─ オンラインでの顧客体験価値を向上させる取り組みは、どのような背景で始まったのでしょうか。
従来より、自社施設における魅力的な体験提供のために、顧客データの活用を実践してきました。ただ、Webサイトを通じたオンライン体験に関しては大きな課題がありました。ホテルWebサイトの訪問者には、宿泊先候補を比較検討している人もいれば、すでに予約後で旅行の計画を立てている人もいます。目的も属性もさまざまな人が訪れるにも関わらず、誰が見ても様変わりしないWebサイトを公開していたわけです。そこで、Adobe Experience CloudのAI技術を活用して、顧客やWebサイト来訪者の膨大なデータを活用し、訪問者に最適化された情報提供を試みました。
─ 具体的には、貴社サイトを訪れた人に対して、どういった形で情報を提供しているのでしょうか。
「弊社施設を利用したことのない人なのか、よく使ってくれている人なのか、一度は利用したもののリピートしてくれていない人なのか」「車で訪れる人なのか、飛行機で訪れる人なのか」「旅行前の人なのか、旅行中の人なのか」、さまざまな要素を解析し、訪問者のセグメント化を行います。複数の要素の組み合わせで判断する点がポイントで、趣味嗜好まで明らかにする高精度の解析を実現しています。そして、セグメントごとに最適化された情報を、訪問者ごとに出し分けるわけです。
例えば、宿泊施設のページにおいて、未予約の人に対しては各人にパーソナライズされたおすすめの客室情報が表示される一方で、予約してくれている人には、客室の情報ではなく施設周辺の観光情報などが趣味嗜好にあわせた形で提供されます。また、最新情報を伝えるスペースでは、ある人には「今夜のステージに出演する人の情報」、ある人には「レストランのメニューの情報」を表示し、各人の趣味嗜好にあわせた形で「行きたい」と思ってもらえるようにします。こうしたユーザー目線を取り入れた仕掛けがコンバージョン率を向上させ、事業にもいい影響を及ぼしてくれました。2018年より本格的に力を入れている取り組みですが、現時点では、一定の成果を収めていると自負しています。
─ 今後、デジタルマーケティング施策を、どう推進していきたいですか。
AI技術を時間帯別の客層分析などにも役立て、施設利用客の満足度向上を図りたいと考えています。すでに、Webサイトと同じ基盤を活用して施設内や屋外のサイネージで情報発信するなど、リアル空間も改めて意識しており、これからもオンライン・オフラインの両方から顧客体験の価値向上にアプローチしたいです。また、デジタルマーケティングに留まらない話ですと、新しい市場を開拓し続けたいと考えています。日本の方々にも統合型リゾート(IR)の魅力を知ってほしいですね。