と(2)の著作権料は別というのがむしろ当然だということになります。

今回JASRACが見直しの方針を示したのは洋画についてです。従来は全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)との合意により、1作品あたり18万円と定額だったものを、興行収入に対する一定割合にすることです。JASRACによると、18万円という金額は国内外作品の興行収入の0.08%程度で、海外と比べても突出して低いので、段階的に海外並みの1~2%程度に引き上げたいとのことです。料率はともかく、上映による興行収入が多い作品も少ない作品も音楽著作権料が同じであってよいのかという問題はあるように思います。

洋画についてJASRACの方針変更のポイントをまとめたもの。今回は洋画についてだけだが、将来的には邦画も同様の方針変更をしたいと発表された

もう一つ、従来は配給業者が支払っていたものを劇場に支払ってもらうようにしたいということです。上映しているのは配給業者ではなく、劇場だから、劇場が支払うのが本来だというのがその理由です。コンテンツを提供する配給業者に支払ってもらう「元栓方式」から、実際に上映を行う劇場に支払ってもらう「蛇口方式」への転換を目指したものです。最近は映画館でも舞台など、映画以外のコンテンツを上映することが増えてきましたから、それらも含めて劇場に課金をするという考え方には一理あると思います。

JASRACの主張は一応筋が通っているように思えます。ただ、音楽著作権料の料率を諸外国と揃えることの合理性は、映画に関するビジネスモデル全体を比較して判断する必要があるように思います。また、元栓方式を採用した場合、著作権料は映画のチケット代に転嫁されることになるのではないでしょうか。音楽教室の場合も含めた一連のJASRACの動きの背景にはCDの売り上げの減少に伴うJASRACの収入の減少があると言われています。作詞家・作曲家に対して正当な利益が還元されることは必要なことですが、このように消費者に負担を強いるだけの結果となることでよいのかは疑問です。

 

桑野雄一郎
※Web Designing 2018年2月号(2017年12月18日発売)掲載記事を転載

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