AIチャットボットはスモールスタート可能! 費用から運用まで 事例詳細|つなweB

1 チャットボットで見込める効果とは?

チャットボットを導入して見込める効果は、大きく分けて2つあることを知っておこう。

Webサイト上でのコミュニケーションを自動化してくれるチャットボット。導入することでどんな効果を見込むことができるのかというと、具体的に2つのポイントを挙げることができる。

(1)応対オペレーションコストの低減
(2)コミュニケーションの心理的ハードル軽減による誘導

(1)の「応対オペレーションコストの低減」についてはそのメリットを想像しやすいはずだ。どんな企業のWebサイトにも必ず置かれている「よくある質問」「FAQ」「お問い合わせフォーム」といった、ユーザーとコミュニケーションをとるページ。その内容の拡充に力を入れている企業も少なくないだろうが、いくら充実を図っても、電話での直接問い合わせやメール対応はなかなか減らないものだ。

これらにかかってしまう人的あるいは時間的工数の一部をボットに代行させることで、コストを低減しようというわけだ。すでに国内事例も多く、LOHACOのFAQ対応ボット「マナミさん」や、横浜市の「ゴミ回収方法に関する問い合わせ応対ボット」(P062参照)などはよく知られている。これらは結果としてサイトを訪れるユーザーに対してのユーザビリティ向上にもつながった好例だ。

ボットを導入するもう一つのメリットは、(2)の心理ハードルを低減しようというケースだ。向こう側に人間がいないからこそ、本音に近い言葉が、ライトにやりとりできる。たとえばいくつかのクイズのような質問を投げかけ、そこからユーザーのニーズを類推するといったやり方がそれにあたる。

チャットボットには大きく分けて2つの狙いがある。手間の低減とユーザーの心理ハードルの軽減だ。それらの事例を集めた

LOHACOのFAQ対応ボット「マナミさん」
横浜市のゴミ回収方法に関する問い合わせ」ページより
ライフネット生命「ラネット君」

 

2 AI搭載型と非搭載型の 違いはどこにあるの?

チャットボットがAIを搭載する理由は、会話そのものを自然に進められることだ。

現在のところチャットボットには大きく分けて「スクリプト固定型」と「AI搭載型」の二種類が存在する。

スクリプト固定型は、文字どおりあらかじめ設定されたスクリプトでのやりとりを前提としたモデルのことだ。ユーザーの「おはよう」という発話に対し、ボットが「おはようございます」と返信するよう設定するもの。この場合、ユーザーが「おっはー」と入力すると返信不能となってしまう。このため、スクリプト固定型ではユーザーからの発話や行動は基本的に選択肢から選んでもらう設計になる。

導入コストも低く、気軽にはじめられる反面、ユーザーに不自由なく利用してもらおうと思うと精緻な設計が必要になってしまうという難点がある。

「AI搭載型」はその欠点である、設定した発話から少しでもズレると応対不能になる部分を解決したものだ。事前の学習が必要だが、ユーザーが入力した内容に部分的な一致があれば内容を類推できるようになる。

AI搭載型チャットボット処理イメージ
AIを搭載したチャットボットは学習を行うことで、完全に一致するわけではないが、同じような意味の発言を理解できるようになる。それは上のような仕組みが動いているからだ

 

3 チャットボット導入に必須の作業とは?

チャットボット導入に必要なのはプログラミングではなく、会話の設計だ。

では、チャットボットを導入しようとなった時にはどんな作業が、どの程度必要になるのだろうか。右下にその流れを書き出してみた。組み込みに際して利用する環境やプラットフォーム、および「フレームワーク」と呼ばれるボット作成用サポートツールの種類によっても異なってくるが、大枠で4段階の工程が必要となる。

なかでも多くの時間的コストが必要となるのが1の「シナリオ設計」と、2の「対話スクリプト作成」だ。これは「何と聞かれたら、何と答えるべきか?」という部分の、すなわちチャットボットの心臓部となる部分の設計だ。聞かれたことにただ答えるだけで目的を達成するというのであれば、そこまで考えずに、Webサイトで公開しているFAQを転載すれば良い。だが、その先にある、「ユーザーにとってよりリッチな体験」を提供しようと考えた場合、ここはそれなりに考えなければならないポイントとなる。

当たり前の話だが、何を尋ねても「ここははじまりの村です」とだけしか答えない一昔前のRPGのキャラクターのような回答では、愛着を感じるユーザーは少ない。では、どうするか。ここであらためて下の図?を見ていただきたい。これは我々(BITAデジマラボ)が実際にボットの対話を設計する際に用いている基礎的な設計メソッドの一部となる。ユーザーの発話をいくつかの類型に分類し、それぞれに対して、ボットにどのような振る舞いを期待するかという観点をもって設計をしていく。

大規模なプロジェクトの場合だと、ここで数千~数万通りの対話を設計することもある。が、まずは数通りのスクリプトだけで運用しても、それなりの効果が見込めるはずだ。

ごく小さな規模からスタートしてみるのも悪くないというのは、ユーザーからの実際の発話やアクション履歴を取得し、随時改善や対応を行っていくことで、いちはやく、精度の高いチャットボットに進化させることができるからだ。AIは学習によってさらに進化するということを覚えておこう。

さて、ここまでチャットボット導入における期待効果と実際に導入する場合のコスト感について述べてきた。漠然としていてわかりにくいと感じることの多いチャットボットだが、スモールスタートを前提に考えるなら、導入のハードルはそれほど高くない。効果がどれだけ上がるのかはやってみないとわからない部分もあるが、話題の先端的手法でもあるため、リリース時にはプロモーション的効果も期待できるだろう。先行投資の価値は十分にある。

チャットボット導入費用目安
AI非搭載型(スクリプト固定型)のボットと搭載型ボットそれぞれの導入費用の目安を紹介しよう。実現したいサービス内容によっても大きく変わるので目安として捉えてほしい
チャットボット作成の流れ
AI搭載型チャットボットを導入する際にはどんな作業が必要になるのだろうか。ここでは大きく4段階に分けてその流れを紹介している。特に大事なのが(1)や(2)の工程だ
Text:中村健太
AIやbotなど、先端テクノロジーとマーケットをつなぐ専門メディア「BITA デジマラボ」のプロデューサー。日本ディレクション協会の会長も務める
中村健太
※Web Designing 2017年6月号(2017年4月18日)掲載記事を転載

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