パーマ大佐「森のくまさん」騒動で考える著作者人格権 事例詳細|つなweB

身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。

 

童謡「森のくまさん」をもとにした曲をお笑い芸人のパーマ大佐が発表したところ、「森のくまさん」を和訳した馬場祥弘氏が、パーマ大佐とレコード会社に対して著作権法を根拠に販売差止めと慰謝料などを請求する騒動が起きました。オリジナルの曲はアメリカ民謡ですから、どのように利用しても著作権法上の問題はありません。この騒動で問題になったのは馬場氏が和訳した歌詞との関係です。

この件はいわゆる替え歌とは異なり、パーマ版では馬場版の歌詞そのものに手を加えていません。ただ、歌詞の間に独自の歌詞を加えただけです。また、馬場版の歌詞の著作権はJASRACに譲渡されていて、パーマ版のCD販売などについては使用料を支払ってJASRACから使用許諾を受けていました。それなら、なぜ著作権法違反が問題となったのでしょうか。

実は、ここで問題となったのは著作権法上の“同一性保持権”という権利です。これは著作権ではなく、著作者人格権という権利のひとつです。著作者人格権は財産権ではなく、人格権で、同じく人格権とされている肖像権やプライバシー権といった権利と同様に、他人に譲渡することができません。ですから著作権がJASRACに譲渡されていても同一性保持権のような著作者人格権の権利者は著作者である馬場氏のままなのです。

 

著作権と著作者人格権の関係性

この同一性保持権は、作品の変更、切除などの改変を禁止する権利で、パーマ版は馬場版を改変しているので、同一性保持権の侵害になるというのが馬場氏の主張でした。しかし、パーマ版は新たな歌詞を挿入してはいますが、歌詞そのものに改変を加えたわけではありません。そのため、このような行為も同一性保持権の侵害になるのかは疑問だという声も多かったようです。

しかし、パーマ版は別の歌詞を挿入することによって、馬場版の意味とはまったく違うものに改変されています。また、馬場版をまったく知らない人がパーマ版の歌詞を目にしたら、パーマ版で挿入された部分の区別はつきません。このような手法はやはり、歌詞の一部を改変してしまう替え歌と同様、馬場版に対する改変として同一性保持権の侵害ということになってしまうでしょう。なお、替え歌といってもオリジナルの歌詞の痕跡をとどめない程度の大幅な改編をした場合には、まったく別の作品であるとして同一性保持権の侵害とはなりませんが、その線引きは微妙で、どの程度改変すればセーフなのかは一概にはいえません。

Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2003年骨董通り法律事務所設立、2009年より島根大学法科大学院教授。著書に『出版・マンガビジネスの著作権』社団法人著作権情報センター(2009年)など。 http;//www.kottolaw.com/
桑野雄一郎
※Web Designing 2017年6月号(2017年4月18日発売)掲載記事を転載

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