クラウドファンディングで資金調達
2019年7月、77人が1つずつ本棚をシェアして「ブックマンション」という名の本屋が開店された。企画/運営する中西功さんは、日本全国に本屋を増やしたい目的で、誰でも本屋を開店できる仕組みとして、本棚をシェアしながら本屋運営できる「ブックマンション」に取り組む(01)。東京・吉祥寺の空きビル1棟を借りて(「バツヨンビル」と命名)、地下1階に古本屋、1階はコーヒースタンド、2~3階は喫茶店やワークスペースを備える。運営のシェアも掲げて、まだ中西さんが店番する機会は多いものの、徐々に1カ月に1回ペースで本棚の借主が交代で店番をシェアする予定。現状は少しずつ実行中の状態だ。
運営資金は、2019年6月にクラウドファンディング「Readyfor」で支援者を募り、328人から約576万円を調達。リターンコースの中に「貸し本棚の利用権利取得枠」を設け、本棚シェアの賛同者を求めていた。結果、枠が埋まっただけでなく、現在は棚の空き待ち状態だという。
原点は無人24時間営業の古本屋
ユニークな仕組みが多くの賛同者を得た背景には、中西さん自身が以前から運営する無人古書店「BOOK ROAD」の存在がある。2013年4月、三鷹駅から徒歩13分の場所で弟とともに開店した、年中無休、24時間営業の古書店のことだ。今は脱サラしたが、当時はIT企業で働く会社員であり、店舗経営未経験者だった。
「きっかけは家にある1,000冊以上の蔵書の置き場探し。場所を占有するので家族に不評で、置き場所も兼ねて古本屋ができたらと考えたのです」(中西さん、以下同)
秀逸なのは「会社員でもできるには?」の発想のもと、実行できる仕組みづくりに余念がなかったこと。普段の会社業務がデジタルなので、「やるならリアル」を出発点に、安く借りられる場所、なるべく人手にも、管理や運営にも予算と時間がかからない条件を探り、行き着いたのが無人販売。野菜の無人販売所に何度も各地へと足を運び研究を重ねた末、路面店に。価格は300円、500円など設定を絞り、特製のガチャガチャにお金を入れて、持ち帰り用の袋を購入する形で、無人販売が成立する代金徴収を可能にした(02)。
「背水の陣で、“人生賭けて”だと難しいですが、複数あるタスクの1つが古本屋という考えで、ビジネスありきではなく、会社員でも継続できる負担の少ない仕組みなら、という発想で実行と継続運用に比重を置いたからこそ、できたのだと思います」
デジタル上で「話題にされる」が大切
本誌が特に着目したいのがデジタル活用の側面だ。実現の裏側には、ここまでのデジタルでの認知や拡散の積み重ねがないと、クラウドファンディングでの調達も難しい、と考えるからだ。現状、TwitterのアカウントやFacebookページは用意し、自らの発信は要所に限るかわりに、ブックマンションや無人古書店ネタのリツイートが多い。自らのコメント自体はそこまで頻繁に発信しない理由を率直に問うと、「話題にされることへの意識が強い」という。
「仕組みの継続には、“わざわざ行きたくなる”か、が大事な要素です。誰かが話題にしたくなったときに備えて、各SNSのアカウントは設けておいて、仕組みの理解や普及を進めながら、興味を感じた人が少しずつ話題にしたくなる存在になることを目指しました。例えば、全国各地の興味深い書店主さんのアカウントをフォローすると、相手もフォローしてくれることが多く、少しずつ仕組みの浸透を進めて、まずは共感してくれる循環をつくっていきました」 実際、相互フォローによって共感が広がりながら、書店主や本好きの人たちの感覚がつかめ始めたそうだ。こうした広がりが、やがて各種メディアの取材という形にもなり、さらにそのことがデジタルで拡散。いつしか近隣だけでなく“わざわざ”という来訪客へとつながっていった(03)。
集合体だから、拡散先も共有する
月額の棚のシェア代が、飲み代1回分を目安に決めたという3,850円。1冊売れるごとに手数料100円としたのは、本屋全体の質を維持したいから。100円をもらうルールをつくり、いらなくなった本を数十円単位で売る場になることを避けた(04)。
小さく現実的に始められるからこそ、少しずつ、全国問わず賛同者やファンが広がっている。筆者が取材した9月下旬時点で、来店者用のノートには、青森、静岡、長野、広島などから来訪した、という書き込みがあった。本棚のシェア側も、東京近郊だけでなく四国などから集結。リアルとデジタルの両方で、シェアしたくなる場所として醸成しながら実現中だ。
「78の本棚利用のみなさんが、それぞれでSNSをやると、さらにその先へと広がります。1つひとつは小さくても、シェアによって集合の恩恵が各本棚利用者たちに還元される循環を大切にしたいのです(05)」
今後は他フロアで展開するコーヒーや、別ジャンルのコミュニティづくりにも意欲的だとか。まだまだここからは、何かが生まれてきそうである。