DXの本質。取り入れるべきはサービスの「エッセンス」 事例詳細|つなweB

東京・神保町に開店した“ふつう”をあつらえる、ふつうじゃない定食屋。「まかない」「ただめし」「あつらえ」といったオープンな仕組みと、店主(女将)の想いに共感する人たちが日々集う“場”として、食事をメインに、新たな「価値」と「出会い」、「居心地の良さ」などを提供し続ける。 http://miraishokudo.com/

こんにちは。“あなたの「ふつう」をあつらえる”未来食堂のせかいです。

未来食堂はオフィス街の真ん中にあります。ランチだけで平均7回転を越えますが、そこは元エンジニア。様々な効率化を用いてピークを乗り切っています(たまに乗り切れなくて、てんやわんやのてんてこ舞いになるのはご愛敬)。たとえば、支払いをスムーズにするため、すべてのメニューを50円単位で設定しています。1円、10円などの細かい小銭の受渡しに時間を割くのが惜しいのです。

と、これだけならよく聞く話でしょう。未来食堂の真の効率化はここからです。「会計が50円単位しか存在しないならば、1・5・10円のコインケースは無駄である」と考え、レジからこれら小銭のコインケースを撤去しているのです。まれに10円玉で代金を頂いたり、業者さんへの支払いなどで小銭が生じるケースはありますが、それらはすべて「小銭BOX」に投げ込み、一日の終わりに集計しています。

「コインケースを置くくらい、別にいいんじゃない?」。ダメなのです。コインケースがあると、ついつい小銭を分けて収納してしまいます。しかし10円玉をキレイに並べることには何の価値もありません。なぜならば、お客様に10円玉をお渡しする可能性がゼロだから。お客様のためにならないことに、一秒でも時間をかけてはいけません。

最近は本も執筆し、書店でサイン会をする機会も増えてきました。本を一冊でも多く買って頂くために、ここでも見直したのが“支払い”です。トークショーが終わった後、「面白かったし、せかいさんの他の本も買ってみようかな」と思われた方のために即売ブースがあるのが常ですが、ブース前に行列ができていたらどうでしょう。「並ぶのだったら後日に買えばいいや…」と思って結局は、「今日は買わないで帰ろう」となるに違いありません。

なぜブースに行列ができるのか。私が出した本は3冊だけなので、商品を選ぶのに時間はかからないはず。そう、“お釣りの受け渡し”が原因なのです。たとえば、定価1,500円の本は税込で1,620円。この端数に目を付け「私が20円を支払うので1,600円で販売してください」と書店さんに頼み込みました。結果、予定していたよりも大幅に本が売れ、書店さんも喜んでいました。

お客様は“スムーズな支払い”がしたいのです。“Web決済”がしたいのではありません。「自社はWeb決済を取り入れるほどでもないし」。そうではないのです。取り入れるべきは“Web決済のエッセンス”であり、“Web決済”そのものではないのです。

カウンタ−12席だけの小さな定食屋でもできることがあります。きっとあなたの職場でも、できることはあるはずです。

 

 

※この連載のネタ帳はGitHub Gistにて公開しています。
http://miraishokudo.com/neta/web_designing
内容についてご質問、アイデアのある方はお気軽に。

Text:小林せかい
東京工業大学理学部数学科卒業後、日本IBM、クックパッドで6年半エンジニアとして勤めた後、1年4カ月の修行期間を経て「未来食堂」を開業。自称リケジョ。その他、詳しいプロフィールは公開されている情報をご覧ください。 https://goo.gl/XpwnMQ
小林せかい
※Web Designing 2017年10月号(2017年8月18日)掲載記事を転載

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