クロネコヤマトがロゴマークを変更した理由とは?担当者が語る真意 事例詳細|つなweB

クロネコとは? おなじみのマークに隠された秘密

「くろねこ」とは黒い毛色の猫を指しますが、「クロネコ」とカタカナ表記の場合は、「クロネコヤマト」の愛称で馴染み深い企業、ヤマト運輸を指すことが一般的です。ヤマト運輸が提供する宅配便サービスの商標である「宅急便」のブランドロゴはクロネコの親子、親ネコが子ネコを運ぶマークです。

クロネコヤマトのロゴマークといえば、クロネコの親子、親ネコが子ネコを運ぶマークが真っ先に思い浮かぶでしょう。ヤマト運輸の100周年記念サイトのコラムでは、おなじみのロゴマークの誕生秘話が語られています。

おなじみのマーク以外にも、複数種類あることをご存知でしょうか? 本記事では、2021年の経営統合に伴い開発された、新ロゴマーク誕生の背景がわかります。

当時のヤマト運輸(株)コーポレートコミュニケーション部係長、服部 亮太さんに語っていただきました。

Text:つなweB編集部

[Creative]64年変えていないマークを変更

宅配サービスの国内最大手、「宅急便」でおなじみのヤマト運輸(株)が、グループ会社7社と経営統合。2021年4月1日より、新たなヤマト運輸がスタートしています。そのタイミングにあわせて、ヤマトホールディングス(株)は、1957年の制定以降、長く親しまれてきたクロネコマークをデザイン変更したほか、同時に新サービスや新事業展開の際に使用するための「アドバンスマーク」を新設。他にも、コーポレートカラーは黒と黄をメインカラー、白とグレーのサブカラーを加えた4色へと変更、ヤマトグループの社名ロゴタイプも新たに開発されました。

一連のデザイン開発のパートナーには原研哉さんが就任。原さんと言えば、日本デザインセンターの代表取締役社長、武蔵野美術大学教授でもあり、国内第一人者のデザイナーです。

「新仕様への刷新を決断しましたが、これまで培ってきた親しみや信頼を継承した上で、新たな出発にふさわしい内容にしたい。両面の想いを具現化できる方として、原研哉さんにご協力いただきました。原さんには、ヤマトグループが新事業を立ち上げた際に用いる“アドバンスマーク”もご提案いただき、グループ全体が既成概念にとらわれない未来志向の象徴になるマークとなれば、と考えています」 

新しい「クロネコマーク」
「安心・丁寧」のシンボルとして使われてきた、親ネコが子ネコを大切に運ぶモチーフ自体は新旧変わりません。デザインを洗練した状態へとブラッシュアップし、未来志向への想いを込めたマークとして新たに開発されました。
新たな方向性を示すシンボル「アドバンスマーク」
クロネコマークが企業シンボルであるなら、アドバンスマークは事業シンボルとして新設。既成概念、既成の枠組にとらわれないヤマトグループの新たなサービスや事業、技術などの展開に対してシンボルとして使用予定です。
新仕様の利用イメージ
配送トラックや箱、封筒など、新マークや新コーポレートカラーが実際に利用されているサンプルイメージが公開されています。2021年4月1日以降、変更後のマークがデザインされた配送車や包装などを街中で目にする機会が徐々に増えていく予定です。

 

[Concept]新しいヤマトグループの象徴

新たなマークが開発された背景は、経営統合だけではありません。2021年1月に発表された、中期経営計画「Oneヤマト2023」や、その1年前に発表された中長期の経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」などでまとめられた「これからのヤマトグループへの想いや考え」が関連している、と服部さんは補足します。

「ヤマトグループは2019年に創業100周年という区切りを迎えました。新たな100年を進むにあたって、私たちはこれまで以上にお客様と真摯に向き合いたいと考えています。社会の変化とニーズに応えながら、新たな一歩を踏み出すために「Oneヤマト2023」や「YAMATO NEXT100」をまとめました。ヤマト運輸が中核となり、Oneヤマト体制下で実現していく新たな象徴として、マークを用意しました」

現在、ヤマトグループは全国に約4,000の物流拠点があり、約5.7万台の車両があるとされます。非常に多くの拠点があるからこそ、新仕様の運用が各現場に混乱を招かぬよう、4月1日から“一斉に”変更するわけではないそうです。意図的に一斉としない動きには、長きにわたり浸透してきた仕様を変える配慮の1つだとうかがえます。服部さんは「徐々に、時間をかけながら無理のない移行を目指したい」と話します。

「お客様からすれば、定着したものがいきなり変わると戸惑う可能性が高いです。ヤマトグループにとっても、多様な経営資源をもつため、一斉変更となると負荷が大きいだけに、無理のない変更を心がけたいです。例えば、車両の入れ替えやメンテナンスのタイミングで新マークをデザインした車両へと変えるなど、工夫しながら進める予定です」

新設したアドバンスマークも同様です。既存事業と一線を画する新事業に使われるマークのため、「新クロネコマーク以上に、世に出るタイミングを焦らず見極め、徐々に見慣れた状態をつくり出したいです」と服部さんは言い添えます。

経営体制を刷新。新組織体制へ
2021年4月1日より、ヤマト運輸と、ロジスティクスやファイナンスなどを行うグループ会社7社を統合。ヤマトホールディングスの下、ヤマト運輸はリテール部門と法人部門、4つの機能本部、コーポレート部門で構成される体制になりました。中核会社としてのヤマト運輸を起点に、スピード重視の意思決定を可能にする組織改編です。

 

[Action]ゆっくりと社内外での定着を

ヤマトホールディングスの3月1日付けのニュースリリースの中で、原研哉さんは「子猫をくわえて大切に運ぶ『クロネコマーク』は、日本人の共有財産のようなものであり、もはや環境デザインとも言える広がり」とも伝えています。それほど、国内全域の多くの人たちに浸透している状態だからこそ、今回のデザイン変更はさまざまな人に大きなインパクトを与える可能性があります。そこで、ヤマトグループとしてリニューアルを決断し実行した想いについて、「なぜ」「どのように」変えたのかを少しでもわかりやすく伝えるために、特設Webサイトや新マーク紹介動画も用意しています。

「デザインですので、どうしても賛否は出てきます。賛否にかかわらず、多くの人たちに少しでも真意を伝えながら、今まで以上の信頼を寄せていただける普遍的なマーク変更となるように、変更を決めた想いや過程、従来との違い、今後の利用イメージを伝えるWebサイトや動画を用意しました」

今回の刷新は、各グループを含めた経営層と広報グループには事前に周知されていた一方で、多くの社員は対外発表とそう変わらない時期まで、新仕様の中身や4月以降の運用について知らない状態だったそうです。特設Webサイトや動画は、初めて知った社員たち向けに経緯や狙いを知る機会にもしてほしい、という目的も込められているそうです。

4月からは運用がスタート。服部さんは「これからが大切」と気を引き締めます。

「これまで培った信頼を受け継ぎながら、みなさんに定着するマークへと成長させたいです。私たちにとって初めての変更ですので、今後は予期できない事態も想定しています。運用を通じて、問題点には柔軟に解消しながら、ヤマトグループへの信頼を醸成することが重要です。数年後か、もっと先かはわかりませんが、お客様にも取引先様にも受け入れてもらえる状態、私たち自身も変えてよかったと思える取り組みにしたいです」

特設Webサイトや新マーク紹介動画
特設Webサイトでは、刷新にあたっての想いをまとめた、複数の動画を用意するほか、マーク細部の変わった箇所についても解説。そのほか、新デザインを施した車両や箱、包装なども披露されています。変更への理解を少しずつ深めてもらえるよう、キャッチーな形で新仕様の醸成を図っています。 https://www.yamato-hd.co.jp/pr/logo2021/

 

Interviewee:服部 亮太さん
ヤマト運輸(株)コーポレートコミュニケーション部係長

 

Text: 遠藤義浩
※Web Designing 2021年6月号(2021年4月16日発売)掲載記事を転載

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