アウトソーシングも検討。ECサイト運営のバックヤード管理術 事例詳細|つなweB

売上が伸びてきたとき、壁となるのがバックヤード業務。後手に回らないための対策について、バックヤード業務を中心に全方位でのEC事業のサポートを行っている株式会社スクロール360の皆様にお話を伺いました。

 

館 安博
株式会社スクロール360 営業部 営業課課長 https://www.scroll360.jp/
中山 健人
株式会社スクロール360 ソリューション戦略部 ECコンサルティング課課長
大野 恭典
株式会社スクロール360 フルフィルメント部 ロジサポート第2課 ロジサポート東日本ユニットユニット長

 

EC需要の波に乗る明暗を分けたポイントとは

2020年以降、コロナ禍の影響による巣ごもり需要で、ECに関連する物流量は全体で見ると堅調な伸びを記録しています。ただし事業者個々で見ると、売上が例年比の2~3倍になった事業者も多い一方で、微増に留まった事業者もおり、明暗が分かれた印象です。

その差は、従来からECのシステムを顧客との関係づくりに活用できていたかどうかが大きいです。わかりやすいところでは、メールマガジンやLINEでの配信です。消費者の在宅時間が増え、これらの開封率が上がったことから、タイミングよく顧客にリーチできた事業者はそれをきっかけに、店舗からECサイトへの顧客のスライドや休眠顧客の掘り起こしに成功した事例がありました。反面、コミュニケーション手段を実店舗に依存していた企業では、需要の喚起やニーズの吸い上げが難しくなったという声も聞かれました。

また、特に食品に関連する分野では、店舗営業や卸販売が振るわず、EC通販に活路を求めて新規参入あるいは再始動する事業者も多くなっています。このケースについても結果は二極化しており、それには前述の既存顧客との関係性のほか、もうひとつ特徴的な要因があると考えています。それが、販売商品を管理する意識の有無です。

もともと在庫や出荷に関するルール化が進んでいた事業者はECへの転換もスムーズに進みましたが、そうした土台がないままトップダウン的にECにシフトしようとしたケースでは、受注量がキャパシティを超えた際、急増したバックヤード業務に現場スタッフの意欲がついていかない、アウトソーシングのためのルール化も間に合わない、その結果、出荷制限をかけざるを得ず、上手く機運を掴めなかった事例も多かったように感じます。

EC需要は一過性のものではなく、今後も継続すると考えられます。受注増加の一方で、それに対応するリソース不足を感じている場合、バックヤード業務の見直しが有効な一手となるかもしれません。

 

こんな兆候は要注意バックヤードの黄色信号

注文が入ると当然に、受注から配送完了までの一連の業務(フルフィルメント)が発生します。また、商品登録などを含む広義のバックヤード業務も、EC事業を拡大する中では増加します。

ここで受注の伸びと対応キャパシティとのバランスが崩れると、梱包や配送のミス、出荷遅延といった、顧客に対する直接的なサービスの低下を招き、慢性化すると、社内的にも残業時間や離職の増加につながります。

こうした悪循環の兆候は問い合わせ数の増加に表れます。カスタマーサポート部署がある場合は、その残業時間や対応漏れ件数も確認すると良いでしょう。より精確には、出荷数に対する問い合わせ件数の割合に注目します。

問い合わせがある、ということは、顧客にとってなにか問題があるわけです。そこで、その内容を、商品、配送、支払い…というように分類していくと、改善点が見えてくることがあります。例えば、商品に関する問い合わせが多ければ、サイト上の商品説明を見直す。支払いに関する問い合わせが多ければ決済システムを見直すといったことです。

そうした改善で不必要な問い合わせ対応の負担を減らしながら、問い合わせが偏っている箇所、多くは配送であることが多いですが、そこに重点的に人員のリソースを割り当て状況の改善を図っていきます。

問い合わせがあれば、対応せざるを得ないのは自明のことです。しかしその結果、真に必要な業務にリソースが割けていないとすれば、それ自体がEC事業の危険信号といえます。

顧客に商品をお届けするバックヤード業務は、サービス品質に直結する部分です。EC事業に力を入れ、Webサイトやプロモーションを向上させるのであれば、同時にサービス品質も向上させる必要があります。サービスレベルの統一を意識し、全体像を見ることが重要です。

 

01 問い合わせを分類してボトルネックを知る
問い合わせは漫然と件数で判断するのではなく、分類して、問題となっている箇所を見つけるために活用しましょう。

 

暗黙知を洗い出せ!バックヤード業務改善の処方箋

自社ECサイトの運営体制で足りていない要素を整理しながら、並行して進めたいのが、自社ECサイトを通じた最適な「顧客体験」を提供するための準備です。自社ECサイトを手がける背景には、例えば、3大ECモール(Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピング)の出店だと価格競争に巻き込まれるのでは、という懸念からという理由もあるでしょう。自社ECサイトだと、自社商品・サービスの独自性や強みを伝える場として専念した設計が可能で、その上で適切な機能が求められます。

ここでの「顧客体験」とは、自社商品やサービスもしくは自社ECサイトを知ってもらうこと(=認知)から、自社ECサイトを訪問しコンバージョン(購入など)へと至り、継続的な購入などロイヤルティが深まっていく一連の流れを総称して用いることとします。

そう考えると、優先的に対策したいのは、自社ECサイト内で商品やサービスの魅力が伝わる状態を提供することと、つくり上げた世界観を知ってもらうための認知・集客対策の2点です。

前者の世界観づくりでは、自社商品・サービスの独自性や、自社ブランディングを確立し、「この商品だから購入したい」という状況をユーザーと共有する必要があります。ユーザーにとって何がどう最適なアプローチなのかを探るには、顧客理解があってこそ可能です(02)。

ユーザー(お客様)が状況によってどう感じ、どのような行動をとるのか? ユーザーの状況(認知や購買、その後の継続性など)にあわせて、ユーザーの立場で想定し、どういったコンテンツを求めているのかを突き詰めるべきです。商品・ブランド側が伝えたい訴求点と、ユーザーが「いい!」と感じるツボは得てして違うものです。

顧客視点を念頭に、自社ECサイトは客観性を持った全体設計が求められます。顧客理解が深まることで、ECサイト内での伝え方や、実装された機能の取捨選択なども、根拠に基づき的確に判断できるのです。

 

02 「暗黙知」を洗い出し、属人化を防ぐマニュアルをつくる
プロジェクトは、関連するメンバーの心理的安全性を確保するため、改善後のビジョンを共有しながら進めましょう。

 

EC事業拡大のため事業計画や拡張性を意識する

自社ECサイトで、自社商品・サービスの世界観や強みがしっかりと伝わるようにするには、「顧客理解を深めることが出発点」と確認してきました。顧客理解を深めるためには、自社商品やサービスについて、さまざまな角度・側面から「なぜ」を追求していきましょう。追求した内容を自社ECサイトへとフィードバックし実際に反映できれば、状況の改善が期待できます。

私たちが相談を受ける場合、自社ブランドの定義について突き詰めるためのフレームワークや、自社商品やサービスのあり方を深めるためのフレームワークを用意して、具体的に「なぜ」を追求しやすくしています。ここでは一例として後者のフレームワークを紹介します(03、04)。みなさんが自社ECサイト運営で行き詰まっていたら、03と04の空欄を埋めてみましょう。ECサイトが、運営側の思い込みや勘違いが混ざったままの「独りよがりな自動販売機」のような状態になっていないでしょうか? フレームワークを通じて、自社商材について項目別に「なぜ」そうなのかを追求し、出てきた要素を自社ECサイトに反映しましょう。自社ECサイトが自社商品やサービスに関わる体験ができる接点となるためには、顧客理解に基づいて、このように具体的に深堀りしながら内容を見直すことが大事です。

実際にこうしたフレームワークを用いれば、リモートワーク体制でもチーム内の見直しがしやすいです。ステークホルダーが参画するワークショップを(リモート or リアルで)開いてもいいでしょう。すでに自社商品・サービスにファン歴の長いユーザーがいるなら、ユーザーの協力を得てデプスインタビューを行い、その内容も加味したり、ワークショップにユーザーも参画する形にして、フレームワークを突き詰めていく方法もあります。リニューアルに求められる条件や猶予も勘案しながら、活用しましょう。

 

03 拡張性を意識した事業計画
バックヤード業務改善は、注文増加後の後手にまわらないことがポイント。そのためには、事業計画とマンアワー(1人1時間あたり)の作業量を意識した「管理する」視点が大事です。

 

アウトソーシングのメリットと連携体制づくり

バックヤード業務のアウトソーシングというと、やはりフルフィルメントが一番に挙げられます。フルフィルメントと呼ばれる受注から配送までの一連の業務を外部委託する一般的な流れとしては、まず、事業者が需要予測から出荷計画を作成し、それに基づき、フルフィルメント業者は自社の倉庫に在庫を預かります。そして、在庫管理ルールや受注処理のフロー、梱包や同梱物、配送業者などについて事業者と取り決めます。この際、積極的にマニュアル化を提案してくれる業者のほうが、専門的知見も多く、社内の業務効率化全般に役立つ意見を出してもらえるかと思います。

また、突発的に注文が増加した場合にも、すでにアウトソーシング化が進んでいれば、フルフィルメント業者側でスポット的に増員を手配し、出荷遅延や出荷制限を起こさないよう対応することも可能です。こうした緊急時の連携もまた、知見やリソースを持った専門業者に委託するメリットです。

規模が小さい事業者の場合、商品登録が日々の業務の負担になっているという声も聞きます。その場合、採寸・撮影・原稿を意味するささげ業務も、内容がある程度定型化されており、アウトソースしやすい部分と言えます。

仕入れ販売の場合、メーカーから写真や情報は支給してもらえる場合も多いので確認してみましょう。また、モール系ECサイトに必要な白背景画像も自動化ツールや、ささげ業者を活用して効率化を図ると良いでしょう。

商品登録は投資に属する業務です。それを負担と感じる場合、入荷・販売計画を見直すことも必要です。

どの業務をアウトソーシングするにしてもコストはつきものです。その際、単純な人件費との比較ではなく、アウトソーシングで余剰となったリソースをよりコアな業務に割り当てることで生まれる利益も含め、全体的な費用対効果で考えることが肝要です。

 

04 フルフィルメントをアウトソーシングする
物流を円滑にアウトソーシングするには、需要予測や、自社の要望やルールを整備しておくことが大事です。

 

お届けの瞬間は最大のチャンス顧客関係を築く梱包

EC事業の成功には、顧客との関係構築が不可欠です。そして一注文の最後の接点となるのが梱包です。

梱包は、顧客が商品とはじめて出会う瞬間の演出であり、企業イメージを印象づける顧客体験です。そのため、企業ロゴの入った包装紙を用意したり、格式の表現に風呂敷を用いた事例もあります。逆に、SDGsを実践する顧客への配送や、そういった企業姿勢を示したい場合には、豪華さを排して簡素な包装にするケースも増えてきています。

関係性を継続的なものにするには、同梱物も重要です。しかし、ただチラシ一枚だけでは読んでもらうことはできません。アパレルならブランドブック、食品の場合はレシピ集など、顧客が思わず読みたくなるものを制作し、同梱することがポイントです。

EC市場の拡大、すなわち消費者から見ると数多のEC事業者と対面する現状において、自社の印象を残すには、さらにもうひと押し、個別コミュニケーションや、あたたかみを感じさせる工夫が重要性を増しています。例えば、明細書に個別情報を印字するプリントオンデマンドを活用して、顧客一人ひとりにあてたメッセージを添えるといったことは広く行われています。そこで、スクロール360では、より一対一を感じさせるメッセージカードの「手書き」対応などの独自サービスを提供しており、現に導入企業も増えています。

この「ひと手間」にはもちろんコストはかかります。しかしながら、こういったひと工夫を行っている事業者は、リピート率や顧客ロイヤリティなどでおおむね良い数字が出ています。

梱包は、企業として伝えたいメッセージそのものです。ブランド作りの一環として企画し、アウトソーシングを適宜活用しながら最良の演出を行いましょう。

EC事業においては、配送までがブランドです。バックヤード業務を顧客体験を創出する過程と再定義することが、EC事業のブレークスルーにつながると我々は考えています。

 

05 梱包もまた、企業としてのメッセージ
お届けの際の「プラスアルファ」の工夫は、同梱物を読んでもらうためだけではなく、企業のブランドにもなっていきます。

 

Text:原明日香