リアルな出会いと対話がもたらすもの 事例詳細|つなweB

ここ数年、私たちの業界で一番変わったことといえば、やはりリモートワークの加速です。テック業界では僕のように元からリモートをしていた人もいるとは思うのですが、これだけたくさんの人がシフトするといろいろなところに影響がでます。

私は以前、UXデザインのコミュニティ「UX MILK」を立ち上げたり、今はSpectrum Tokyoという新しいデザインコミュニティを運営しているのですが、これらを通してよく勉強会やデザインイベントを開催しています。こうしたイベントは主に、同じ業界のプレイヤーたちが各々の体験をシェアしてくれることで、より実践的なナレッジを得ることができる場です。オンラインにシフトしていくことで、より多くの方にナレッジを届けられるし、そういった点では良い世界になったなと思ったものでした。実際にオンラインイベントをやり始めた頃、多くの地方の方に感謝されたのをとても覚えています。

ところがコミュニティ運営者の観点から言うとその良さはある種の虚像で、実際はここ数年多くの方がキャリアの停滞を感じているように見えます。少なくとも私はそう感じています。

では、私たちには今何が欠けているのでしょうか? 私の視点から見ると、それは圧倒的に「人との出会い」が不足しているからなのではないか、ということです。SNSやオンラインイベントで新しい人と知り合うことももしかしたらあるかもしれませんが、私がここで言いたい出会いというのは、リアルの場で、さらに偶発性のあるものです。つまり上述のイベントなど不特定多数がいる場所での出会いのことです。こういう場では主に懇親会や、人と接する機会が必然的に多くなりますが、そういった場所で人と出会うという行為にはナレッジを得る以上の価値がたくさんあります。

まず、自分のことを多くしゃべることになります。自分のことを知らない誰かに向けて話すというのは思考整理にとても良いですし、自分のやってきたこと、やっていることの簡単な棚卸しになったりもします。また、時には波長の合わない人と話すことにもなりますが、しかし久々にリアルな場に行くと、いかに自分が話しやすく楽な人とばかり会話していたかを実感します。もしくは、自分が話しづらい人間であることを実感するケースもあるかもしれません。

いい出会いやそうでもない出会い、居心地の良し悪し等も含めて、“実世界を知る”ことが大事なように思います。世の中では実際どんな人が、いかなるレベルや温度感で仕事をしているのか、自分がその中でどんな立ち位置にいるのか。それを掴めるのが、リアルで人と出会うことのキモだと思います。

SNSなどを眺めていると、誰もが立派に見え、つい自分の至らなさに焦点を当ててしまい、孤独に悩んだりもします。人に会うと焦ることもあれば、逆に意外と皆が悩んでいたり、ダメな部分もあるのがわかります。そうした人間臭さに触れることで、また明日も頑張ろうと思えるのではないでしょうか。

ネット上にはあらゆる人が存在していて、話そうと思えば誰とだって話せるし繋がれるのに、自分が本当に繋がりたいような人に限ってフォローすらできていなかったりするんですよね。ネット上で声の大きい人ってほんの一部で、実世界に開かれた出会いの価値に気付くと、自分が世界のごく一部しか見ていなかったことを実感します。

昨今ではWeb制作者の役割やスキルも多様化しています。選択肢が多い上にほとんどが不明瞭です。きっと正解なんてありません。だからこそ、同業者とのリアルな出会いとその場の何気ない対話に救われる場面も多いのではないでしょうか。それが、私が今日もコミュニティ運営をする理由です。

 

2022年5月にオフラインで数年ぶりのデザインイベント「DESIGN MATTERS TOKYO」を開催しました。私の想像以上に、参加者の皆さんが対話に飢えていたようで、とても盛況でした

 

三瓶亮
株式会社フライング・ペンギンズにて新規事業開発とブランド/コンテンツ戦略を担当。また、北欧のデザインカンファレンス「Design Matters Tokyo」も主宰。前職の株式会社メンバーズでは「UX MILK」を立ち上げ、国内最大のUXデザインコミュニティへと育てる。ゲームとパンクロックが好き。 個人サイト: https://brainmosh.com Twitter @3mp

 

三瓶亮
※Web Designing 2023年2月号(2022年12月16日発売)掲載記事を転載

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