人間性と柔軟性を重視したチームづくり 事例詳細|つなweB

2019年11月23日、24日の2日間、東京国際フォーラムにて開催されたデザインカンファレンス「Designship」。大盛況を収めたこのイベントの背景には、一般社団法人デザインシップ 広野萌さんのサービス構築の知見が生きていた!

“デザイン”の今までとこれからのあり方を考えた

デザインシップとは、デジタルデザイン、プロダクトデザイン、グラフィックデザインという3つのデザイン領域を融合させ、その最前線で活躍する人々の体験や話を共有するカンファレンス。2018年から開催され、今年で2回目を数える。なぜそれぞれの領域でスキルを極めていくようなものではなく、融合する場が必要だったのか?

「世界は今、第3次産業革命が終わり、第4次産業革命に移ろうとしています。これまではグラフィックデザイナーは広告を、デジタルデザイナーはUIをつくれたらいいと役割が分かれていました。しかし第4次産業革命の時代では “リアルな製品”と“デジタルサービス”が融合していくうえに、技術はどんどんコモディティ化していくためサービスや法人が持つ“ブランド”が競合優位性を発揮するようになります。そのため、その3つを対象とするプロダクト・デジタル・グラフィックのデザイナーは融合していくべきだと考えました」(広野萌さん、以下同) デザイナーに必要な場とはどんなものか考えた広野さん。エンジニアが主役のカンファレンスである、Android技術の情報共有とコミュニケーションを目的とした「Droidkaigi」やiOSに関する「iOSDC」のデザイン版のようなものがいいと思い至った。

 

3人の理事が、自然発生的に役割を分担した発足当初

DroidkaigiやiOSDCの形式に魅力を感じたのは、単に海外の事例を学ぶ勉強会や著名人の基調講演を聞くだけの講演会ではないから。現場で頑張るクリエイターが、意見やスキルを共有するのはすばらしいと感じていた。

「思いついた瞬間に、一般社団法人デザインシップで理事を一緒にしてくれている2人の仲間にFacebookでメッセージをしたら、“いいね”がすぐに返ってきました。その翌日に、まずは名前を決めたかったので集まって。リーダーシップやオーナーシップのデザイン版で、“デザインシップ”に決定。オンラインで商標が取れるサービスを利用して、その場で商標登録しました」

ここまで走りだしてはいたが、どのようなカンファレンスにするのか言語化されたものはなかった。ただあったのは、ベンチマークしているのがDroidkaigiやiOSDCなので、「1年に1回実施する」「500~1,000人規模で集客する」「第一線の話を聞きたいから、スピーカーは公募にする」ということ。それを具体化していくにあたり、TEDのようにまるで映画館や、劇場でひとつのショーを観ている気分になるような場を用意したい。そのためには、多くの資金が必要なので協賛金を募らなければ…など、やるべきことが見えてきた。

「初回なので、ワクワクするクリエイティブと、確固としたコンセプトが必要だと感じました。コンセプトは私が、クリエイティブはもうひとりの理事が担当。ティザーサイトを準備している一方で、別の理事が先行してスポンサー集めに奔走するなど、役割分担ができていました」

コンセプトを載せただけのティザーサイトが公開されたときには、すでに10社のスポンサーが決定。Twitterでも反響があり、核となるメッセージを発信することの大切さを痛感した。

これからの産業におけるデザインのあり方
これからの時代に求められるのは、隣のデザイン領域を最低限理解し、共にひとつのものづくりをしようとする姿勢。互いがなにをしているのかを知らないまま、一緒にものづくりをするのはとても危険なことなので、今こそデザイン領域の融合が必要だという

 

心掛けたのは、人間性を意識したマネジメント

準備が本格化すると、集まった仲間を6つのチームに配置。通常、タスクやスケジュールはトップダウンにしがちだが、広野さんたちはその権限を各チームリーダーに委譲した。

「各チームの力を最大限に引き出したかったんです。熱量が高いメンバーが集まっていたので、失敗するリスクは少ないと信じていました。リーダーには、突発的な出来事にも柔軟に指示が出せる人を任命。権限委譲しつつも、それぞれに統括理事をおいて、締め切りが間に合わなくても全体が崩壊しないようバックアップするなど、そのバランスがよかった」

広野さんが柔軟性のあるチームづくりを目指したのには、これまでのデザイナー・PMとしての経験やサービスを構築してきた経験が影響している。例えば株式会社FOLIOという会社でオンライン証券を立ちあげたとき。開発チームに集めたのは金融に興味がある人でも証券サービス開発の経験がある人でもなかった。

「私が一緒に働きたい人に、私が金融の良さを伝えることからチームづくりをスタートしました。途中で『やっぱりこっちがいい』となったとき、『確かに!』と柔軟に方向を変えられる人と仕事をするのは、すごく心地よかった!」

また、広野さんは“タスク”をデザイナーの原動力にしたいと考えた。

「例えば、サイトを公開するというタスク。『いつまでにつくってください』というと、それはやらなければならないものになる。しかし、『デザインカンファレンスにふさわしい革命的なインパクトで、脳がしびれるような最高のサイトをつくってください! 何日までに』と依頼すると、きっとデザイナーは燃えたぎります」

柔軟性を大切に、人間性を重視したチームこそがモチベーションを高めるということだ。

チームの構成
カンファレンスを実施するにあたり必要なものを、「スピーカー/スポンサー/ステージ/クリエイティブ/PR/当日オペレーション」の6つに分類。チームリーダーに、スケジュールやタスク管理、チーム運営の権限を委譲していたが、万が一のときには理事がバックアップ。その関係のバランスがチーム力につながる

 

組織のトップがすべきは“想い”の反復発信

プロジェクトを遂行するうえで、不確実性のあるリスクは不可避だ。正攻法のマネジメントなら、スケジュールにバッファを持たせるなどで回避する。しかし広野さんが目指していたのは、「危険な状況だけど常に120%の力を出し続けられる」マネジメントだった。

「今までのプロジェクトマネジメントは、“モノ”にフォーカスをしたものだと感じています。しかし、仕事もモノもコモディティ化していて、つくろうと思えばあらゆるものがつくれる時代。そのなかでは競合優位性となる要素に“人”が多くを占めると思っています。どう人を動かして、その人のポテンシャルを最大限まで引き伸ばしていくかが大切です。だからこそ私は、“つくる人”をフォーカスしたい。その人がどういうモチベーションだったらこのタスクを遂行できるのか、それによってプロジェクトが達成できるのかということを意識しています」

今の時代にフィットした組織は、人をベースにしたものだと考えた広野さん。その組織の機能を引き出すために、組織トップがしなければならないことは何か?それは、そのプロジェクトで実現したいことを、何度も繰り返して伝えることだという。

「チームを率い、プロジェクトを進めるときに私が譲れないことは、どういう価値観をもってプロジェクトを成功させたいと思っているのかを、伝え続けること。このサービスは誰にためにあり、どう社会に影響するためのサービスであると伝え続けていると、おのずと『こういう機能をつくったらどうですか?』などアイデアが出てきます」

コンセプトはトップダウン、タスクやスケジュールなどはボトムダウン。その割合がバランスよくできるとすばらしい組織ができる。結果としてそれが、いいアウトプットにつながるのだ。

組織トップがすべきこと
「組織トップがすべきことは、強烈なメッセージやコンセプトを掲げてブレずに発信し続けること。発信し続けると組織としての結束も強くなり、最終的にはメンバーがつくり上げるアウトプットのクオリティが高くなる」と、広野さんはいう

 

広野萌
一般社団法人デザインシップ 代表理事
八波志保(Playce)
※Web Designing 2020年2月号(2019年12月18日発売)掲載記事を転載

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