「考え方の順番」を考える 事例詳細|つなweB

アクセシビリティというのは開発現場においてしばしば後回しにされがちな印象があります。近年はその意識も高まっているものの、まだまだ敬遠されがちな領域だと思います。

僕自身も昔そうだったのですが、まずアクセシビリティというとスクリーンリーダーへの対応や配色への配慮など、障がいを持った方に向けた対応のみであると誤解されがちです。そういった認識でいると、ユーザーのどのくらいのパーセンテージが該当するのか、というような話になってきて、十中八九開発の優先度を下げられてしまいます。

ただ情報にアクセスしやすいかどうかという、アクセシビリティの本質を考えるともちろんそれだけではなく、ユーザーのさまざまな状態・状況・属性などを考慮しなければなりません。けれども、私が経験した複数の現場ではアクセシビリティという名称が付いていることで、何か特別なことをしなければならないという認識になってしまうことがありました。もちろん少し調べれば決してそうではないことはわかるのですが…。

結局はどこまでも自分のユーザーと向き合い、どんな状態のユーザーが閲覧するのかを把握してデザインを進めていくかでしかなく、WCAGのようなガイドラインもその過程で有用に活用すべきツールであると、僕もあとから学ぶことができたのでした。

ところで、こういった原則がある程度決まって、守るべきルールができてくると、とかく警察のような振る舞いをする人が出てきます。近年ではデザインシステムなどでも同じ現象が見られますが、ルールやガイドラインが増えてくると、それを決めた人と従う人、すなわちそれを守る人と破る人が出てきます。ありがちな話ですが、こういうときは決まってHow(どうやるか)だけが伝わっていき、そもそものWhy(なぜやるのか)が抜けていってしまいます。

アクセシビリティにおいてもそういった状況に出くわしたことがあって、すごくぼかした例を用いますが、ポケモンの攻略サイトのようなものに躍起になってスクリーンリーダー対応をする必要があるのか、という状況がありました。この場合、そもそも目の見えない方がポケモンやテレビゲームをやっているのかという疑問が出てきます。もちろん対応しないわけではないかもしれませんが、確実に優先度は低くなっていきます。この場合はポケモンの攻略サイトを見るユーザーにとってどのようにすれば情報にアクセスしやすいのかを考えなければならず、それは必ずしもガイドラインに載っていないかもしれません。ルールやガイドラインが細かく決まっているものだとこういった状況になりやすいので、思考停止でポリスメンになってしまうことには気を付けたいものです。

個人的にアクセシビリティはインクルーシブデザインの文脈から考えるのがしっくりきます。カタカナを並べ立てて恐縮なのですが、要は「考え方の順番」についての話です。できるだけ誰も取り残さないインクルーシブな思想があることが重要であり、HowとWhyの話し同様に「アクセシビリティに取り組もう!」という姿勢が先行してしまうと色々ズレていってしまう恐れがあります。

近年ではアクセシビリティに取り組む企業がその叡智をガイドラインやデザインシステムに組み込んで公開してくれており、それらを有効活用しない手はありません。これらはとても便利ですし有用ですが、ルールやガイドラインからは何か新しいものが生み出されることはないことも忘れずにいたいものです。あくまで、よりインクルーシブなデザインを実現するためのツールとして、先人たちの知恵を有効活用したいものです。

 

今回の原稿は出張先のメキシコシティのカフェにて執筆。メニューが全く読めず、よくわからない昼食を食べたあとなので、アクセシビリティの重要性をひしひしと感じながら書きました

 

三瓶亮
株式会社フライング・ペンギンズにて新規事業開発とブランド/コンテンツ戦略を担当。また、北欧のデザインカンファレンス「Design Matters Tokyo」も主宰。前職の株式会社メンバーズでは「UX MILK」を立ち上げ、国内最大のUXデザインコミュニティへと育てる。ゲームとパンクロックが好き。 個人サイト: https://brainmosh.com Twitter @3mp

 

三瓶亮
Web Designing 2023年4月号(2023年2月17日発売)掲載記事を転載

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